113.カイムの弱点
額に角を生やした狼が次々と襲いかかってくる。
全体の先頭に立ったカイムは、真っ先に飛びかかってきた狼の頭部に手刀を叩きつけた。
「フッ!」
「ギャンッ!」
圧縮魔力で強化された手刀が一角狼の頭蓋を叩き割る。一角狼は一瞬で絶命して動かなくなった。
まずは一匹倒したが、一角狼は次々とこちらに喰らいついてくる。仲間がやられたというのにまるで畏れる様子もない。
「まあ、問題ないけどな」
カイムは飛びかかってくる一角狼を殴っては蹴り、地面に叩きつけては踏み砕く。
一角狼も牙や角で攻撃してくるのだが、カイムは最小限の動きで攻撃を回避する。角の先を上着の端にかすらせることすら許さなかった。
「やあっ、ですの!」
「ギャウッ!」
戦っているのはカイムだけではない。
ティーが三節棍を振り回して、襲いくる一角狼を打ち払う。
元々、ティーはハルスベルク伯爵家で兵士に混じって訓練をしており、類まれな運動能力もあって三節棍を使いこなしていた。
しかし、旅の中で実戦を幾度も経験して、その腕前はさらに磨きがかかっている。
高速で円運動を生み出す三節棍はもはや『結界』の域に達しており、一角狼に近づくことを許さなかった。
「私もいくぞ! ヤアッ!」
「ガウウッ!」
レンカも鮮やかな剣技で応戦している。
馬車で待機しているミリーシアを守るように立ちふさがり、接近する敵に鋭い斬撃を浴びせかけける。
これまでの旅では不覚をとることが多く、活躍の機会は少なかったが……それでも、角が生えているだけの狼に不覚をとることはしない。
近づいてくる敵を確実に討ち取り、馬車を守っている。
「敵の数を減らすんだ! みんな、連携を崩すなよ!」
「おお!」
「わかったわ!」
Cランク冒険者であるラックスのパーティーもまた問題なく応戦していた。
前衛が剣と盾で敵を応戦し、後衛が弓矢と魔法を敵にぶつける。冒険者パーティーとして基本的かつ理想的な布陣である。
前衛が後衛を守って、後衛が前衛を援護する。そうしてできた隙をついて前衛が大胆に攻撃して敵を倒す。
「Cランクパーティーは伊達じゃないというわけか。大したものじゃないか」
一角狼を蹴り飛ばしながら、カイムが感心したようにつぶやく。
むしろ、ああいった戦い方が冒険者として正しい戦い方なのだろう。
仲間がお互いの長所を生かし、短所を補い合い、協力して戦うのが正道の冒険者パーティーのやり方である。
一方で、カイム達は連携というのはまるでできていない。
こちらはカイムの一強。ワンオペで戦っており、ティーやレンカは余った敵を相手にするくらいしかしていなかった。
ティーやレンカも上位の冒険者と互角以上に渡り合えるくらい強いし、ミリーシアの神官としての能力も優秀なのだが……連携という点ではラックス達パーティーの方が優っている。
(仲間とのコンビネーション。今後の課題ではあるが……正直、出来る気がしないな)
カイムは人と足並みをそろえるというのが絶望的に苦手だった。
ずっと家族から冷遇されており、母親とティー以外と関わることのなかった弊害だろう。
「……憂鬱だ。とことんコミュニケーション能力が足りていねえ」
モヤモヤとしたものが胸の内から出てくるのを感じて、カイムはしかめっ面になった。
苛立ちを込めて一角狼の頭部を拳で殴りつけると、狼は悲鳴の声を上げる暇すらなく脳漿をぶちまけて絶命した。
その後もカイムは鬱憤晴らしだとばかりに、一角狼を蹴散らしていく。
カイム達一行が一角狼の群れを討伐するまでにかかった時間はほんの三分ほど。
あっけないほど簡単に魔物を討伐して、無数の狼が街道上に骸をさらすことになったのである。




