157.慟哭と謝罪
「ここが……俺達の町だって……?」
「チクショウ! 何も残ってねえじゃねえか!」
『骨喰い将軍』を討伐することに成功したが、『カンパニー』によって町は爆破。跡形もなく破壊されてしまった。
人質になっていた女性達を救出することはできたが、取り返しのつかない犠牲が生じている。
「俺の店が……親父から引き継いだ店が……!」
「兄貴は殺されちまった……俺達が何をしたって言うんだよ!」
「夫はどこ? 夫を返してよお……!」
戻ってきた村人が口々に罵って、絶望にへたり込んでいる。
「なあ、アンタ……」
そんな中。
町民の一人がカイム達のところにやってきて、ミリーシアに話しかけてくる。
「あのジジイは俺達に金髪の若い女を連れてくるように言っていた。その女ってのは、アンタなのか……?」
「……はい、その通りです」
「だったら……俺達はアンタの巻き添えで襲われたのか?」
「…………」
「家を無くした、妻や娘を傷つけられた、家族や友人を殺された奴だっている……それが全部全部、アンタらのせいだっていうのか……!」
「……その通りです。あの老人は私を狙っていて、そのために皆様を利用しました」
ミリーシアは言い訳をすることなく、その事実を受け入れた。
男の顔がカッと赤くなり、憤怒の表情になる。
「テメッ……」
「大変、申し訳ございませんでした」
怒鳴りつけようとする男であったが……それよりもわずかに早く、ミリーシアが謝罪した。
腰を直角に折り、丁寧な所作で頭を下げる。
「このたびは私の事情に巻き込み、皆様を傷つけてしまって申し訳ございませんでした。すぐにとは言えませんし、金銭で済ませられることではないとわかっています。それでも、最大限の補償をさせていただきます……本当に申し訳ございませんでした」
「…………!」
ぐうの音も出ないような潔い謝罪。
そこに上っ面ではない誠意を感じて、男は思わず言葉を呑んでしまう。
ミリーシアは服装こそ一般的な平民の衣服を身に着けているが、所作や話し方からして高貴な生まれであるとわかる。
そんな彼女が平民に頭を下げている。
身分差の激しい封建社会において、それがどれだけ重いことかは平民の男にもわかるだろう。
騒ぎを聞いてこちらに目を向けていた他の町民もまた、驚いた表情をしている。
「グッ……うう……」
怯んだ男であったが……だからといって、今更引くに引けない。
ミリーシアの謝罪が本心であることはわかったが、それでも失った物が大き過ぎた。
言葉一つで、町が滅んだことを水には流せない。
「お前……おま……!?」
やるせない怒りをぶつけるべく、男は頭を下げているミリーシアに掴みかかろうとする。
しかし、直前で手を止めることになった。
「…………」
ミリーシアの後ろにカイムが立っていて、男を冷たく見据えている。
カイムの隣にはレンカもいる。こちらは剣の柄に手を掛けていた。
二人の目は静かではあったが、確実に殺気が込められている。
もしも男がミリーシアに指一本でも触れていたら、確実に大きな悲劇が降りかかっていたことだろう。
「……好きだったんだ、この町が」
男は仕方がなしに拳を下ろし、ポツポツと言葉をこぼす。
「生まれ故郷だったんだ。親父から受け継いだ形見の店もあった。それなのに……」
「……申し訳ございません」
「ウルセエ!」
男が地団太を踏み、叫んだ。
「さっさとどっかに行っちまえ! 二度と姿を見せるな!」
「…………」
滂沱の涙を流しながら叫ぶ男に、ミリーシアは頭を下げ続けた。
「…………」
「……姫様」
ミリーシアを見守るカイムとレンカは気がついた。
伏せられたミリーシアの顔からポタリポタリと涙の滴が落ちて、地面を濡らしていることを。
カイムと仲間達は滅んだ町を後にした。
町の代表者には領主に宛てて、ミリーシアが保護を願い出るように書状を書いて持たせた。
さらに、ミリーシアが個人的に持っていた金銭の大部分と貴重な食料を渡して、いずれ正式に補償することを誓ったのであった。




