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142.骨の罠

 十数人の男達から襲撃を受けたカイム達であったが、相手はどれも素人。

 危なげなく撃退して、襲撃者の一人であった少年をロープで縛って拘束した。

 どうして、ロープなんて持ち歩いていたかというと、どこかの雌犬を愉しませるための玩具だったりするのだが……それはともかくとして。


「町が変なジジイに乗っ取られたんだ」


 ロープで拘束された少年はそんなことを口に出した。


「オレが住んでる町……オーエルっていう小さな町なんだけど、そこに骨の魔物を連れたジジイがやってきたんだ。そいつが俺の母さんや姉さん……女の人達を人質にして、『金髪の女を連れてこい』って命令してきたんだよ」


「骨の魔物……」


 話を聞いていたミリーシアがわずかに息を呑んだ。

 カイムがロズベットに視線を向けると、頷いて肯定の返事をする。


「『骨喰い将軍』ね。間違いないわ」


「やっぱりか……」


 町を出た後に襲撃してきた殺し屋……『骨喰い将軍』。

 どういう理由か、彼がスケルトンを率いて町を乗っ取ったらしい。


「憲兵や冒険者とか逆らった人達はみんな殺されて、骨にされちゃった……金髪の女の人を連れていかなくちゃ、母さん達も同じようにするって……」


 少年が悔しそうに顔を歪めて、顔を伏せる。


「代官様も殺されちゃったし、領主様に知らせても人質を殺すって……だから、俺達しかたがなく街道を探してたんだ。金髪の女の人がいないかって……」


「それで……俺達に襲いかかってきたわけか」


「…………うん」


 少年が項垂れて、ポタポタと涙の粒を地面に落とした。


「悪いことをしたってわかってるんだ。あんなジジイの言うことを聞くのが間違ってるって。だけど……他にどうしたら良いかわからなくて、どうやったら母さんや妹を助けられるかわからなくて……!」


「大丈夫ですよ、私は気にしていませんから……」


 ミリーシアが膝をついて、少年の肩に手を置いた。


「むしろ、謝らなくてはいけないのは私の方です……私の都合に巻き込んでしまって、まさか相手がこんな手を使ってくるだなんて……!」


 ミリーシアが悲痛に表情を歪めた。

 少年の説明から察するに、襲撃を失敗した『骨喰い将軍』はミリーシアを捕まえるために無関係な町の住民を利用したのだろう。

 女性を人質にして男性を動かし、ミリーシアを探してくるように命じたのだ。


「何という醜悪な……卑劣な殺し屋め!」


「さすがにドン引きですの……」


 レンカが怒りに拳を握り、ティーも不愉快そうな顔をしている。

 ロズベットは無言であったが……それでも、わずかに眉尻を下げていた。


「それで……これから、どうするつもりだ?」


 カイムが少年を慰めているミリーシアに声をかける。


「別に無視して進んでも問題はないと思うぞ?」


 オーエルという名の町が襲われてしまった原因はミリーシアであるが、だからといって彼女が責任を感じるようなことではないだろう。

 あくまでも汚い手段を取った『骨喰い将軍』が責められるべきであり、ミリーシアが責任を感じて苦しむ義務などなかった。


「……いいえ、行きましょう」


 だが……ミリーシアの返答は予想通りのものだった。


「たとえ直接的でなかったとしても、私のせいで町が犯罪者に襲われているのです。放置して先に進むことなどできません……!」


「……まあ、お前ならそう言うよな」


 ワイバーンに襲われている町を見捨てることができなかったミリーシアだ。

 遠因であるとはいえ、自分のせいで殺し屋に襲われている町を見捨てることなど、できるわけがない。


「何というか……相手の思うつぼの展開ではあるけどな」


『骨喰い将軍』がどこまで考えて、町ごと人質にしたのかは知らないが……ミリーシアが苦しむ人々を放置できないことを見越してのことならば、かなりの策士である。


「罠だと知っていながら飛び込まなくてはいけないとは、面倒なことだな……」


「お姫様の護衛って大変なのね。貴方の苦労が窺えるわ」


 やれやれと首を横に振っているカイムに、ロズベットが同情した様子で背中を叩いてくるのであった。


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