135.山菜取りからの異変
「に、肉だけじゃなくて野菜も必要だな! それに水だって探さないと!」
レンカがやけっぱちのように自分の頬を両手で叩く。
狩猟では野生児の狼幼女であるリコスに惨敗してしまったが……気を取り直して、山菜や果物を探すことにした。
「山菜ねえ……俺も昔、森で探したことがあるぞ?」
「そうなのか? 意外だな」
「任せろ」
カイムはキョロキョロと森の中を見回して……地面の一部に目を留めた。
そこには青々とした色、ギザギザの葉が特徴の草が生えている。
「ああ、この草だ」
「ほう? それは知らない野草だが……食べられるのか?」
「ああ、すごく不味いし腹も痛くなるが……食べられるぞ」
「うん?」
カイムが答えながら草を毟ると、レンカが両目を丸くする。
「こっちの草は齧ると苦い汁が出てくるが、意外と腹に溜まる。アッチのキノコは有り得ないくらい辛いけど食べられるぞ。あの木の上に生えているコケは舌がヒリヒリして、丸一日、肌の色が緑色になるけどメチャクチャ美味いぞ」
「……そうか」
「あ、おい!」
レンカがカイムが採取した野草やキノコを奪い取り、森の奥へと投げ捨てた。
「頼むから、私達に怪しい物を食わせないでくれ……私が集めるから。私が集めるからな!?」
「…………」
二回も言われてしまった
こうなった以上、カイムとしても口出しできない。
(怪しい物か……俺はガキの頃から、それを食って生き延びてきたんだけどな……)
「ほら、この草だ。これを集めてくれ」
「これは……?」
「ハーブの一種だ。料理に入れても良いし、薬にもなる。この辺りにたくさん生えているようだから集めてくれ」
「……わかった」
レンカの指示に従って、食べられる野草を集めていく。
森は食材の宝庫。獣以外にも食べられる物がたくさんあった。
「お? これは……」
「ああ、山葡萄だ。運が良いな」
「食後のデザートか。ミリーシア達が喜びそうだな」
運良く、実っている果実も発見した。
罠が上手くいくかはわからないが……とりあえず、手ぶらで帰ることは無さそうである。
「あ? この痕は……?」
しかし……森を奥へ奥へと探索しているうちに、ふとカイムは気がついた。
地面の草木を踏みつけた痕跡がある。獣道というのとは少し違う。まるで大きな何かが這いずり回ったようだ。
「動物じゃないな。魔物が近くにいるのか……?」
「どうした、カイム殿?」
「ああ、コレを見てみろ。近くに大型の魔物が……」
その言葉の途中で、少し離れた茂みが揺れた。
またリコスかと思いきや……殺意にも似た不穏な気配が背筋を撫でる。
動物の気配ではない。微弱ではあったが魔力も感じる。
「……どうやら、魔物が出たようだな」
レンカが剣を抜いた。カイムも身構える。
「ここは街道にも近いし、そこまで強力な魔物は出てこないだろうが……食べられる魔物だったら、大歓迎だよ」
「おい、気をつけろよ」
「任せてくれ、大丈夫だ」
レンカが剣を片手に、ジリジリと音がした茂みに近づいていく。
茂みから反応はない。レンカは剣を振り上げて……そのまま、茂みに振り下ろす。
「ヤアッ!」
ブシャリと小さく音が鳴る。
木々を切ったものとは違う。確かな手ごたえを感じて、レンカがニヤリと笑う。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「へ……?」
しかし、異変は明後日の方向から生じた。
突如として甲高い叫び声を上げながら、レンカの背後にあった木の上から大きな何かが飛びかかってきたのだ。
「レンカ! 後ろだ!」
「なっ……!?」
カイムが割って入るよりも先に、巨大な何かがレンカに覆いかぶさる。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
襲ってきたのは、大木のように太くて長い大蛇だった。
長くのたうつ巨大な蛇が裂けるほどに口を開いて、レンカに襲いかかって……。
「あ……」
予想外の方向からの不意討ちを受けて、レンカは抵抗もままならずパクリと呑み込まれてしまったのである。




