143.オーエルの町
オーエルの町は人口二百人にも満たない小さな町であり、ようやく村を卒業したかという程度の規模しかない。
特産品は絹織物。蚕の養殖を行っており、絹糸から生産した製品を他の町に出荷している。
小規模ながらも冒険者ギルドもあって、この土地を治める領主に仕えている代官が管理しているとのことだ。
カイム達は町のすぐそばまでやってきており、林に身を潜めて町の入口を見つめていた。
「小さいとはいえ、それなりの防備があったはずの町があっさりと落ちた。たった一人の殺し屋によって……」
カイムが警戒を緩めることなくつぶやく。
捕まえた少年の話によると、この町にいた戦闘員……冒険者と憲兵は併せて三十人ほど。
彼らは押し寄せてきたスケルトンと戦い、ごく短期間で全滅したとのことだ。
町の周囲には、彼らの成れの果てと思われるスケルトンがフラフラとさまよっている。
「小さいとはいえ、たった一人で町を滅ぼせるとは恐れ入るな」
「『骨喰い将軍』はスケルトンの軍勢を率いているからね。それくらいできるでしょうね」
同じく、林に隠れているロズベットが言う。
他にもミリーシアとレンカが林の中にはいて、リコスは少年と一緒に離れた場所に置いてきた。
「……敵の数はどれくらいだろうか」
レンカが緊張に目元を険しくさせて、町の入口を睨みつける。
門扉の周囲には人間、そして獣らしき動物の骨がうろついていた。
ティーがスンスンと鼻を鳴らしながら、しかめっ面になる。
「わかりませんの。見える範囲だけでも二十以上はいますわ。あちこちに死臭がしますから、もっとたくさんだと思いますの」
「いくら数が多くても、有象無象だろう。雑魚には変わりないと思うがな」
カイムが体内で魔力を練りながら鼻を鳴らす。
驕りというわけではない。見える範囲のアンデッドはいずれも大した強さではなく、カイムであれば楽勝に倒せる相手である。
二十どころか、百体以上かかってきたとしても無傷で勝利する自信があった。
「問題があるとすれば……人質を取られてしまうことですね」
ミリーシアもまた、緊張の表情で考え込んでいる。
「敵が人の道を踏み外した悪人であることはすでにわかっています。町の中に捕らわれている女性がいるとなれば、彼女達を平気で人質にしてくることでしょう」
ミリーシアの目的は自分を狙う殺し屋を撃退することではない。あくまでも、囚われている町の住民の救出である。
助けに入ったことで住民を危険にさらしてしまえば、それは本末転倒だった。
「だったら、どうするのかしら? このまま正面から飛び込んでいいの?」
ロズベットがベルトに付けたナイフの柄を撫でながら、訊ねる。
彼女もまた、スケルトンなど意に介することもない戦力。しかし、人質を助ける手立ては持っていなかった。
「皇女様は神官だそうだけど……町を丸ごと浄化したりはできないのかしら?」
「……できません。私では魔力が足りません」
ミリーシアが悔しそうに唇を噛んだ。
スケルトン……不死者にとって特攻を持っているミリーシアであったが、それでも出力には限界がある。
「町ごとを浄化するとなれば、特別な祭具や聖遺物が必要になります。大司祭クラスの神官であれば可能かもしれませんが……私では力不足です」
「そう……まあ、仕方がないわね。だったら、突入するしかないんじゃない?」
ロズベットがナイフを抜いて、クルリと掌で回転させた。
冷たい相貌に静かな殺意の色が浮かび上がる。
「殺るのなら、私が先陣を切っても良いわよ? 新参者として、デキるところを見せなくっちゃね」
「それは頼もしいですが……私に考えがあります」
ミリーシアはしばしの沈黙の後、提案する。
「私が囮になります。だから……皆さんが町の中に忍んで入って、人質を救出してください!」




