134.サバイバルの始まり
食料の温存のため、カイム達は野山で食べられる物を探すことにした。
馬車を森の中に隠して、魔物避けの薬を撒き。『骨将軍』への対策のため、ミリーシアに神聖術で結界を張ってもらう。
カイム達は二つのグループに分けて必要な作業を行う。
一方が森を探索して食料を探し、もう一方が馬車を見張りながら野営の準備をする。
探索班はカイムとレンカ、リコス。
留守番班はミリーシアとティー、ロズベットだ。
戦力を分断させることへのリスクはあるものの……命を狙われているミリーシアの傍には、鼻が利くティーと殺し屋の動向に通じたロズベットがいる。
結界も張っているし、よほどのことが無い限りは大丈夫だろう。
「よし、それじゃあ狩りの時間だ」
カイムが宣言する。
などと言ってみたものの……実のところ、カイムは狩りをした経験はほとんどない。
襲ってくる魔物を迎撃したことはあっても、自分から獲物を探すのは初心者だったりする。
「何だ、そうだったのか。だったら……ここは私に任せてもらおうか!」
「おお、自信ありげだな」
レンカが堂々と胸を張る。
いつになく自信に満ちているが、そんなに狩りが得意なのだろうか?
「私は騎士だからな。軍事演習や遠征などで野営しているし、兵糧の節約のために狩猟や採取はしているとも!」
「へえ……それは頼もしいな。だったら狩りのやり方を教えてくれよ」
「任せてくれ……それじゃあ、まずは罠を張ろうか」
レンカがロープを取り出し、森に落ちている木の枝を拾う。
「弓矢があれば良いが……今日は用意してないからな。罠を張って獲物がかかるのを待つことにしよう」
「ほう」
「地面にこうして枝を挿して、ロープをこう……よし、できた」
レンカが手慣れた様子で地面に罠を設置した。
罠の上を獣が通るとロープが絞まるという簡単な仕掛けである。
「これで獲物がここを通ればかかるはずだ。こういう罠をできるだけたくさん、あちこちに設置する。罠にかかるのを待っている間に、山菜や果物を探して森を探索していこう。運が良ければ、今日中には獲物がかかるはずだ」
「なるほど……ちなみに、運が悪かったら?」
「その時は……諦めるしかないな」
「諦めるって……おいおい、生きるのをか?」
「仕方がないだろう! 狩りを舐めてはいけない!」
レンカが憮然とした様子で人差し指を立てて、説明する。
「そもそも……獣を捕まえるというのは簡単なことではないのだ。彼らは人間が思うよりもずっと機敏で、頭も良い。プロの狩人だって、一日中、獲物を探しても収穫なしのことはあるんだからな!」
「そういうものなのか?」
「そういうものだとも! その代わり……鹿や猪のような大型の獣が穫れれば、当面の食料の心配はいらないだろうがな!」
そんなふうに話しながら、レンカはテキパキと罠を設置していく。
カイムもレンカの手つきを観察しつつ、見よう見まねで同じように罠を作っていった。
一時間ほどかけて、森の数ヶ所に罠を設置した。
「フウ……これくらいで良いな」
蒸し暑い森の中で作業したため、終わった頃にはそれなりに汗をかいてしまった。
レンカが腕で額の汗をぬぐう。
「それじゃあ、獲物がかかるのを待っている間に山菜採りでも……」
「ん」
近くの茂みがガサゴソと揺れて……そこから、リコスが顔を出す。
姿が見えなかったので、何処に行っていたのかと思ったが……森の中で勝手に動いていたらしい。
「ん」
「あ……」
リコスがズリズリと茂みの中から、何かを引っ張り出した。
それは大きな猪の死体だった。
リコスは小さな身体で二百キロはありそうな猪を引きずって、そのまま野営地に向かっていく。
「…………」
「動物を捕まえるのは難しい、か……」
「……言うな、カイム殿」
レンカが所在なさげに肩を落として、落ち込んでしまったのである。




