121.領主への報告
行きと同じように空を駆けて、カイムはルーズベンの町へと戻ってきた。
夜になって魔物が活発していたせいもあり、帰りはやや時間がかかってしまった。
到着した頃にはすでに日も沈んで夜になっている。
カイムは城壁を飛び越えて、そのまま代官の屋敷の庭に着地した。
「領主に報告をしたい。通してくれ」
玄関にいた使用人にアトラウス伯爵への面会を依頼すると、少しだけ待たされてから屋敷の中に入れてくれた。
すでに夜も遅いというのに領主はまだ働いているらしくて、執務室へと通される。
「ああ、カイム殿。早かったな。どうかしたのかね?」
机に向かって仕事をしていたアトラウス伯爵が顔を上げる。
どうかした……とわざわざ訊ねてくるのは、カイムがオーズドの町に行く前に引き返してきたと思っているのだろう。
本来、ルーズベンからオーズドまでは半日かかる。
いくらカイムが空を飛べるとはいえ、こんな短時間で行って戻ってきたとは思っていないようだ。
「むしろ、遅かったと言いたいね。もう夜になっちまった」
カイムは肩をすくめて、適当なイスに腰かける。
「報告だ。オーズドはワイバーンによって壊滅していた。住民の大半は事前に避難していたようだが、残っていた連中の半分くらいが死んだらしいな」
「何っ!?」
アトラウス伯爵が立ち上がった。机から身を乗り出して、詳しい事情を訊いてくる。
「どういうことだ!? 説明してくれ!」
カイムはオーズドで見聞きしたことを、包み隠さず説明した。
アトラウス伯爵は黙って説明を聞いていたが……やがて、深いシワの刻まれた相貌を怒りに歪ませる。
「そうか……おのれ、ワイバーンめ! よくも我が領民を……!」
拳を震わせ、そのまま執務机に叩きつける。
「……申し訳ない。取り乱してしまったようだ」
「いや、別に構わないが……大丈夫か?」
「問題ない……とは言えぬな。問題は山積みだ」
アトラウス伯爵が椅子に座り込み、両手を机の上で組んで項垂れる。
「……やはり、空を飛ぶワイバーンが相手では後手に回らざるを得ない。人海戦術で各町に戦力を分配するのが上策なのだろうが、並の兵士では奴らのエサにしかならぬ」
「ワイバーンと戦えるほどのベテランの兵士は少ない……ということだよな?」
「その戦力の欠けを冒険者ギルドに埋めてもらうはずだったのだが……参った。これはどうすれば良いのだ?」
領主としては、さぞや頭が痛いことだろう。
この町……ルーズベンは対・ワイバーンの前線基地として十分な戦力が集っていた。
しかし、ワイバーンに町が襲われたという報告が入り、騎士や兵士を向かわせた頃には、すでにワイバーンは別の場所に移動してしまっている。
今回はカイムが空を飛んで最短時間で駆けつけたから、三匹を屠って生き残りの住民を救出することができた。
カイムでなければ、食事を終えたワイバーンはさっさと立ち去ってしまっただろう。
「奴らの巣穴を探して、一網打尽にするというのはどうだ?」
「いや……ワイバーンは群れを成して獲物を襲うことがあるが、基本的には単独行動か『つがい』で動く。住処である山から出てきた以上、決まった巣があるとも限らない。あまり期待はできそうもないな」
カイムの提案に、アトラウス伯爵が首を振った。
「となると……やはり、地道に数を減らしていくしかないのか?」
「時間がかかってしまうな……その間に、どれほどの被害が出ることやら……」
どっちに転んだとしても、被害が出るのは避けられない。
戦いが長引いて困るのはカイムも……正確には、ミリーシアも同じである。
ここでの戦いが長引くほどに、一行が第二皇子ランスのところに援軍に駆けつけるのが遅くなってしまう。
刻一刻とアーサーも軍備を進めているだろうし、決戦までの猶予はないのだ。
「……報告、感謝しよう。ミリーシア殿下にもよろしく伝えてもらいたい」
「ああ……ところで、ミリーシア達はどこにいるんだ?」
「町の中にある宿屋の一つに滞在している。この屋敷に泊まってもらおうと思ったのだが、そちらの方が落ち着くからとのことだ」
この屋敷には大勢の兵士・騎士が出入りしており、夜でもそれなりに騒がしい。
宿屋の方がゆっくり休むことができるということだろう。
「部下に案内させるから、君もそちらに泊まると良い」
「ああ、感謝しよう」
「感謝するのはこちらの方だ……領民を救ってくれてありがとう」
アトラウス伯爵から感謝の言葉を受けとり、カイムはミリーシア達がいるという宿屋へと向かっていった。
そこは代官の屋敷からも近く、町でもっとも高級な宿屋。
すでに店主も従業員も領外に避難しているとのことだが、特別に使わせてもらっているとのこと。
宿屋の外にはアトラウス伯爵配下の兵士がいて、警備をしていた。
すでに夜は更けている。
みんな、先に休んでいるだろうが……一応、挨拶だけはしておこうと彼女達の部屋に向かった。
「お帰りなさい、カイムさん」
「…………おう」
三人とも起きていた。
起きて……下着姿でカイムのことを待ち構えていた。
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