112.旅は道連れ
カイム達は若い冒険者パーティーと一緒に、ワイバーンが出没しているという地域へと足を踏み入れた。
閉鎖された街道には簡易的な関所が設置されて通れなくなっていたが、若い冒険者がギルドから発行された許可証を提示すると通してくれた。
ちなみに、移動手段は馬車である。カイム達はここまで乗ってきた馬車から降りて、冒険者パーティーらが乗ってきた二頭立ての大型馬車に乗り換えた。
「ここから先は、もうワイバーンの出没地帯です。くれぐれも用心してください」
冒険者パーティーのリーダーである青年がカイム達に注意を促す。
青年の名前はラックスというそうだ。年齢は二十代前半であるが、すでに冒険者として頭角を現しており、Cランクまで上り詰めているらしい。
ラックスが率いているのは三人の仲間。いずれも同年代であり、男性の戦士が一人、女性の魔法使いと射手が一人ずつである。
「あ、皆さんも冒険者パーティーなんですか? ホームタウンはどちらですか?」
道中、世間話の中でラックスが訊ねてきた。
「特に決まっていないな。帝都をホームにする予定だが面倒そうな連中に絡まれてしまってな。別の町に移動している最中だ」
「ああ……ギルドには若い冒険者にやたらと絡んでくる人たちもいますからね。女性連れとなればなおさらだ」
ラックスが同情したように表情を曇らせる。
彼のパーティーは男女二人ずつという組み合わせだ。先輩の冒険者からちょっかいを出されたことがあるのかもしれない。
「ちなみに冒険者ランクは……あ、やっぱりいいです」
問いかけて、ラックスが途中で言葉を切る。
「詮索は冒険者のタブーでしたね。すいません」
「いや……別に構わないが」
「ただ……これは同行するうえで聞いておかなければいけないんですけど、ミリーシアさんは神官。そちらの女性……レンカさんは剣士ですよね? カイムさんとティーさんは戦えるんですか?」
ラックスがほんの少しだけ疑念を込めて訊ねてくる。
カイムは武器らしいものを持っておらず、ティーに至っては服装がメイド服だ。非戦闘員に見えてしまうのも仕方がない。
「心配せずとも、俺もティーもそれなりに戦える。ティーは御覧の通りの獣人で武器も服の下に持っているからな」
「カイムさんは……」
「俺は素手で戦うから武器は必要ない」
「素手って……武闘家だったんですか」
ラックスはわずかに表情を曇らせる。
この辺りにはワイバーンが出没しているが、固い鱗を持つ亜竜に対して武器無しの攻撃は通用しない。
武闘家であるカイムは戦力にならないだろうと、口に出すことなく失望しているのだろう。
「足手纏いにはならないから心配するな。それよりも……俺達はどこに向かっているんだっけか?」
「この先にある町ですよ。近隣を収めている領主であるアトラウス伯爵は領軍を率いて、ルースベンという町に駐屯しているという話だからね。ワイバーンを探して討伐しようとしているそうですよ」
「それじゃあ、その町に向かうということか」
「はい、何事もなければ二日ほどで到着するでしょう」
「何事もなければ……不吉なことを言うじゃないか」
まるで何かの旗が立てられたようである。アクシデントが起こる前兆のように思えてならなかった。
「大丈夫ですよ。ワイバーンが目撃されたのはもっと東の方ですし、そんなすぐに遭遇するだなんて……」
「グルルルル……!」
「ガアッ! ガアッ!」
「へ……?」
言った矢先、街道横の森から無数の影が飛び出してくる。
地を走ってこっちに殺到してくるのは大型の狼の群れだった。頭部にはナイフのような角が生えており、ただの狼ではなく魔物であることがわかった。
「一角狼……どうして、あんなにたくさん……!?」
ラックスの仲間……女性魔法使いが驚いて叫ぶ。
森から飛び出てきた一角狼の数は二十匹ほど。カイム達が乗る馬車に向かって殺到してきている。
「やれやれ……ワイバーンではなかったが、さっそくのアクシデントだな」
カイムが仲間に目配せを送りながら、馬車から降りた。
「ティーも行きますの!」
「私もだ……お嬢様は待っていてください」
「はい、皆さんは気をつけて」
ミリーシアに見送られ、ティーとレンカも後に続いてくる。
「待ってください、皆さん! 我々も戦います!」
ラックスら四人パーティーも馬車から降りる。
それぞれの武器を構えて、突進してくる一角狼に立ち向かう。
「皆さんも無理はしないでください! 馬車とミリーシアさんを守りながら戦いましょう!」
「了解した。そっちも気をつけて」
軽い口調で応じて、カイムは身体に圧縮魔力を身に纏って戦闘態勢をとる。
ラックスらの目があるので紫毒魔法は使えない。それでも、この程度の魔物であれば問題はないだろう。
レンカとティーも心配はいらない。
懸念があるとすれば、Cランクパーティーと名乗っていたラックスらの実力である。
「……まあ、お手並み拝見といこうかな」
立ち振る舞いから見て無能ではないだろうと判断して、カイムは目の前の敵へと意識を向けるのだった。




