155.勝利と責任と爆炎と
町の広場にて。
巨人スケルトンが倒されて、『骨喰い将軍』もまた浄化された。
「終わったか……」
「はい、終わりましたね……」
地面に降り立ち、カイムとミリーシアは勝利を確認する。
『骨喰い将軍』はミリーシアの神聖術によって浄化され、塵となって消えた。
目の前には胸部に穴を開けた巨人スケルトンの残骸が転がっているが……もはや動く様子はない。
完全に勝利したと間違いなく断言することができる。
「勝ちましたけど……この町の方々にはご迷惑をかけてしまいました」
ミリーシアが悲しそうに表情を曇らせる。
「私が殺し屋に狙われなければ、彼らを巻き込むことなどなかったでしょうに……本当に、どうすればお詫びできるのでしょう……」
「いや……それはいくらなんでも、見当違いじゃないか?」
カイムが顔をしかめて、巨人スケルトンの残骸を爪先で蹴った。
「殺し屋を雇ったのはどこの誰かもわからない相手。ミリーシアは完全に被害者だ。そもそも、俺達は無関係な人間を巻き込まないように、町に寄ることなく旅してきたじゃないか。ここまでしておいて被害が出てしまったのは、もうミリーシアのせいじゃないだろ」
責任を取るべきなのは殺し屋自身。そして、その依頼主である。
命を狙われていた被害者であるミリーシアが責任を負うことなど、何もないはずだった。
「それでも……私は皇族です。この国で起こったあらゆる国民の不幸に責任があります」
カイムの慰めに、ミリーシアが毅然として答えた。
振り返ったその顔は悲しそうであったが、強い責任感と使命感に染まっている。
「もっと良いやり方があったのかもしれない。私がもっと賢く、強ければ避けられたかもしれない……実際に被害が出てしまっている以上、私はそれを背負わなくてはいけません……!」
「……そうかよ、だったら勝手にすれば良い」
カイムが溜息交じりに言って、肩をすくめた。
ミリーシアは大人しそうに見えて、実際のところはティーやレンカよりもずっと頑固だ。
こうと決めたのであれば、カイムが何を言ったところで考えを曲げはしないだろう。
(責任感があって、国民を愛していて、それでいて頑固でワガママ……やっぱり、お前は皇帝に向いているよ)
「……町を出よう。ここにいたところで、どうにもならない」
「はい……あの老人に使役されていたスケルトンが残っているかもしれませんし、残党も探さなくては……」
「待て」
そのまま、町から出ていこうとする二人であったが……カイムが急に足を止めた。
「……何だ?」
ブワリと背中が総毛立った。
激しい嫌な予感、敵意とも害意とも悪意とも似て非なる、冷たい感触が背中を舐めるように這っていく。
「カイムさん……?」
「何かが来る……これはいったい……」
疑問を口に出そうとするが、直後、遠くで爆発音が鳴り響く。
爆音は突風が駆け抜けるな勢いでこちらに向かって迫ってきて、激しい熱と煙が押し寄せてくる。
「ミリーシア!」
「キャッ……」
咄嗟に、カイムがミリーシアに覆いかぶさる。
原因はわからないが……町が次々と炎を上げて、爆発していく。
二人がいた広場にまで鼓膜を貫くような轟音が鳴り響き、赤い爆炎と黒い煙に包まれたのであった。




