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131.邪悪な老人

書籍3巻が発売いたしました!

アダルトシーン大幅追加にてお送りいたします!

挿絵(By みてみん)

 ロズベット曰く、殺し屋の世界も無法ではなくルールがあるとのこと。

『横取り禁止』もそんな掟であるらしい。

『横取り禁止』は先に依頼を受けた殺し屋のターゲットを横取りして、報酬を奪い取るようなことをしてはならないというルールである。

 自らの利益のために他者の獲物を奪い取るようなことをした場合、その殺し屋は裏社会で指名手配されて、同業者から寄ってたかって狙われることになる。


 ただし、このルールの例外が失敗時の『早い者勝ち』だった。

 最初に依頼を受けた殺し屋が仕事を放棄または失敗したとみなされた場合、その情報が他の殺し屋に共有される。

 そこからはルール無用の『早い者勝ち』。先にターゲットを仕留めた人間が報酬を総取りすることになるのだ。


 ロズベットを味方に付けることに成功したカイム達であったが……脅威は少しも去ってはいない。

 むしろ、より多くの殺し屋が彼らを狙ってくることだろう。



     ○     ○     ○



「ウウム、取り逃がしてしまったわい。儂としたことが二十年ぶりの失態じゃのう」


 小高い丘の上から街道を見下ろして、一人の老人がしわがれた声で言う。

 枯れ木のような、あるいは即身仏のミイラのような老人である。

 背丈は低く、全身シワクチャの身体には脂肪という脂肪が抜け落ちていた。

 窪んだ眼窩に眼球はなく、肌も唇も完全に水分が失われている。

 声を発していなければ、誰もその老人が生きた人間であるとは思わないだろう。


「そうか、そうか……ミリーシア皇女は神官じゃったが。これは厄介なことよのう」


 腰を曲げて、杖をつきながら丘から街道を見下ろしている老人……その肩に、一匹の小鳥がとまる。

 小鳥は羽もなく、皮も肉もない……骨だけの鳥だった。


 その老人こそが『骨喰い将軍』。

 裏社会に広く名を馳せている、有名な殺し屋だった。


「神官の皇女に獣人の娘。騎士の女。それに『首狩り』が寝返っており、そして紫髪の青年か……誰も彼も青い若造ばかりで忌々しいことよのう。肉を削いでしゃぶりつくしてやりたくなるわい。コツコツコツッ!」


『骨喰い将軍』が不気味に笑い、杖の先で地面を叩いた。

 彼は殺し屋の中でも特にキャリアが長く、百年前から殺戮の世界に身を置いている。

 殺したターゲットは千人を超えており、ターゲットを殺すために巻き添えにした人間はその十倍以上である。

 無数のアンデッドによる物量の殺しを得意とする『骨喰い将軍』であったが……彼にとって、唯一の天敵が神聖術を使う聖職者だった。

 ターゲットのミリーシアが神官であるならば、依頼達成はかなり困難になるだろう。


「あら、御家老。こちらにいらっしゃったのね?」


 そんな老人の背中に女性が声をかけた。

 真っ赤な鮮やかな色彩のドレスに身を包んだ、妙齢の美女である。


「おや……お主は『カンパニー』の……?」


「わたくしですわ。『骨』の御家老」


 その女性もまた、老人の同業者。裏社会では名の知れた殺し屋だった。


『カンパニー』の女社長……通称『ミストレス』。

 総勢千人を超える大陸最大のギャング組織を束ねているボスであり、『骨喰い将軍』と同じくミリーシアの命を狙っている殺し屋だった。


「おお、おお……相変わらず別嬪さんじゃのう。儂に何の用かな?」


『骨喰い将軍』がニチャリと顔のシワを歪めて笑い、『ミストレス』の隣に移動する。

 折れそうな細い手でパンパンと『ミストレス』の尻を叩き、不躾な手つきで撫で回す。


「セクハラですわよ、御家老」


「おっと……肩を叩こうと思ったのに、尻を撫でてしまったわい。年は取りたくないのう」


「まったく……良いお年だというのに、矍鑠(かくしゃく)とされていることですわね」


『ミストレス』が『骨喰い将軍』の手を軽く叩いて、一歩距離を開ける。

『ミストレス』の方は老人のセクハラをそこまで気にしている様子はなかったが、少し離れた場所には彼女の部下が控えていた。

 黒服の部下達が眉間に青筋を浮かべて、黒光りした鉄の武器……『銃』を構えている。


「物騒じゃのう。若者は気が短くていかんわい」


「貴方達、銃を下ろしなさい」


「しかし、ミストレス……」


「死にたくなければやめなさい。後ろを取られているわよ」


「…………!」


 部下の黒服が慌てて振り返ると、いつの間にかそこには骨だけの猛獣が集まっていた。

 もしも引き金を引こうとしていたら、彼らは容赦なく襲いかかっていただろう。


「相手は二百歳オーバーの先達よ。敬意を払いなさい」


「そう言ってくれるのは、『ミストレス』ちゃんだけじゃよ。ほとんどの若者ときたら、儂を老骨扱いして軽んじるばかりじゃからな! コツコツコツッ!」


『骨喰い将軍』は愉快そうに笑い……ふと、真顔になって『ミストレス』に訊ねる。


「それで……話を戻そうかな。儂に何の用じゃ? 儂の顔を見に来てくれたわけではないのじゃろう?」


『骨喰い将軍』が訊ねると……『ミストレス』はふっくらとした赤い唇を指でなぞりながら、妖艶に提案する。


「今回の依頼ですけど……よければ、私達と同盟を組んでいただけないかしら?」


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