118.皇女が選んだ男
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・勇者の子供を産んでくれ 邪神と相討ちになった勇者は子孫を残せと女神に復活させられる
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・蒼雷の退魔師 妖怪と陰陽師ばかりの国だけど神の子だから余裕で生きるし女も抱く
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・彼女の浮気現場を目撃したら斬り殺されました。黄泉の神様の手先になって復活したら彼女が戻ってこいと言っているがもう知らない。
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「さて……ミリーシア殿下とお付きの方々の助力を頂けるのは嬉しいですが、実際問題、ほんの数人戦力が増えたくらいではどうにもならない状況なのです」
使用人が運んできた茶を飲んで一息ついて、アトラウス伯爵が改めて口を開く。
「ワイバーンは『伯爵級』の魔物。一匹倒すため、訓練を積んだ兵士が複数人で相手をしなければならない強敵です。それが最低でも四十匹は確認されています。正直、ギルドの援護なしには厳しい状況ですね」
アトラウス伯爵が物憂げに溜息をつき、テーブルの上に両手を組んだ。
「私共は中央の争いとは距離を置いて中立の立場を守っていましたが、いよいよアーサー殿下かランス殿下のどちらかに頭を下げなければいけないと思っていたところなのです」
アトラウス伯爵をはじめとして、中立派閥の貴族は少なくないようだ。
誰が皇帝になるかなどということに興味が無く、自分達の領地と既得権益さえ守ることができれば良い。
宮廷に役職を持っているわけでもなく、地方に領地を持った貴族はそういうスタンスの人間が多いのだ。
「ご安心ください。こちらのカイム様がいれば百人力です。ワイバーンなど鎧袖一触に蹴散らしてくれるでしょう」
「おいおい……結局、俺頼みかよ」
ミリーシアから太鼓判を押されて、カイムは苦々しく笑う。
大方、そんなことになるだろうとは思っていたが……やはりワイバーンを討伐するのはカイムの仕事らしい。
「まあ、そういう担当ということで別に構わないけどな。場所さえ教えてもらえたら、適当に狩りに行ってくるよ」
「そちらの御仁が……一人で?」
アトラウス伯爵が眉をひそめる。
ミリーシアの言葉を疑いたくはないのだろうが、どうしても惚れた女の欲目というか、判官びいきを感じているのだろう。
「疑っているようですが、カイムさんの実力は本物です。すでにワイバーンを一体仕留めていますし、アーサー兄様の側近……ガウェイン様とマーリン様と戦い、こうして無事でいる御方なのです」
「『双翼』と……!?」
アトラウス伯爵が目を見張った。
ガウェインとマーリン。帝国最強の騎士と魔術師のコンビである『双翼』の雷名は他国にまで知れ渡っている。
彼らと戦っておいて、五体満足で生きていられることの方が不思議なことである。
「ミリーシア殿下が選んだ御方ですから腕が立つのだろうとは思っていましたが、まさかそれほどとは……」
「ご主人様は最強ですわ。空を飛んでいるだけのトカゲなんかに負けませんの」
「カイム殿は強い。『金獅子騎士団』の団長でさえ、カイム殿に勝つのは容易ではないだろうな」
ミリーシアの評価をティーとレンカが後押しする。
三人の女性の評価を聞いて、アトラウス伯爵が「ウウム……」と唸った。
「そこまで仰るのでしたら信じましょう。ワイバーンの情報が入り次第、お伝えいたしますので、その時は……」
「領主様! 失礼いたします!」
話し合いがまとまりかけたところで、部屋の扉が外から開かれた。
ノックも無しに踏み入ってきたのは若い兵士である。その顔には焦りの表情が浮かんでいた。
「何事だ、場をわきまえよ!」
「南にある『オーズド』の町にワイバーンが出現したとのことで早馬が来ました! すぐに援軍を送って欲しいとのことです!」
「……渡りに船というか、神の采配のようなちょうど良いタイミングだな」
兵士の報告を聞いて、カイムが肩をすくめた。
町にやって来て早々に出立とは忙しいことである。
「優れた戦士は口じゃなくて剣で実力を語ると本で読んだことがある。俺は剣を使わないが、拳の方で証明するとしよう」
「カイムさん、それでは……」
「詳しい場所を教えろ。俺が闘ろう」
ミリーシアの肩を叩き、カイムは笑った。
まさに図ったようなタイミング。試金石が坂の上から勝手に転がってきた。
カイムは口元に牙を剥いて好戦的な笑みを浮かべ、ワイバーンの来襲に不謹慎な喜びを示したのである。
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