とある女性のお話し
◆東雲・凛子視点
私の名前は東雲凛子。BLが好きな小太りな25歳。俗に言う腐女子と言うやつです。そして私は今、とてつもない大きな悩みを抱えております。
「絶対にダイエットを成功させて、スリムなモデル体型を手に入れるのよ!」
昔から食べる事がとにかく大好きで、唐揚げやラーメン、焼肉と言った高カロリーの食べ物を食べ過ぎた結果、このようにふくよかな体型へとなってしまいました。
「私だって、男性の方達からチヤホヤされたい。イケメンに壁ドンされたり、【凛子は俺のものだからな、俺以外の男に惚れたら許さない、愛してるぜ……凛子】とか耳元で囁かれたい♡ はぁん♡ モテたい……」
可愛い女の子への憧れはあるのだけど、いつも食べ物を目の前にするとペロッと平らげてしまうのです。その度に明日からダイエットしようとか、このダイエットサプリを食べれば大丈夫、カロリー計算すればセーフだとかで、何だかんだ理由を付けて、結局あれこれ数年が経過してしまった。そのせいで、家の押し入れの中は通販のダイエットサプリメントや運動器具等でいっぱいです。勿論、運動器具は買ってから三日坊主で続きませんでした。
「ごくりっ……」
家の押し入れの中に封印して置いた体重計を自室に持って来たけど、正直乗りたくない……現実を受け入れる勇気が無いです。これでまた増えてたらと思うと……ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!! 何かのバグで、私の体脂肪落ちないかな? 朝起きたらスリムな美少女に……流石にそれは無いわよね。私は天に祈りを捧げながら体重計に乗りました。
「なっ……!? 3kgも体重が増えてるですって!? 何かのバグですかっ!?」
もしかして、この新しく買ったお洋服が3キロくらいあるのかしら? いや、この体重計が壊れている可能性があるかもしれないわ。わたしの完璧なカロリー計算では、そろそろ1kgは体重がマイナスしている頃合いです。
「落ち着くのよ凛子……私は痩せる、そう痩せてモデル体型を手に入れるのよ!!」
何が何でも絶対に痩せる! 私がそう強く思う切っ掛けとなったのは、とあるスーパーで私がアルバイトをしている時の話しです。
―――――数日前のとあるスーパーにて――――
「いらっしゃいませ〜! こちらのベーコン頬っぺたが落ちちゃう程美味しいですよー! 良かったら試食して行って下さい!」
私がスーパーで、ベーコンの試食コーナーを任された時の話しです。この日はベーコンの試食だった為、私は大いに張り切りました。大切なお客様に食べて頂くベーコンです。しっかりと焼けているのかチェックする為には、私自身が念入りに毒味をする必要があります。
「ふむふむ、あぁ……おいひぃ♡」
でも、もう少しだけ私が味見をする必要がありますね。プレートの隅の方にあるベーコンが、しっかりと焼けていない可能性があります。決して私が食べたいからと言う理由ではございません。試食の毒味をするのも立派なお仕事なのですから。
「全く、けしからんベーコンですね。もぐもぐ〜」
私が味見をしながらベーコンを焼いていると、小さな愛らしいお客様がトコトコとやって来ました。
「じゅるり……」
「あらあら♡ 可愛らしいお嬢ちゃんだね♪ 良かったら食べる?」
「んみゅ! たべゆ!」
何この子!? めっちゃ可愛いんですけど!? 金髪のエルフのコスプレをした幼女ちゃんが、目をキラキラと輝かせながらベーコンを見つめています。物凄く庇護欲が溢れ出て来る程の愛らしさ……全てが完璧な美少女……いいえ、美幼女ちゃんですね!
「おいちい!!」
「あらあら♡ 良かったらもう1つ食べる?」
「たべゆ!!」
幼女ちゃんがモグモグしながら食べる姿が、とても愛らしくて、私は幼女ちゃんに沢山のベーコンを食べさせてあげました。幸せそうに食べる姿を見てるとこちらも胸の奥がホッコリとして、とても暖かい気持ちになります♪
「んぅ?」
「あぁ、ごめんね。いつの間にか頭撫で撫でしちゃった♪」
「おいちかったの! おねえしゃん、あいあと!」
「どう致しまして♪ お嬢ちゃんは、ありがとうをしっかりと言えて良い子ですね♪」
この子は将来、誰もがすれ違い様に振り返る様な美少女になるでしょうね。純粋な心に触れたお陰で、私の心も少し洗われた様な気分になります。
「エ〜ル〜ちゃ〜ん? 試食はそんなに食べたらメッだよ?」
「ひゃあっ……!? あおいねーたん!?」
「もう、少し目を離した瞬間これなんだから……すみませんね、私の妹がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ! そんなことないですよ! 可愛いお嬢ちゃんですね♪」
なっ……また新手の美少女ですかっ!? ボブカットヘアーに愛らしいお顔……モデル体型……大きな胸……そこら辺のアイドルでは到底太刀打ち出来ない美しい容姿……アニメ声……こんな完璧な女性がこの世に存在しているのが信じられない……まさかの美少女姉妹……羨ましすぎる。
「ありがとうございます♪ 美味しそうなベーコンですね。一つ買っていきますね」
「ありがとうございます!」
私はベーコンのブロックを一つ幼女ちゃんのお姉さんに渡しました。このベーコン美味しくて、つい調子に乗って沢山食べちゃったらお腹が膨れました。げぷっ……おっと、失礼。私も女性の端くれ、今のは少し迂闊すぎましたね。そして、私が少しお腹をさすっていると……
「エルちゃん、そろそろ行くよ?」
「あおいねーたん!」
「ん? どうしたのエルちゃん?」
すると幼女ちゃんが、近くに置いてあった業務用で使う椅子を私の直ぐ近くまで持って来てくれたのです!
「にんぷしゃんには、やさしくしないとだめなの! かえでねーたんにおちえてもらったの!」
「ぐはっ……!?」
え……私、妊娠してないよ。ただ少し……ほ、ほんの少しだけ太ってるだけなのよ? 何だかナイフで胸を抉られたような気分です。幼女ちゃんの素直な言葉と言うのは、時にこうも残酷だとは思いませんでした。斜めからの右ストレートです!
「ちょっとエルちゃん!? そんな事言ったら失礼だよ!? すみません! 私の妹がとんだ発言を……あ! 私はふくよかな体型の人好みですよ♪」
「ぐはっ……!?」
「あ、え!? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……ほんの少しだけ、埃が目に入っただけなのです」
もう泣きそうです。て言うか泣いています。全世界の私が泣きました! 決めた、何が何でも絶対に痩せてやるんだからぁ! ちくしょおおおおおおお!!!
「あおいねーたん!」
「え、どしたのエルちゃん?」
「にんぷしゃんって……なにぃ?」
「「えっ……?」」
今更!? 思わずお姉さんと阿吽の呼吸で言葉が重なりました。まあ、ともあれこの子本当に可愛いわ♡
―――――――――――――――
まあ、そんな事があった訳ですよ。なので私は本気で痩せると確固たる意思を持って……
「―――――――――――――――♪♪」
「むっ!? この音は屋台ラーメンか!!」
駄目、今日から私は痩せると決めたのよ! 落ち着くのよ凛子! 現在私の中では、悪魔と天使が戦っています。誘惑と言う悪魔に打ち勝たなければ、私が思い描く理想のボディは手に入らない!
「本日限定の〜濃厚味噌チャーシュー麺〜美味しいよぉ〜限定だよ〜」
「げ、限定……!?」
それはずるいよ!!! 限定という言葉にめっちゃ弱いんですけど!? ダイエットを本気で決意した夜に何と残酷な……よし、耳栓しよう。そうすれば……
「あぁ……ラーメンの事考えてたら、もうラーメンの事しか考えられない!」
私は気分転換の為にトゥイッターのタイムラインを開きました。そして、恐ろしくとんでもないツイートを見てしまいました。そう……【らーめんなう】と……
「まあ、後1時間で日付け変わるし、0時過ぎればカロリーはリセットされる。このラーメン食べてからダイエット始めよ」
そして気付けば私は、お財布を持ってルンルン気分で家を飛び出しておりました。寝る前の【ラーメンなう】のツイートは本当にずるいです。




