149.ロズベット VS ワニ頭スケルトン
ティー、レンカがそれぞれの敵を撃破した。
その一方で、ロズベットもまた改造スケルトンに追い回されている。
『グオオオオオオオオオオオッ!』
人間の胴体、ワニの頭部を持ったスケルトンが咆哮を上げながら、目の前の建物を破壊する。
サイズは人間とそれほど変わらないものの、その腕力は圧倒的であった。
『ニゲルナアアアアアアアッ! ニンゲンンンンンンンッ!』
「しつこいわねえ……追い回されるのは好きじゃないのよね」
建物を破壊しながら追いかけてくるワニ頭スケルトンに、ロズベットが辟易した様子で溜息を吐く。
『グオオオオオオオッ、ハヤクツブレロオオオオオオオッ!』
「本当にしつこいわ……よッ!」
振り回された骨の豪腕をスルリと避けて、ロズベットが相手の首を斬りつける。
いつものように首を落とそうとするが……ワニ頭スケルトンの頸部にはわずかに切り傷ができただけ。切断にはいたらない。
「あら?」
「ムダダアッ! シネエッ!」
ワニ頭スケルトンが反撃の拳を放ってくる。
ロズベットは頭を低くして回避、今度は胴体にナイフを突き立てた。
ガキンッと硬い音が鳴り、ナイフの切っ先が弾かれる。
「硬いわね……どうやら、見た目通りじゃないわけね」
ロズベットはナイフで敵の首を切断することができるが、それは口で言うほど簡単なことではない。
首を斬るのは実はかなり難しいことだ。ギロチンのような装置を使うのならばまだしも、人間の技術でそれを行うのは容易ではない。
斧や刀を使って首切りをする処刑法が東西の国々に存在するが、失敗して上手く斬れないことも多いのだ。
それをただのナイフで行うことができるのは、それだけロズベットの技量が卓越しているからである。
「そんな私が斬れないということは……ただの骨じゃないのね」
『フンヌッ!』
ワニ頭スケルトンが地面を強く踏みしめ、左腕を振るう。
ロズベットはもちろん避けるが、代わりに背後にあった建物の壁が粉々に砕ける。
「それにこのパワー……もしかして、骨の密度がとんでもなく大きいのかしら?」
ロズベットがつぶやくが……その言葉は的を射抜いていた。
ワニ頭スケルトンは特殊な死霊魔術により、普通の人間の十倍以上の骨密度を有している。
大勢の人間の骨を圧縮することによって生み出された改造スケルトンなのだ。
『グオオオオオオオオオオッ!』
「普通のやり方では、貴方の首を落とすことはできそうもないわね……」
吠えるワニ頭スケルトンに、ロズベットがやれやれと肩をすくめた。
スケルトンだけに骨が折れる相手である。
『サッサト、ツブレロオオオオオオオオオッ!』
「ハア……面倒ねえ」
再び、豪腕が振るわれる。
ロズベットは顔面に向かってくる打撃を首を傾けるだけの最小限の動きで避け、右手のナイフを閃かせた。
次の瞬間、ワニ頭スケルトンの右腕が肘の辺りで切断される。
『ナアッ!? ナゼダアッ!?』
「関節部分まで硬いわけじゃないのね。だったら、解体は簡単よ」
ロズベットが淡々とした口調で言う。
通常、人間の関節は筋肉や靱帯、腱などによって繋がれている。
死霊魔術によって使役されたスケルトンである彼らは、それらの器官が失われており、術者の魔力によって骨同士が結合していた。
「魔力で繋がれているのなら、同じく魔力を纏わせたナイフでなら斬れるわよね」
いくら骨の密度が高くても、結合部分はただの魔力。
カイムが使う圧縮魔力でもなく、容易に切断することができた。
『オレノオオオオオオオ、ウデガアアアアアアアアッ!』
「腕だけじゃないわよ?」
『グオオオオオオオオオオオオッ!』
ロズベットがワニ頭スケルトンの背後に回り込んで、今度は左膝の関節部分にナイフを刺し込んだ。
クルリと切っ先を回すと、ガチャリと金具を外したような音と共に足が切断される。
『ヌウウウウウウウウッ、タッテラレンンンンンンンッ!』
「骨密度が高いということは、体重も重いということよね? 片足で身体を支えられるのかしら?」
『グウウウウウウウウウウウウッ!』
答えはすぐに出た。
ワニ頭スケルトンは立っていられなくなり、うつ伏せに倒れてしまう。
『ニンゲンガアアアアアアッ! ナメルナアアアアアアアアッ!』
「舐めるわよ。こんなに無様なんだもの」
ロズベットが嘲るように笑いながら、残った左腕と右足も解体する。
『オオオオオオオオオオオオッ……!』
「ようやく、首を落としやすくなったわね……六十五点。そんなに悪くなかったわよ?」
ロズベットは手足を失ってダルマ状態となったワニ頭スケルトンの頭を押さえて、首にナイフを添える。
「ゆっくりやってあげるわね。たまにはこういうのも悪くないでしょう?」
『ヤメロオオオオオオオオオ……!』
ロズベットがギコギコと時間をかけてナイフを動かし、できるだけ時間をかけてワニ頭スケルトンの首を落とした。
しばしの間、断末魔の声が響いて……そして、止んだのであった。




