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154.観客とカーテンコール

「あらあ、意外なラストになったわねえ。まさか、あの御家老がやられてしまうだなんて」


 町の外、少し離れた場所に一台の馬車が停まっていた。

 馬車の傍らには、真っ赤なドレスを身に着けた派手な女性が葉巻を吹かせている。

 殺し屋組織『カンパニー』の女首領。通称『ミストレス』と呼ばれている女性だった。

『ミストレス』の周りには黒服の男達が背筋を伸ばして立っており、ボスの指示を待っている。


「ミリーシアちゃん……それに彼女のボーイフレンドもやるじゃない。あの『骨喰い将軍』にも、とうとう年貢の納め時がやってきたということね」


『ミストレス』がクスクスと笑った。

 真っ赤なルージュが引かれた唇から、舌の先端がチロリチロリと蛇のように覗く。

『骨喰い将軍』は卑劣で下劣で、人間として尊敬できる部分が一つもない人物だったが……それでも、殺し屋としての腕前だけは本物だった。

 手段を選ばず、犠牲を厭うことなくターゲットを追い詰める様はハイエナの群れのようであり、敵に回したくない人物の筆頭格である。


「それなのに……その老獪な殺し屋が死んだ。殺された」


『舐めるでないわ。儂は死んでなどおらぬ』


「あら……?」


 足元から、しゃがれた声が響いてくる。

 見下ろすと……『ミストレス』の足元、ちょうどドレスの裾を覗くことができる位置に、小さなネズミのスケルトンがいた。

『ミストレス』はわずかに驚いて目を見張るが、すぐに艶然として微笑みかける。


「もしかして……御家老? 随分と可愛らしい姿になって、どうしたのかしら?」


『コツコツコツ。こんなこともあろうかと、『魂写し』をしておったのじゃよ』


「『魂写し』……?」


『ウムウム、死霊術の秘奥の一つじゃ。己の魂の一部を動物や器物に乗り移らせることにより、死神の手を逃れる呪いじゃ』


 ネズミの骨から、不快感を催すような笑声が放たれる。


『コツコツコツコツッ! きっと、儂を仕留めたと思っておるじゃろうな。二十年ぽっちしか生きておらぬ若造が、調子に乗り負って!』


「…………」


『この借りは必ず返してくれる! あやつらの親類縁者、友人、関わりのあった全ての人間を骨にしてしゃぶってくれるわ! コツコツコツコツッ!』


「ところで……御家老。その姿からどのようにして、復活するおつもりかしら?」


『ヌ……?』


『ミストレス』の問いを受けて、子鼠のスケルトンが小さな首を傾ける。


『まあ、魔力をほとんど失ってしもうたからのう。復活のためには長い時間をかけて、力を蓄えねばなるまい。この姿では魔物どころか猫にも殺されかねんし、お嬢ちゃんや……申し訳ないが、しばらく儂を匿って……』


「やりなさい」


「イエス、マイ・ミストレス!」


 ズダンと破裂音が響く。

 子鼠のスケルトンが粉々に吹き飛んで、地面に小さな穴が開いた。

 いつの間にか、『ミストレス』のすぐ傍にいた部下が黒い金属を握り込んでおり、その先端が地面に向けられている。

『銃』と呼ばれる火薬で弾丸を撃ち出す武器だった。

 魔力を纏った兵士や冒険者、固い装甲を持った魔物には通用しないため、あまり普及はしていないが……誰にでも使えるお手軽な武器で『カンパニー』のエージェントにはもれなく配布されている。


「ごめんなさいねえ、御家老。商売敵を仕留められるチャンスは逃せないのよお」


『ミストレス』が唇に指を添えて、喉を鳴らして笑う。

 むしろ……どうして、弱っている時に姿を見せたのか不思議なくらいだ。

 そこまで追い詰められていたのか、それとも『ミストレス』ならば助けてくれると謎の確信があったのか。

 ともあれ……今度こそ、『骨喰い将軍』は死んだ。ここから復活はさすがにあるまい。


「さて、主演がいなくなったところでカーテンコールをしましょう……点火しなさい」


「イエス、マイ・ミストレス!」


 黒服の一人が返事をして……町に向かって白い旗を振り、そこにいる仲間に合図を送る。


「さようなら、ミリーシアちゃん」


 次の瞬間、町全体から大きな爆音が響いて、真っ赤な炎に包まれた。


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