仲良し同盟の日常
◆白猫のタマちゃん視点
・一ノ瀬家のリビングにて・
「んん……もう、なによぉ……朝から騒々しいわねぇ……ふわぁぁぁあああ」
リビングのソファの上で寝ていた白猫のタマちゃんが目を覚ます。タマちゃんは欠伸をしながら、その場で身体を伸ばして辺りをゆっくりと見渡した。
「またエルがやらかしたのかしら?」
この家に住み始めてから、私達もかなりの月日が経つわね。一ノ瀬家も当初に比べるとかなり賑やかになったと思う。楓お姉さんと葵お姉さんは優しくて、私達……野良猫達を家族の様に暖かく迎えてくれたの。
この真冬の外は冷えるだろうと言う事で、わざわざ一ノ瀬家の空いてる部屋の1つを私達の為にエアコンを付けて、住処やご飯までも用意して頂いてる。猫部屋にはふかふかの寝床やキャットタワーと言う物まで多種多様な物が置いてあるわ。猫からすれば、その部屋はまさに楽園だ。
更には楓お姉さんと葵お姉さんが、お庭に仲良し同盟の仲間の為に小屋やお家も作ってくれているの。我が家に毎日遊びに来る小鳥のぴーちゃん達は、楓お姉さんと葵お姉さんが作ってくれたお手製の小屋に感激して、今では2人のお姉さんの肩や頭に乗る程懐いている。ぴーちゃん達は一ノ瀬家の庭を拠点として現在活動しているわね。
モグラのヘイゾーは特に楓お姉さんと葵お姉さんに懐いているわ。普通は人間を見ると逃げるモグラだけど、楓お姉さんと葵お姉さんが近くに来るとひょっこりと顔を出し、自ら近付いて鼻を擦り付けて甘える程だ。
モグラのヘイゾーが葵お姉さんに頭を撫で撫でして貰っていたのを私は何度か目撃している。仲良し同盟の面々も新たに増え、今ではかなりの大所帯になりつつあるわね。
「さてと……今日も忙しくなりそうね。昼からお客人が来るらしいし……お庭とお部屋のお掃除しなくちゃね。あっ、その前に……」
タマちゃんはリビングの机の上に置いてある計算ドリルを前足を使って器用に開いた。口で赤鉛筆を咥えて、エルちゃんのお勉強の答え合わせをしようとしていたのである。
「ふ〜ん。どれどれ……あら、エルまた間違えてるよ。8+7=13じゃないよっ〜と。15だよ」
しかし。最初は1+1も分からなかったあのアホなエルが……ふふ♡ ちゃんと日々成長してるのね。何だか出来の悪い妹を持った姉の様な気分よ。私も時間を作って、日頃から本を開いて読んだりと色々お勉強を頑張っているわ♪
自分で言うのもあれだけど、普通の猫と違ってどうやら私は少しだけ賢いのかもしれない。
「温良恭倹、虚心坦懐……人間の言葉は面白いわね。私ももっと色々とお勉強してエルに教えてあげよ♪」
タマちゃんは、にゃあにゃあと尻尾を振りながら、ご機嫌な様子でエルちゃんの書いた計算ドリルを赤鉛筆で採点して行く。
「…………」
いくら私が頑張った所で、私がエルのお姉ちゃんになる事は無理なのは分かってる。ふむ、人間と猫……かぁ。時折、楓お姉さん達を見ていると人間って良いなぁと思う。私がもし……人間だったら、エルの面倒を見たり、一緒にお風呂入ったり……おもちゃで遊んであげたり……
タマちゃんは寂しそうな表情で目を細める。
「ふぅ……そんな事、望んでも不可能ね。足るを知る……今の現状でも猫として十分幸せよね。暖かいお部屋と寝床、更には美味しいご飯まで貰えるんだから」
恩には恩。私もタダ飯を食らう訳には行かないわ。私に出来る事を1つでも多くするんだ。まあ、それは仲良し同盟の皆も同じ気持ちよ。
「ん? なにこれ……何の落書きだろう?」
計算ドリルの余白に落書きとは……エルらしいわね。いや、待てよ? 画力の低い絵だけど、それぞれ何かしらの特徴があるわね。これって、楓お姉さんと葵お姉さんと私達かな?
お姉さん達は、かろうじて髪の毛の長さで判別出来るけど、この四本の細い棒と化け物みたいな可愛げの無い生き物……これもしかして私か? 私こんな間抜けな顔してないわよ! ごほん。お世辞にも上手いとは言えないけど、まあ悪くは無い。どうせならここをこうして、もう少し可愛らしくしてやろう。
「…………うーん」
謎の未確認生命体が生まれてしまった。やっぱり口で咥えて書くのは難易度が高いわね。鉛筆を器用に使える様に毎日練習は欠かさずして居るけど、完璧にマスターするまでまだまだ先ね……
「エルの絵はある意味凄いなぁ。ここまでアホ……人生に悩みのなさそうな顔を書くのは本当ピカイチね」
タマちゃんは次のページを捲り、エルちゃんの解いた問題が間違って居ないか隈なくチェックをした。
「エルの思考は大半が食べ物絡みよね……500円玉で買い物した時のバーゲンダッツ、お菓子、焼肉のタレ等のお釣りの計算は出来るのに5+5=55って……本当エルって面白いわよね♪」
―――――――――
「ふぅ……色々と間違ってるけど、まあこんな所かな。採点終わり」
タマちゃんは計算ドリルを閉じて時計を見る。
「定例会議の時間まで、まだ余裕があるわね……この家大きいから、今からでも掃除しようかしらね」
ふむ、どうやら葵お姉さんとエルは再び二階の寝室へと行ったみたいね。もう一眠りするのかしら? ならば今がチャンス! 私達は楓お姉さん達に気づかれない様にいつもひっそりと行動しているの♪
「タマ殿、おはようございます」
「あら、ゴキオ。おはよう〜あんたも朝早いわね」
「はい、我等一同、不届き者から一ノ瀬家をお守りする為に、交代で主達が寝ている間は常に目を光らせ警護にあたっておりまする」
「あんたも相変わらず律儀ね……ゴキオ、ご苦労さん」
そして、ゴキオに続いて妹のゴキ子もリビングへとやって来る。
「ちょっと! ゴキオお兄ちゃん!」
「ゴキ子!?」
「また水浴びサボったでしょ!」
ん? 水浴び??? え、ゴキオ達そんな事してるの? ゴキブリなのに???
「あ、タマちゃんおはよう♡」
「おはよう♪ ゴキ子ちゃん、失礼な言い方かもしれないけど……ゴキブリにも水浴びとかする文化あるの?」
「う〜ん、私達が特別なだけかな♪ 普通は無いよ〜エルちゃんがくれた人間の【ぼでぃーそーぷ】と言う白くてドロっとした液体が私の身体に合うんだ♪ 良い匂いもするし、これを使うと甲殻の艶が違うの!」
「そ、そうなんだ……へぇ」
え、もしかしてゴキ子ちゃん達の方が清潔に対する意識高いの??? と言うかその身体でどうやって身体洗ってるのかしら? 私も猫用シャンプーでたまに葵お姉さんに身体を洗って貰ってるけど……
「お兄ちゃん、私汚いのは嫌だよ」
「わ、分かったよ。この後水浴びで身体を清めてくるぞ」
仲良し同盟のみんなって、何か妙に人間臭い所があるんだよね。良く言えば個性的と言うか……だが、種族は違えど、みんな綺麗な方がやっぱり良いわよね。私も常に清潔に居ようと毛繕いしたり色々しては居るけど……くんくん。私の身体、変な匂いしてないわよね?
「あ、そうだ。タマちゃん、今日のお掃除終わった後にお庭の池近くでムカデの姉御、タランチュラのエリザベス、カルガモのマダム、ミシシッピアカミミガメのカメミちゃん、カエルのリンちゃん、お猿のサチエちゃん、イタチのチーちゃんとみんなで女子会する予定何だけど、どうかな?」
「女子会!?」
何と言うカオスな面々だろうか。ゴキブリ、ムカデ、タランチュラ、カルガモ、亀、カエル、猿、イタチ……そのうち一ノ瀬家のお庭は魔界……動物園になる様な気がしてきたわ。
まあ、仲良し同盟のメンバーは皆優しくて、相手を尊重したり気遣ってくれるような、素敵な方が多いから私は好きだけどね。そのリーダーのエルも愛されキャラと言うか、みんなから慕われて居るしリーダーとしての魅力や素質も何気に兼ね備えている。アホだけど。
「お誘いありがとう♪ 今日は私達も忙しいからまたの機会に誘ってよ♪」
「そっかぁ……タマちゃんも無理しないでね」
「大丈夫よ♪」
今日はお掃除を終えたら、午後から私達野良猫も接待があるんだ。エルから仕入れた情報によると、どうやら今日遊びに来るお姉さんの1人が、超が付く程に猫が大好きらしいの。なので、私達がお・も・て・な・しの心を提供するんだ。この言葉はテレビで覚えた言葉で、私のお気に入りでもあるの♪ 玄関で並んで客人をお迎えする予定よ♪
「よぉし、玄関のお掃除から頑張るぞぉ〜えい、えい、おっ〜!」
「ゴキ子ちゃん朝から元気だね〜」
思えば、ゴキオやゴキ子ちゃん達との付き合いも割と長いわね。ゴキオは影に潜む者……決して楓お姉さん達の前に現れる事は無い一ノ瀬家の目だ。ゴキ子ちゃんは仲良し同盟のムードメーカーの1人で、色々と機転が利く上にコミュニケーション能力が高い。
「我々も粉骨砕身、身を粉にして頑張る所存。こないだの件もありましたからな」
「ゴキオ……こないだのあれね。あれは私達も驚いたけど、今後とも変な輩がこの家に侵入する可能性も十分あるわよね。ここの家、豪邸だし」
今から約2週間くらい前かしらね……深夜に一ノ瀬家の豪邸に、3人組の男と思われる不審者が侵入しようとした事件が密かに起こったの。ゴキオは怪しい者の存在に逸早く気付き、持ち前の素早さで仲良し同盟の面々に知らせてくれたんだ。
楓お姉さん達は寝ていたから知らないかもしれないけど、その日は仲良し同盟の面々が、力を結集させて不審者を見事に撃退したんだ。ムカデの姉御が【仁義外れの外道が!! あたいらの縄張りに土足で踏み込む奴は、容赦せえへんでぇ!!】とか言って相手の身体を思いっ切り噛んでいたわ。
「ふむ、今日は家のお掃除があるから、明日の定例会の議題のひとつに緊急時の防衛対策についても議論しよう。これについては今後も議論を重ねてブラッシュアップをしていく必要があるわね」
「うむ。タマ殿、今後とも忙しくなりそうですな。主達をお守りする為、このゴキオ! 鬼でも修羅にでもなります!」
「う、うん……それは頼もしいわねぇ」
・一ノ瀬家の玄関付近にて・
現在の時刻は朝の6時。仲良し同盟の面々が一ノ瀬家の玄関付近に集まっていた。白猫のタマちゃんは仲良し同盟【エルちゃんズ】の副リーダーとして皆に指示を出す。
「タマの姉御、各々揃いました」
「うむ、カゴメご苦労様。ごほんっ……みんなおはよう。それでは、仲良し同盟の定例会議を始めるわね」
「おはよう〜」
「うぃッーす!」
「おはよーです!」
タマちゃんは皆を見渡せるように段差の少し高い場所へと移動をする。タマちゃんの右腕でもある黒猫のカゴメもタマちゃんに追従する様に傍に控えた。
「皆も知ってる思うけど、今日は午後から一ノ瀬家にお客さんが来るわ。なので、皆で手分けしてお掃除するわよ! まずはお庭からね」
「おうよ! タマ坊、あたいらは何処をやればええんや?」
「ムカデの姉御達には、入口付近の草抜きをお願いするわ。私達は玄関前の草抜きと窓枠のお掃除と廊下を掃除する予定よ」
「Hey! たまっち、オイラは?」
「モグラのヘイゾーは、引っこ抜け無い草を地中に潜って抜いて行って頂戴。私達にとって除草をするのは重労働だからね。他のみんなもまずは草抜きからよ! 一ノ瀬家のお庭の手入れは私達の手にかかっているわ!」
タマちゃんがテキパキと指示を出して行くと皆はその指示に従い草抜きを始める。
「タマちゃん、壁際にツタが生えてるけど取っちゃう?」
「うん、じゃあ小鳥のピーちゃん達とカラスのサスケ君達に壁際のツタの除去をお願いするわ」
「おっけ! 任せてよ!」
みんなでやれば3時間くらいで何とかなるだろう。
「あのぉ……た、タマちゃん……私はどうすれば良いかな?」
このモジモジとした気弱な性格のお猿さんの名は、サチエちゃんだ。種族はどうやら日本猿と言うお猿さんで、以前食べ物を探し求めて、近くの山から下山した際に我が家に迷い込んだそうだ。お腹を空かせ泣いていたサチエちゃんに、楓お姉さんがバナナをあげた所その優しさに感極まって泣きながら食べたみたい。
それからサチエちゃんは頻繁に我が家に遊びに来るようになり、いつの間にか一ノ瀬家の庭に生えてる大きな木の上を住処に現在は一緒に暮らしている。
「サチエちゃんは玄関前とタイルの敷かれた道を箒ではいてくれる? それと皆が抜いた草を袋に詰めて欲しいの」
「うん、了解!」
「タマさん、ワタクシ達は何処をやりましょうかえ?」
「カルガモのマダム達は、池に浮いてる葉とゴミを取ってくれる? ミシシッピアカミミガメのカメミちゃんとカエルのリンちゃんと協力して」
「了解したでありんす」
「では頼むわね! お掃除開始よ!」
仲良し同盟の皆は気合い十分と言った感じで、各々に割り振られた作業をこなす。
 




