151.巨人スケルトン
三人が人質となっていた女性達を救出した。
そんな最中。町の中心部にある広場では、カイムとミリーシアは巨人スケルトンとなった『骨喰い将軍』と真っ向から戦っていた。
『コツコツコツコツッ! コツコツコツコツッ!』
巨人スケルトンが奇怪な声を上げながら、大きな腕を振るった。【朱雀】を使って飛翔しているカイムめがけて叩きつけてくる。
「チッ……」
「キャッ!」
カイムが舌打ちをして、空中を蹴って腕を回避した。
抱きかかえたミリーシアが短く悲鳴を上げて、カイムの首に縋りついてくる。
「大人しく潰されるが良い! 貴様らの骨をしゃぶりつくして、全てが終わったら我が下に慰み物として従属させてくれる!」
「誰に言ってやがる。爺が調子乗って吠えるんじゃねえよ!」
カイムの姿が空中で消える。
一瞬で巨人スケルトンとの距離を詰めて、胸骨を拳で殴りつけた。
闘鬼神流・基本の型――【鳳凰】
【朱雀】と対を成しているもう一つの飛行術。足底から魔力を勢いよく噴出させて、空中で高速移動する技だった。
「ヌウッ!?」
「ム……」
巨人スケルトンがたたらを踏むが……倒れない。
殴った胸骨も砕けることはなく、ヒビすら入っていなかった。
「硬い……鋼鉄以上の強度だな……!」
カイムがジンジンと痛む手を軽く振った。
圧縮魔力を纏ってもなお、拳に走る鋭い痛み。
巨人スケルトンの身体は恐ろしく硬かった。ただの骨の強度を完全に超えている。
「魔法で強化しているのか、それとも大量の骨を圧縮させて密度を上げているのか……どちらにしても、面倒なことだな」
「鬱陶しいわあ! そんなものは効かぬうっ!」
「フン……」
巨人スケルトンが掌で張り飛ばそうとしてくるが、カイムは再び【鳳凰】を使って回避した。
「儂が百年の年月をかけて生み出した最終奥義……【巨骸操魂】は常勝不敗。不撓にして不抜の極技である! 貴様らのような若造に敗れるものか、コツコツコツコツッ!」
「カイムさん、任せてください……星を巡る大いなる光。白く強く貴き天の帝。その大いなる御手で迷える子羊を包み込まん……【聖なる円環】!」
ミリーシアが早口で詠唱して、神聖術を放った。
二人を中心にして白い光の円が広がって、巨人スケルトンまで包み込む。
「死霊術で使役されたアンデッドならば、浄化の光で消し去ることができるはず……天使の身許に還りなさい!」
「コツコツコツコツッ! ぬるい、ぬるいぞお。淡い光じゃなあ!」
「え……?」
「コツコツコツ、潰れろお!」
しかし……巨人スケルトンは意にも介した様子はなく、巨腕をカイム達めがけて振るった。
すんでのところでカイムが躱すが……地面に大きな拳が突き刺さり、そこにあった建物を粉々に破壊する。
「そんな……神聖術が効かないなんて……!」
「単純に出力が足りないだけか……いや、もしかして……?」
ショックを受けている様子のミリーシアを抱えて空中を移動しながら、カイムが目を細めて巨人スケルトンを観察する。
数百トンはありそうな巨体のスケルトンであったが……よくよく見れば、その表面は青銀色の金属でコーティングされていた。
カイムの脳内にある『毒の女王』の知識が告げる。それがミスリルと呼ばれる特殊な金属であることを。
「『魔銀』……ミスリルか。アレで神聖術を防いでいるのか……!」
ミスリルは魔銀とも呼ばれる特殊な合金で、高度な錬金術によって生成される。
青銀色のその金属は加工が難しい代わりに非常に強靭で、おまけに魔法に対して強い耐性を持っていた。
『魔法殺し』とでも呼ぶべき特性は魔法使いの天敵である。攻撃魔法はもちろん、神聖術などの特殊な魔法も弾くことができた。
「対・魔術師の特殊金属……薄くコーティングされているだけのようだが、アレだけの量を用意するのは容易じゃなかっただろうな」
「ミスリル……それでは、私の神聖術も通用しませんね……」
ミリーシアが悔しそうに表情を歪めた。
巨人スケルトンがミスリルで覆われているのならば、カイムの紫毒魔法も通用しないだろう。
もちろん、あくまでも通用しないのは巨人スケルトンだけ。内部で操縦している『骨喰い将軍』に直接ぶつければ話は別である。
(とはいえ……ぶ厚い骨が邪魔で直接攻撃は難しい。毒ガスを撒き散らして骨の隙間から流し込んで良いが……効くのか、本当に?)
先ほど、【死爆】を使用して攻撃した際……爆心地にいたであろう『骨喰い将軍』には目立ったダメージはなかった。
爆発そのものは骨で身体を覆ってガードすることができたかもしれない。だが……毒ガスや爆発による酸欠は、骨の防御ではどうにもならなかったはず。
(百年以上も生きている殺し屋と聞いたが……もしかして、アイツもすでに生きてないんじゃないか?)
自分自身の身体を死霊術によってアンデッドに変えているのではないか、リッチ……否、実体があるので生ける屍か。
すでに『骨喰い将軍』は死体となっており、毒では殺すことができない可能性が十分にあった。
「コツコツコツコツッ! コツコツコツコツッ!」
「……思った以上に厄介な敵だな。さて、どうやって殺してやったものか」
次々と振るわれる巨人スケルトンの攻撃を空中で回避しながら、カイムは面倒臭そうにつぶやいたのであった。




