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115.ルースベンの町

 翌日、カイムとラックス・パーティーは街道をさらに進んでいく。

 途中で何度か魔物に襲われはしたものの、特に苦戦することなく対処することができていた。

 二日間の旅路を終え、カイム達はアトラウス伯爵領の西部にある町……『ルースベン』へと到着したのである。


「ここに領主がいるのか?」


「そのはずです。冒険者ギルドからの書状を渡せば、僕達の依頼は達成です」


 カイムの問いにラックスが答えた。

 ラックス・パーティーの目的はワイバーンの対処をしている領主に、冒険者ギルドからの書状を届けること。

 そのためにカイム達に協力を要請して、ここまでやってきた。


「もちろん、カイムさん達のこともギルドに報告しておきます。事前に必要であれば協力者を募っても良いとギルドから言われていますので、報酬も後から支払われるはずです」


「それは有り難いな。ところで……領主には今から会いに行くのか?」


「そのつもりです。多分、この町の代官の屋敷にいるでしょう」


 カイム達は町の城門をくぐる。

 入口には兵士が立っていたものの、ラックスが事情を話すとすぐに中に通してくれた。


 町には人の姿は少なく、閑散としていた。

 それなりに大きな町だというのに、通りを歩いている通行人もほとんどいない。

 それでも、商魂たくましいことに店を開けている露店もあった。鉄板の上で肉串を焼いており、香ばしい匂いがカイム達のところまで匂ってくる。


「八つほど、焼いてもらえるか」


 カイムが露店に近づき、人数分の肉串を注文した。

 店主の中年女性が鉄板から顔を挙げて、にこやかな営業スマイルを浮かべる。


「あいよ! 一本当たり銀貨一枚になるけど、構わないかい?」


「銀貨一枚? 随分と足元を見てくれるじゃないか」


「この状況だからねえ。ワイバーンのせいで外から品物も入って来なくて、物価が高騰しているんだよ」


「あー……なるほどな。それなら仕方がないか」


 カイムは渋々ではあったが、要求された銀貨を支払った。

 タレのついた肉串を一人一本ずつ配る。


「すいません、僕達までごちそうになっちゃって」


「構わん。君らのおかげでこの町に来れたようなものだからな」


 申し訳なさそうにしているラックスに鷹揚に応える。

 実際、彼らが冒険者ギルドからの仕事に加えてくれなければ、閉鎖された街道の前で立ち往生を喰らっていただろう。

 検問を力ずくで突破するか、大幅な遠回りを余儀なくされていたはず。


「やはり閑散としていますね……幸い、魔物の襲撃を受けたような痕はありませんけど」


 ミリーシアが街並みを見回して、暗い表情をする。


「ああ、みんな町を出て避難しちまったみたいだよ」


 ミリーシアの独り言を聞いていたらしく、肉屋の店主が疑問に答える。


「いつワイバーンが襲ってくるかわからないからって。北の『竜の巣』から離れて、南の方に逃げちまったみたいだ。町に残っているのは剛毅な変わり者か、行くアテの無い連中。老人共だけさ。食い扶持を稼ごうとしている冒険者や傭兵もかね?」


「おば様もこちらに残られているんですね?」


「嫌だよ、お嬢ちゃん。おば様だなんて呼ばないでおくれ! アタシもこの町生まれで逃げる場所がないだけさ。亭主も息子も戦争でおっ死んでるからねえ。ワイバーンに喰われたって悲しむ人がいないだけだよ」


「…………」


 カラカラと笑いながら悲惨な境遇を語る店主の女性に、ミリーシアは言葉を失ってしまう。


「戦争、ですか……」


「そうだよ。まあ、この国じゃあ珍しくもないね。平和が一番だってのに、どうして人間同士で殺し合いなんてするのかね」


「…………そうですね」


「ミリーシア……」


 悲しそうに顔を伏せるミリーシアになんと声をかけたものかわからず、カイムはとりあえず彼女の肩に手を置いた。


「……大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」


「いや……」


「どうしましたか、カイムさん。ミリーシアさん」


 二人に向かって、少し離れた場所からラックスが声をかけてきた。


「代官の屋敷はこっちみたいですよ! 行きましょう!」


「行くぞ、ミリーシア」


「はい……わかりました」


 ミリーシアが顔をあげて、カイムの後を付いてくる。

 彼女の内心はどうあれ、今はやるべきことをやらなければいけない。

 ラックス達と合流して、領主が滞在しているという代官の屋敷へと向かっていった。


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