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111.避難地

 野営のテントの中、たっぷりと『お楽しみ』をした翌日。

 カイムら一行はワイバーンが出没するという地域までやってきた。


「これは……避難民なのか?」


 該当する地域の手前に即席の関所が設置されており、武装した兵士によって道が封鎖されていた。

 関所の手前にはいくつものテントが張られており、ワイバーンによって集落を滅ぼされた避難民らがキャンプをしているようだった。

 怪我人が大勢寝かされており、煮炊きの煙があちこちから上がっている。


「がう、すごい人数ですわ。二百……いえ、三百人くらいはいるんじゃないですの?」


 避難場所を見回し、ティーが溜息と共に言う。

 そこにいる大半は女子供と老人だった。男性の避難者は少ないが、どこか別の場所にいるのだろうか?


「……少し話を聞いてきます。待っていてください!」


「あ、おい!」


 ミリーシアがこちらの返答も聞かずに走りだしてしまう。

 カイムが追いかけようとすると、レンカが手で制して主人を追っていく。


「姫様は私が。カイム殿はここにいる兵士らの警戒をしておいてくれ!」


「わかった、そっちは頼んだぞ」


 ミリーシアとレンカが避難民のところまで走っていき、彼らの話を聞いていた。

 ついでなのかはわからないが……ミリーシアが怪我人の治療を手伝ったりもしている。


「あれは長くなりそうだな……こっちはこっちで情報収集した方が良さそうだ」


「はいですの。多分、ミリーシアさんは役に立ちませんわ」


 情報を聞き出す手段として治療をしているのかもしれないが……あの様子だと、手段と目的がひっくり返るのは時間の問題である。

 カイムは自主的に情報を集めるべく、辺りを見回した。


「兵士は……城にいたやつらとは少し違うな」


 道を閉鎖している兵士らは鎧で武装しているのだが、その胸元には見知らぬエンブレムを付けていた。


「敵じゃありませんの?」


「多分、この辺りを治めている領主の兵隊だろうな……現時点では敵かどうかもわからない。警戒を怠るなよ」


「はいですわ」


 カイムとティーは何食わぬ顔を意識しながら、領軍の兵士へと近づいた。


「あの……すいません」


「ん? どうかしたか?」


「何かあったんですか? 大勢、怪我人がいるみたいですけど……?」


「ああ、知らないのか。この先の地域にワイバーンの群れが出現したのだ。ここにいるのは避難民だ。道を封鎖しているから通れないぞ」


 兵士は特に疑うような素振りもなく答えた。


「以前からワイバーンが姿を見せていたので注意していたのだが……まさか、ここにきて群れが出現するとはな。いったい、何が起こっているのやら」


「討伐の目途は立っていないんですか?」


「冒険者ギルドに依頼を出して人手を集めている。ただ……騎士団の方は出撃する余裕が無くてな……ほら、今は『上』の雲行きがちょいと妖しくてね」


「ああ……なるほど」


 アーサーとランス。二人の皇子が争っているせいで騎士団を動かすことができないのだろう。

 迂闊に騎士団を動員させてしまえば隙ができてしまうし、兵士から被害が出ればそれだけ戦力が減って継承争いが不利になる。


「ウチの領主様は中立派だからまだいいよ。領軍を動かしてワイバーンにぶつけることができるんだから。だけど……二人の皇子のいずれかに付いている貴族の領地は地獄だな。兵士を殿下のところに送っているから守りの戦力が薄れているし、ワイバーンからしてみれば襲いたい放題だな」


「……それはそれは。『上』が争っているせいで『下』が割を食っているわけか。戦争なんてするもんじゃない」


「まったくだよ……誰でもいいから、さっさとワイバーンが暴れ出した原因を突き止めて欲しいもんだよ」


 兵士がやれやれと首を振った。カイムはティーを伴って兵士の傍から離れる。


「とりあえず……ここの領主が中立であることがわかったな。ミリーシアを掴まえようとはしないはずだ」


「ワイバーンのせいでそんな余裕もなさそうですの。助かりましたわ」


「問題は街道が封鎖されていて通れないことだな……砦があるわけでもないから、強行突破は難しくなさそうだが」


 とりあえず、ミリーシアと相談してみよう。

 カイムは怪我人の手当てをしているミリーシアのところまで移動した。


「ん?」


 すると、ミリーシアは怪我人の手当てをしながら、数人の男女と何やら話をしていた。

 相手に敵意は無さそうで、絡まれているという雰囲気ではない。


「どうした、ミリーシア?」


「あ、カイムさん」


「貴方が彼女の仲間ですか? 少し頼み事があって話していたんですよ」


 ミリーシアに話しかけていた若い男性が振り返る。

 金属製の鎧を身につけ、腰に剣を提げていた。兵士が身につけている鎧とは別物だ。

 どうやら、兵士ではなく冒険者のようである。同行している男女も同じく統一感のない自由な装備を身につけていた。


「僕達は帝都から派遣された冒険者です。これから領主に会うためにこの先に進むんですが、彼女が治癒魔法で怪我人を治療しているのを見まして。是非とも同行してもらいたくて頼んでいたんです」


「へえ……つまり、封鎖されている道を通って先に進むわけか?」


「はい。ギルドマスターから領主殿にあてた手紙を持ってきているから、兵士も通してくれますよ。領主様は避難することなく兵士を率いてワイバーンと戦っているらしくて、ルースベンという町に滞在しているそうです」


「…………」


 カイムがそっとミリーシアとレンカに目配せをすると、二人はそろって頷きを返してくる。

 彼らに同行すれば、穏便に封鎖された道を通り抜けることができる。


「彼女は貴方さえ良ければ同行してくれると言っているんですけど……どうでしょう。力を貸してくれませんか?」


「ああ、いいとも」


 若い冒険者の頼みをカイムは了承する。


「俺達も冒険者だからな。世のため人のため、ここで一働きさせてもらおうか」


「ありがとう、助かります」


 若い冒険者が爽やかな笑みを浮かべながら手を差し出した。

 カイムは内心の思惑を隠したまま、何食わぬ表情で手を握り返したのである。


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