120.勝利すれども道先は暗い
新作小説『異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。』の連載を開始いたしました!
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カイムがオーズドの町に到着して数時間後。アトラウス伯爵配下の領軍の騎士が到着した。
その頃には、カイムは隠れていた町の住民と合流して、建物の下敷きになっていた人間達を救出していた。
「よお、遅かったな」
「これは……何ということだ! ワイバーンは……!?」
「そこに転がっているぞ。まあ、町に残っていた奴らだけだがな」
カイムはこの町にやって来てからのいきさつを説明する。
自分が到着したときには、すでに町は破壊されて廃墟のような有り様になっていたこと。
三体のワイバーンが残っていて、住民を襲っていたこと。
ワイバーンを倒したが、逃げ遅れた人々が残っていること。
無事な住民と協力して、人命救助を行っていたこと。
事情を聞いた騎士が救助作業に加わった。
人手が十分に増えたおかげで、作業は滞りなく進んでいく。
日暮れの時間になると、瓦礫に埋もれていた人達をおおよそ救助することができた。
すでに町の住民の半分以上は別の町に避難していたようだが、それでも被害は軽くない。
仮にワイバーンを残らず退治することができたとしても、復興には長い時間を要することだろう。
「おのれ、ワイバーンめ……何という酷いことを……!」
建物から引っ張り出されたのは生きた人間ばかりではない。すでに息絶えていた人間もいた。
ワイバーンに襲われ、食われてしまったものも含めれば、被害者の数はさらに増えることだろう。
「今回、俺が三匹ほど殺ったわけだが……あとワイバーンは何匹残っているんだ?」
カイムが問うと、救助作業を手伝ってくれた町民が答えた。
「全部で何匹かは知りませんけど……この町に現れたのは、七、八匹ほどです」
「七か八ね……」
問題なく殺れる数だ。
もちろん、真っ向から戦ったのであれば。
あくまでもこの町を襲ったワイバーンがそれだけという話なので、全体数はもっと多い可能性はある。
(領内にワイバーンが散っているとして……俺一人が動いたところで限界があるな。だからと言って、騎士共がどこまで戦えるんだ?)
「なあ、お前らは何人いたらワイバーンを倒せる?」
考えても仕方がないので、騎士に直接訊いてみることにした。
騎士のリーダー格である年配の男性に確認すると、少し考えてから答えが返ってくる。
「そうですね……精鋭の兵士であれば、十人いれば一匹は倒せると思います」
「十人か……もうちょっと頑張れないか?」
「無理を言わないでください。相手は単体でも『伯爵級』の魔物ですよ。ベテラン冒険者がパーティーを組んで戦う相手です。単独で倒せる人間は少ないでしょう」
「俺は殺れるけどな。三匹相手でも」
「……そうですか。せめて、特殊な武器でもあれば違うんですけどね」
騎士のリーダーはわずかに顔をしかめて、首を振る。
「ワイバーン、あるいは竜に有効な武器でもあれば優位に戦えるかと。もちろん、『竜殺し』のマジックアイテムは稀少。市場にも滅多に出回るものではありませんが」
「竜に有効な武器か……そんな都合の良い物、そうそう手に入らないよな」
カイムは考え込む。
ワイバーンに有効な武具を領軍の騎士や兵士に配備して、あちこちの町を守ってもらえば、被害を大きく減少させることができるだろう。
カイムが一人で伯爵領を走り回るよりも、ずっと効率的である。
「あとは原因究明でしょうか……どうして、山に棲んでいるワイバーンが人里に下りてきたのか原因がわかれば、あるいは打開策が浮かぶやもしれません」
「原因ね……調査はしていないのか?」
「ワイバーンの巣がある北方の山は険しく、危険な場所です。現状では、そこに割けるだけの人ではありません。冒険者ギルドの協力が得られてから、改めて調査隊を送るつもりだったのですが……」
アーサーとランス。
帝国の時代皇帝を巡る兄弟喧嘩の余波を受けて、冒険者ギルドも迂闊に動けないとのこと。
カイムがティー達を連れて調査に出ても良いのだが、その間、領内で暴れまわるワイバーンを対処できなくなってしまう。
完全な手詰まり。
襲ってくるワイバーンを倒して減らしていくしか、方法はないのだろうか?
「まあ、俺達だけで考えていても仕方がないな」
ミリーシアやアトラウス伯爵に相談して、今後の対処は決めてもらうとしよう。
「とりあえず、俺はルーズベンの町に帰るとしよう」
「我々は生存者を安全な場所まで連れていきます。領主様への報告をよろしくお願いいたします」
「ああ、後は頼んだ」
カイムは騎士達に後始末を任せて、オーズドの町を後にした。
この町に来た時と同じように【朱雀】を使用して天を駆け、ミリーシア達を置いてきたルーズベンの町へと戻っていくのだった。




