127.新たなる姉妹
「何というか……自分から火に飛び込んできたウサギを見たような気分だな。何をやってんだ、この女は」
「はあん……」
呆れ返ったカイムの視線の先、縛られた首狩りロズベットが転がっていた。
ネイビーブルーの髪を編みこんだ小柄な女性である。
外見は二十歳前後。肉付きの薄いやせた身体つきをしており、髪が短ければ少年にも見えたかもしれない。
しかし、今の彼女を見て少年と間違える者はいないだろう。
ロズベットは肌を桃色に染めており、ピクピクと肢体を痙攣させ……その姿はあまりにも艶っぽく、色気に満ちているのだから。
「がう……この人、殺し屋ですの。だったら、目的は一つですの」
カイムの後ろからティーが言う。
横にはミリーシアとレンカも並んでおり、ロズベットを怪訝そうに見下ろしている。
「殺し屋に狙われてもおかしくなさそうな人間がここにいますの」
「え? もしかして、私ですか?」
ティーの言葉に、ミリーシアが青い瞳を瞬かせて自分を指差す。
皇族とはいえ、二人の兄とは違って政治的な力を持たないミリーシアにとって、自分が狙われるという意識がないのだろう。
しかし、カイム達以外に誰もいない宿屋に忍び込んだ、おまけに夜中に。
良からぬ目的があるのは明白である。
「そういえば……この女、帝都の城でアーサーを襲ってたな」
ミリーシアの命を狙う人間として、真っ先に政敵であるアーサーが挙げられるが……ロズベットがアーサーを殺そうとしていたことから、除外することができるだろう。
「となると……この女の標的はガーネット帝国の皇族全員なのか?」
「尋問して吐かせればいい。私がやるぞ」
レンカが瞳を吊り上げて拳を掌で叩く。
主君であるミリーシアが暗殺されていたかもしれないと知って、怒りをたぎらせているようである。
「……あはあ……んあ……」
「そうだな……話を聞く必要はあるだろうが……吐くかね、コイツは」
不思議とカイムには確信があった。
首狩りロズベット……彼女はいくら拷問にかけたとしても、情報を漏らすことはないだろうと。
移動中の馬車、帝都の城……二度にわたってロズベットが戦闘している場面に出くわしたからわかる。
ロズベットは歴戦の戦士。いくつもの死線を潜り抜けてきたであろう熟練の暗殺者だ。
おそらく、拷問に耐える訓練だってしているはず。容易に口を割るとは思えなかった。
「力ずくで聞き出すのは無理だと思うがな……まあ、やるだけやっても構わないが」
「あ、だったら良い方法がありますの」
ティーが名案だとばかりに人差し指を立てる。
長い付き合いだからわかる……これはカイムにとって、良からぬことを思い出したときのアクションだ。
「北風と太陽ですの。この女を徹底的にわからせてやればいいですわ」
「わからせるって……もちろん、コレコレモネモネですの」
「んはっ!」
ティーが転がっているロズベットの胸に触れ、不躾に揉みしだく。
途端にロズベットの口から甘い鳴き声が上がる。
「お前、まさか……」
「この女はどうやら、私達と同じように中毒に陥っているようですの。だったら、徹底的にやりまくって吐かせればいいですわ」
「おいおい、そんなことで吐くわけねえだろ……拷問で口を割る女じゃないって言っただろ?」
「ミリーシアさんとレンカさんはどう思いますの? 彼女……耐えられると思いますの?」
「あん……はふう……」
ティーがロズベットの胸を揉みながら振り返る。
ミリーシアとレンカは沈痛な表情をしたまま、口を開く。
「……耐えられませんね。絶対に」
「……すでにタル一杯、毒を飲んでいますからね」
「は……?」
二人の返答を聞いて、カイムは唖然とした。
自分の毒が一部の女性に対して強い中毒性があることは知っているが、いくら何でも、訓練を受けた殺し屋を落とせるとは思えなかった。
「カイム様は自分の毒の威力がわかっていませんの」
「わかっていませんね。すごいんですよ」
「こんなに大量に摂取したら耐えられる気がしないな……」
「そ、そうなのか……?」
「「「そうなんです(だ)(の)!」」」
カイムの問いに三人が口をそろえて断言した。
実際に毒に冒されている被害者がそこまで主張するのであれば、そうなのだろう。
「すでにこの女は後戻りできないところまで漬け込んでありますの。下ごしらえは終わってますから、料理するだけですわ」
「カイムさんの周りに女性が増えるのは面白くありませんが……拷問よりはマシですね。流す血は少ない方が良いでしょう」
「ウウム、他の女が堕ちるところも見てみたいような……うん、景気づけに私の尻を叩くか?」
「叩かねえよ……いや、他に手段もないか……」
ロズベットを尋問する必要はある。
そして……個人的に拷問もしたくはない。
(情が移った……というほど過ごした時間はないが、不思議と他人のような気がしないんだよな)
カイムの毒に影響を受けるのはカイムにとって相性が良い女性。
つまり、カイムにとっても気になる女性ということになる。
「ああん……」
「仕方がない…………抱いてやるか」
カイムはロズベットの身体を抱きかかえて、ベッドまで運んだ。
その日は朝から夕暮まで嬌声が絶えることなく部屋から響き、ティー達の姉妹が一人増えたのであった。




