114.野営
一角狼との戦いが終わり、カイムとラックス・パーティーは特に怪我をすることなく勝利した。
どうして、街道の真ん中に魔物の群れが出たのか正確な理由は不明だったが……状況から察するに、これもワイバーン襲来の影響と考えるのが自然である。
ワイバーンによってナワバリを荒らされてしまった一角狼が逃げ出し、街道まで出てきてしまったのかもしれない。
何はともあれ、無事に魔物をやり過ごすことができた。
日も暮れてきたので、その日は街道上にキャンプを張ることにした。
天幕を張って焚き火を起こし、女性陣が中心となって食事の準備をする。
「それにしても……カイムさんはお強いんですね! ビックリしましたよ!」
焚き火を囲んで食事を摂っていると、ラックスが興奮した様子で話しはじめた。
「武器を持っていないから大丈夫かと思っていたんですけど……いやあ、まさか素手で一角狼の頭を叩き潰すだなんて! 絶対、僕の剣よりも硬いですよね!」
「魔力で強化しているからな。そこら辺の刃物に負けはしないさ」
「いやあ、魔力で身体を強化するのは戦士の基本的な戦い方だけど……カイムさんのは全然レベルが違う! ひょっとして、名のある武人に師事していたりするんですか!?」
「……我流だよ。ただの才能だ」
興奮した様子のラックスに、カイムはスープをかき混ぜながら投げやりに応えた。
手放しでの称賛に悪い気はしない。
だが……こうも持て囃されると少しだけ鬱陶しかった。
カイムは基本的に他者とコミュニケーションをとるのが苦手なのだ。お気に入りの数人を懐に入れはしても、大して親しくもない相手を一定以上の距離には近寄らせない。
ラックスのように明るく社交的なタイプの人間は正直、苦手に感じられる。
「コラ、ラックス! カイムさんが迷惑しているでしょう!?」
「痛っ!」
ラックスの後頭部を射手の少女が叩く。
パーティーメンバーである少女に思いきり頭を殴られて、ラックスが頭を抱えてうずくまる。
「そ、そんなに強く叩くことないじゃないか……」
「貴方が人様に迷惑をかけるからでしょうが! ごめんなさい、カイムさん。ウチのリーダーが失礼なことをして」
「……まあ、別に良いけどな。それにしても……そっちのパーティーは随分と親しそうだな。戦いのときは連携も取れていたし、付き合いが長いのか?」
「はい、私達は同じ村の出身なんです」
射手の少女が他の二人の仲間に視線をやると、戦士の男性と魔法使いの少女が頷きを返してくる。
「私達が生まれた村は貧しくて、出稼ぎとして冒険者になったんです。幼馴染で仲が良かったので、ギルドに登録してからもずっとパーティーを組んでいるんですよ」
「村でいくら畑を耕しても、作物は領主にほとんど持っていかれるからな。冒険者として稼いだ方がずっと実入りが良い」
戦士の男性が厳めしい表情で木製のコップに注いだ水を一気飲みする。
「帝国は実力主義の国だ。冒険者として名を上げれば貴族に叙勲されて領地だって貰える。俺達は手柄を立てて故郷の村を買って、悪徳領主から救うことを目的にしている」
「……そんなにその領主は酷い方なんですか?」
「「「「最悪」」」」」
ミリーシアが表情を暗くさせて訊ねると、ラックスら四人は異口同音で即答する。
「帝国は国土が広い分だけ、国の端には皇帝陛下の目が届かない場所があるんです。そういうところの領主は大抵は自分勝手で、適当な理由を付けて民から税金を吸い上げています……苦しんでいるのはウチの村だけじゃないですよ」
「……そうですか」
ラックスが頭を擦りながら説明すると、ミリーシアはますます表情を暗くさせる。
皇族の一人としては他人事のように感じないのだろう。どうにもならないことだというのに、責任を感じているのかもしれない。
「皇帝陛下が悪いとは思えませんけどね……村にいた頃はどうして自分達を助けてくれないんだと恨んでましたけど、大きな町に出てきてからは良い評判ばっかり聞きますから。たぶん、こればっかりはどうしようもないことなんでしょうね」
「…………」
「そういえば……ミリーシアさんって皇女殿下と同じ名前ですね? ほら、神殿に勤めているっていう」
ふと思い出したように言って、ラックスが苦笑する。
「ウチの近所にもいましたよ。皇子様や皇女様にあやかって同じ名前を付ける人が。ミリーシアさんの御両親もそういう人だったんですね?」
「ええ、まあ……」
ミリーシアが曖昧な笑顔で答える。
さすがに本人だとはバレていないようだが、この会話が続くのも面倒なことになりそうだった。
「ところで……貴殿らは同郷の幼馴染ということだが、もしかして恋人同士だったりもするのかな?」
話を変えようとしているのか、レンカが会話に割って入ってくる。
「男女が共に寝泊まりしているのだ。浮いた話の一つや二つ出るのではないか?」
「あー……僕達は、そうですねえ……」
四人が曖昧な表情で顔を見合わせる。
「もちろん、嫌いとかじゃないんですけど……兄妹みたいに育ちましたからね」
「今さら、男として見れないわよね」
「……まあ、二人とも良い女であるのは認めるが」
「……ん、今さらロマンチックな空気になんてならない」
どうやら、四人の間にそういった関係はないようである。
「皆さんの方こそ男女で冒険していますけど、そういう話はあるんですか? 男一人に女三人って、随分と珍しいですけど……」
「私達はみんなご主人様の愛人ですわ」
これまで会話に加わらず、食事の支度や片づけをしていたティーが爆弾を投下する。
「ティーもミリーシアさんもレンカさんも……みんな、毎晩のようにご主人様に可愛がってもらっていますの。ラブラブですわ」
「え……ええっ!?」
「一人の男性と三人で……!?」
ラックス・パーティーの面々がそろって目を剥き、驚きの表情をする。
「た、確かに帝国は一夫多妻が許されてますけど……まさか、貴族でもないのに複数の女性を……」
「……おい、ティー」
「本当のことですわ。良いではありませんの」
カイムがティーを嗜めると、ティーはメイド服に包まれた大きな胸をグイッと張る。
「ティーがカイム様の恋人であることは誰に恥じることでもありませんわ! 堂々と見せつけてやればいいですの!」
「べ、別に見せつけることはないと思いますけど……」
「…………」
ミリーシアが顔を赤くして、レンカもうんうんと頷く。
ティーの爆弾発言のせいで空気がおかしくなってしまった。
夕食後、カイム達は微妙な雰囲気のままそれぞれの天幕に入っていくことになったのである。




