【閑話】 一方その頃……かなでちゃんの憂鬱
◆一ノ瀬 奏視点
「…………」
私は今、人生最大の窮地に陥っている(N回目)。幽霊だった私が、新たに第2の人生を送れたのは幸運だったのかもしれませんが人生はそう甘くはありません。
「次の給料日まで……全財産、3086円」
給料日まで残り2週間。家には幸いお米とパチ屋の景品で獲得したお菓子がいくつかあるので食べ物は何とかなる。しかし、問題は……家賃と光熱費や消費者金融からの支払い催促。
「家賃と光熱費かぁ……すっかり忘れてたわ」
てか、こないだエヴォン〇リオンで万発出して8万勝ちしたのにそのお金は何処へ行ったんでしょうか。記憶にも残らない浪費……手持ちには3086円。
「滞納はそろそろ不味いわね……ふむ」
この残り少ない軍資金で家賃代を稼ぐしか道は無い!
「負けたらどうしよう……ううっ。そろそろ大家に身体を売る時が……いやいや、それは絶対嫌よ。それだけは私のプライドが許さないわ」
今の私は、傍から見れば最底辺の人間に見えるかもしれませんが、全くもってその通りです。昔はギャンブルや借金してる人間は終わってると思っていましたが、まさか私がそっち側の人間になるとは……とほほ。今の私にあるのは、若くて美少女だと言う一点のみだ。だからと言ってAVデビューはしたくないし、私の初めては好きな人とするんだと決めている!
「かと言って、キララさんだけには絶対にお金は借りぬ!」
ただでさえキララさんには色々な事でお世話になってるんだもん。これ以上迷惑は掛けられない。この問題は私が招いた怠慢なのです。なのでキララさんには内緒にしています。
「そうだ! まだあれがあるじゃない!」
パチ屋常連の山田のお兄さんに頂いた、ルマルコンティのネックレスがある。これを売ればそれなりの金になる筈だわ。売るのは少々心苦しいですが、これも生活の為……背に腹はかえられぬ。
「山田さん、ごめんなさい。これを売って今月の光熱費と家賃にさせて頂きます」
我ながら自分が段々と屑になってる実感がある。毎度私の中で天使と悪魔が激しく争っているのですが、最後には悪魔の囁きが勝ってしまう。
「……」
この山田のお兄さんから頂いたブランドのネックレスも私に好意があって、山田のお兄さんが善意でくれたものだ。私は恋愛感情とかには敏感です。自意識過剰とも思われるかもしれませんが、山田のお兄さんから感じる熱を帯びた視線……そもそも興味の無い女性にブランドネックレスを送る筈がない。
「1度借金も含めて整理しよう」
―――――――――
オンボロアパートの六畳間の一室。1人の黒髪の美女がハガキを見て顔を青ざめているのであった。
「一括返済催告状……えぇ、何これ。裏ボス来ちゃったパティーン? マ?」
ポストの中に埋もれていた赤色の紙。未払いの公共料金の中で、一際異彩を放つ【一括返済催告状】、名前からしてやばそうだ。
―――奏がその内容を読んで居ると来訪者を告げるチャイムが鳴ったのである。
「かなでちゃん、私だよ」
「あ、さーちゃん。空いてるよ〜」
「お邪魔します」
「いらっしゃい〜」
奏の家に訪れたのは、パチ屋で知り合って意気投合した親友の渡瀬沙耶香だ。通称さーちゃん。おさげの黒髪にメガネを掛けた大人しそうなお姉さんである。
「うわ、かなでちゃん。部屋片付けないと……ポストも溜まってるし」
「後で片付けるよ〜それより、さーちゃんこれ見てよぉ」
「ん? 何これ……一括返済催告状? お金借りてるの?」
「アイ〇ルやレ〇クとかから借りてるんだけど、どうやらアイ〇ルの方でかなりの期間滞納してたみたい。口座から引き落としされる筈なんだけど……何でだろう?」
ふむ、借金があり過ぎて最早首が回らない。最早草超えて森。
「かなでちゃん……それはかなでちゃんの口座にお金が入ってないだけなんじゃ」
「はっ!? そ、そっか。さーちゃん天才か!? そうだよ! 私、口座の残高常に千円切ってるよ! あははははははは♪」
「全くもう……いくら足りないの?」
「3万3千円ですぜ(キリッ) ちなみに今の所持金は3086円よ」
「やれやれ……私とかなでちゃんは持ちつ持たれつの関係だからね。お金貸してあげる」
「え!? ほんと!? ああああぁぁぁ女神様!」
さーちゃんには本当に頭が上がらない。ご飯を作りに来てくれたり、部屋の掃除を手伝ってくれたりと……それにさーちゃんとは出会った瞬間から意気投合したしね。これは運命なのかもしれません。出会った場所はパチ屋だけど。
「その代わり……今夜私を泊めて。お金は返せれる時で大丈夫だから」
「ん? そんな事で良いの?」
「うん」
「布団1つしかないよ?」
「!? むしろそれが良いの! お風呂も一緒に入ろーね♪」
「お、おう……さーちゃんの圧が凄い」
こんなオンボロの六畳間の狭い空間に泊まりたいと言うのは、世界広しと言えどもさーちゃんだけかもしれない。
「まあ、それに昨日ね〜私万発出たんだ♪」
「ええ!? まっ!? 羨ましい〜どの機種打ったの?」
「海〇語のアリンちゃんだよ〜テレビでたまたま海の特集を見てね、久しぶりに海見に行こうかなって思ったの♪ 透き通ったアクアブルーの綺麗な南国の海……アリンちゃんが私を呼んでたの♪」
「うん、さーちゃん。それは幻聴だよ」
見た目優等生に見える穏やかなお姉さんである、さーちゃんだけど、中身は相当にぶっ飛んでいて生粋のギャンブラーなの。
「さーちゃんは、今借金とか無いの?」
「勿論あるよ。50万くらい……だけど、借金してヒリつく方がパチスロは楽しいからね〜むしろ借金無い方が落ち着かないの。使っては行けないお金でやるギャンブルが一番脳汁出て楽しいの♪ 借金があるからこそ生の実感を感じるんだ♪」
「いやいや!? さーちゃん、私が言える事では無いけど、そんな状況なのに、さーちゃんからお金は借りれないよ」
「良いから、気にしないで。そうだ、かなでちゃん三千円あるんだよね? 2000円あげるから明日一緒に逝く?」
「え!? 良いの!? いやいや、待て、落ち着くんだ奏。ぐぬぬ……何と言う魅力的なお誘い何だ!?」
「明日は0が付く日だから、わんちゃん高設定あるかも」
「…………」
「ノリ打ちしよ♡」
「行く……行きます! 沙耶香お姉様に付いて行きます!」
こんな事言われたら行くしかあらへんよ! 3000円と2000円……技術介入出来る台でわんちゃん勝負を掛けれるか。
「かなでちゃん、それか1パチとかにして明日は気持ち穏やかに打つ?」
「さーちゃん、それは駄目だよ。生粋のギャンブラーなら、正規のレートで打たないとパチンコに失礼だよ」
「おおおおぉぉ……うん、かなでちゃん。ごめんね、私が間違ってたよ。そうだよね、それでこそ真のギャンブラーだよ!」
大丈夫、そろそろ確率は収束する筈。負けが続けば勝利の女神もやって来る。むしろお金が無いからこそ、ギャンブラーの本領発揮何だよ。財布に10万円入った余裕のある状態で打つのと、使ったら行けないお金を財布に入れてやるギャンブルではヒリつき度合いが違う。私はヒリ付けば付くほど強いタイプ何だ。
「かなでちゃん、一発二チェ勝負キメる?」
「お、良いね〜だけど、今日はランプが光る様な気がするんだ♪ トマトチャレンジやハラキリもわんちゃんあるけど」
「悩ましい所だね。打ちたい台は沢山あるけど……」
「行ってから考える?」
「うん、そうだね♪ 明日は勝って焼肉食べよう!」
「おう! やる気出て来たぞ〜!」
大丈夫、それに昨日私はエルちゃんにもご利益を貰っているからね。エルちゃんを抱いたり、頭を撫で撫でした翌日にパチンコ打つと高確率で勝てる。エルちゃん効果でバフが掛かった私は無敵!
「でも行くなら明日の朝早くが良いね。抽選を勝ち抜けるかどうか」
「そうだね、明日5時に起きて隣町のマル〇ンに行く?」
「いいね! 良し、ご飯食べながら戦略練ろう。今日は私の奢りで寿司キメよ♪」
「沙耶香お姉様、何処までも付いて参ります!」
「そんな大袈裟なぁ〜良し、かなでちゃんお寿司屋さんに電話して」
「らじゃ!」
―――――――――
「あぁ♡ この特上握り最高♡」
「大トロや鰻まであるね〜流石お高いだけあるね。かなでちゃん、あーんして♪」
「はむ……あぁ、これが至福のひととき……うぐっ!? ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛わさびが!?」
「くすくす……かなでちゃんは面白いね」
2人は仲睦まじく、年季の入った折り畳み机を囲いながらお寿司を食べ女子トークで盛り上がっていた。
「あ、そうえば前に少し面白いエピソードがあったよ。と言うか失敗談だけど」
「面白いエピソード?」
いやいや、さーちゃんはその生き様が既に面白いよ。これ以上面白いエピソード何てあるのかしら?
「こないだね〜持ってたトレカをお店に売りに行った時に、駐車場無くて路駐したんだけど」
「ふむふむ、トレカ……今流行りのポ〇カとかかな?」
「うん、そうだね。トレカが7000円で売れたんだけど、駐禁切られ罰金8000円を支払ってマイナスになっちゃったよ〜あはは♪」
「流石さーちゃんだ……持ってる女は違うねぇ〜私なんて面白いエピソード何て全然無いよ」
「いやいや、かなでちゃんと一緒に居るだけでいつも腹筋が崩壊してるよw かなでちゃんは歩く変態……かなでちゃんの迷言は私の心にいつも響いてるよ♪」
おお〜私の名言かぁ。何かそんな大層な事言ったけ?
「あ、かなでちゃん。今、イベントの情報が入って来たよ。明日ここの店の方がイベント熱いかもしれない」
「良し、明日の立ち回りを考えよう」
「うん♪」
この時の奏は、すっかりと頭の中から支払いや滞納と言う文字は消えて居たのである。そして、翌日……2人は仲良くボロ負けしたのであった。
 




