156.爆炎の余韻
真っ赤な炎が町を一瞬で蹂躙し、そこにあった建物をことごとく破壊した。
黒煙が空に吸い込まれていき、青い空を不気味なまだら模様へと染め上げる。
町の中心にある広場にいたカイムとミリーシアに逃げる手段はなく、爆発に巻き込まれることになった。
「クソッ……いったい、何だったんだ……?」
「コホッ、コホッ……死ぬかと思いました……」
しかし……カイム達は生きていた。
爆発の直前、カイムがミリーシアを抱きかかえて巨人スケルトンの内部に避難したのだ。
巨人スケルトンは圧縮された骨によって作られており、表面をミスリルによってコーティングされている。
カイムの一撃に耐えるほどの強度があり、爆発を見事に防いでくれた。
「魔法攻撃とは違うな……魔力を感じなかったが……?」
「爆発物が隠されていたのかもしれませんね……誰がやったのかはわかりませんが、おそらく、私を狙ったのではないでしょうか」
カイムの疑問にミリーシアが答える。
その予想は正しい。先ほどの爆発は『ミストレス』を筆頭とした『カンパニー』によって仕掛けられたものだった。
『カンパニー』はミリーシアを暗殺するために、『骨喰い将軍』を疑似餌として、秘かに忍び込ませた部下によって仕掛けていた爆薬を一斉に爆発させたのだ。
もしも『骨喰い将軍』が勝利したとしても構わない。その時は、厄介な商売仇の老害ごと始末して報酬を横取りしてしまえば良いのだから。
「だが……意外と大した火力ではなかったな。魔法ほど強い炎ではないのか?」
カイムが身体についた煤を払いながら、目を細める。
周囲の建物の被害を考えると……広場にいたカイム達を襲った爆炎は軽度だったような気がした。
たまたま、広場だけ火薬が少なかったのかと首を傾げるが……これはカイムがスケルトンの大群を吹き飛ばした【死爆】が原因である。
敵の大群を吹き飛ばすために放った爆発によって、広場に仕掛けられていた爆弾も一緒に爆ぜてしまったのだ。
そのため、広場周辺だけは爆発が甘く済んだのである。
「俺達は無事に済んだが、ティー達は……?」
「カイム様―!」
「姫様、御無事ですか!?」
「ああ……無事なようだな」
噂をすれば影である。
爆発によって建物が吹き飛ばされ、あちこちで炎がくすぶっている中をティーとレンカが駆けてきた。少し遅れて、ロズベットの姿もある。
「無事だったみたいだな。お前達」
「カイム様も無事でよかったですわ! 心配しましたの!」
「ムグッ……」
ティーはよほど不安だったのか、涙目になっていた。
走ってきた勢いのままに飛びついてきて、カイムの顔面を胸で圧迫してくる。
「ムグッ……お前らも大丈夫そうだな。爆発には巻き込まれなかったか?」
「はいですわ! すでに町の外に出ていましたの!」
「町の人達は……人質になっていた方々は無事ですか!?」
「はい、問題ありません。皆さん、救出して町の外で待っています」
ミリーシアの問いにレンカが答える。
人質救出のために別動隊として侵入していた三人であったが……どうやら、無事に任務を達成してくれたようだ。
爆発にも巻き込まれることなく、捕まっていた女性達を救出してくれたようである。
「それにしても……『骨喰い将軍』は死霊術だけではなくて、爆発まで使うのだな。驚いたぞ」
レンカが眉をひそめて、周囲を見回した。
「おまけに、町ごと吹き飛ばすなんて……本当に卑劣な奴だ!」
「いいえ、違うわよ。たぶん、爆発は別の殺し屋の仕業よ」
怒るレンカであったが、ロズベットが口を挟む。
「こういうことをやるのは『カンパニー』の連中ね。奴らは数が多くて一人一人の練度は低いけれど……その代わりに銃や爆発物を使い、策略を用いてターゲットを仕留めるのよ」
「『カンパニー』……『骨喰い将軍』と組んでたってことか?」
「組んでいたというよりも、利用したんじゃないかしら? あそこのボスは性格が悪いから何を考えているのかわからないわね」
カイムが確認すると、ロズベットが皮肉そうな顔で肩をすくめる。
「私達が……というよりも、ミリーシア姫が生きていると知ったら、また仕掛けてくるでしょうね」
「正面から攻めてきてくれたら楽なんだけどな……正直、裏で暗躍される方がずっと面倒だな」
ある意味では、『骨喰い将軍』よりもずっと手強い敵である。
策略や暗躍を得意としている人間が、なりふり構わず攻めてくるのだから。
「どこかで戦うことになるか……さっさと始末してやりたいものだな」
カイムは不快そうに吐き捨てて、首を振ったのであった。




