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一ノ瀬家に向かう彩芽と氷華

 



 ◆九条氷華(くじょうひょうか)視点




 ―――現在、神楽坂彩芽(かぐらさかあやめ)と美玲のメイド、九条氷華(くじょうひょうか)は黒の高級セダンの後部座席に乗り一ノ瀬家へと向かう道中であった。




「氷華、体調はもう大丈夫なんか?」

「はい、体調の方はバッチリで御座います」

「ぷっ……まあ、気持ちは分かるぞ。エルちゃんの可愛さは異次元やからな。しかし、あの剣聖が……心肺停止で闇医者に運ばれるとか前代未聞やな♪ あははははは!!」

「お、お恥ずかしい限りで御座います……」


 穴があったら入りたいとはまさにこう言う事……昨日は闇医者に運ばれちゃったから、聖地(一ノ瀬家)へとお邪魔する事は叶わなかった。しかし、今日はモモネちゃんのお家にお邪魔すると言う人生のBIGイベントに参加する権利を得たのです!


「今日の氷華は目が生き生きとしてるなぁ。しかも、メイド服で無く私服とは珍しい」

「今日は久しぶりの有給なのです♪」


 ぐふっ……ぐふふふふ♡ あぁ、今日は美玲お嬢様の面倒を見なくて済むし、葵さん達のお家にお邪魔させて頂けると言うモモネファンからしたら、涎もののご褒美♡


「まさか、氷華がVTuberやアニメが好きだったとはびっくりやでぇ〜しかも、葵ちゃんがあの有名な西園寺モモネだったとは驚きの連続やわ。エルちゃんの事もそうやけど」

「私も驚きました。事実は小説よりも奇なりですね」

「せやなぁ……と言うかエルちゃんのあの可愛さもそうだが、あの長い耳……本物だよな?」


 確かに……ボスの気持ちも分かる。あの尋常ではない可愛さと言い物語上で登場するエルフ特有の長い耳。あの子はある意味危険だ……


 そもそもエルフは空想上の物語に登場する種族です。現実に存在すると言うのが未だに信じられません。


「この世界は未知で溢れていますね」

「せやな。まあ、耳が長かろうが短ろうが、エルちゃんはエルちゃんやで♪ 食いしん坊で素直で甘えん坊な優しい女の子♪ 今日はエルちゃんに沢山お土産買うてきたでえぇ♡」


 ふふ……ボスは子供が大好きなのですね。今のボスは表情が穏やかで温厚なお姉さんと言った感じです。こっちがボスの本当の姿なのかもしれません。

 あの子……エルちゃんには何か不思議な力があるのかな? 周りを幸せにする天使ちゃんと言うべきかしら。


「氷華見てみ、これならきっとエルちゃん喜ぶやろ〜」

「お菓子の詰め合わせで御座いますか。しかも、子供が好きそうなお菓子が沢山」

「あたいが厳選したお菓子や♪ 昨日キララの姉御のお店、明智商店で購入しといたんや♪」

「おおぉ……歌舞伎町の帝王、【オネエの重鎮】ですか」


 早乙女さんと実際話しをした事はありませんが、早乙女キララ……謎多き人物であり、裏社会でも高名であらせられる【オネエの重鎮】。私が所属する一大極道組織、天狼会でも要注意人物として指定されています。


 噂に寄れば、早乙女さんは政財界にも繋がりがあり、その卓越した先見とカリスマ性でオネエ界隈の頂点に君臨するご意見番。謎のヴェールに包まれ情報は少ないが、ただ1つ言える事だけは……決して敵に回しては行けない御仁であることだ。


 ―――そして、大人気VTuber西園寺モモネちゃんの大ファンでもあり、西園寺モモネ四天王の一人としてもネット界隈でも名の知れた御仁。モモネちゃんに変な虫が付かないように早乙女さんが影で守っていると言う噂も一時期出回っていましたね。


 確かにあの大人気VTuberのモモネちゃんともなれば、トラブルの1つや2つ起きてもおかしくは無いのですが、驚く事にトラブルがほとんど起きていないのです。


 たまにコメント欄にアンチが湧く事はありますが、モモネちゃんの親衛隊……モモネファンにより駆逐されていますし、謎の力でそのアンチの方の垢は凍結されたりBANされちゃいますからね。


 最近ファンの間では新興宗教、【忠実なるモモネの下僕】となる宗教も出来ている程に人気は減速する所か加速して行く一方です。私もモモネファンとして負けてられません!


「ボスは何故、おネエの重鎮と繋がりがあるのです?」

「あぁ……昔なぁ。訳あってキララの姉御には世話になったんや。見た目はインパクトのあるお人やが、情に厚く芯のある素敵な姉御や」

「そうでしたか……」


 もしかして、ボスの情に厚い性格は早乙女さんの影響を受けているのかもしれませんね。ボスは普通の極道とは違う。喧嘩は強いですが、どちらかと言えば極道に向いてる御方ではないと思う。根は素直で真面目、裏を書く事は苦手で、愚直で真っ直ぐ突き進むタイプのお人です。


 むしろ極道に向いてるのはうちのアホ……綾辻美玲お嬢様の方かもしれません。黙って入ればお淑やかな美しい女性ですが、その本質は残虐性が高く、飢えた獣よりも恐ろしい。そのうえ頭のネジが1つ……いいえ。100本くらい抜けていると言っても過言では無いお嬢様です。


「下の者に言っとかなあかんな。早乙女キララには手を出すなと……さもなくば、こちらが返り討ちに合うやろな」

「それ程までですか……」

「キララの姉御も勿論そうやが、キララの姉御に忠誠を誓う四天王とキララの姉御がキャンディーと呼ぶオネエの連中がやばい。更には早乙女キララの影とも呼ばれるドM三銃士とか言う3人組の変態が居るんやが、そいつらは拳法の使い手で、国の元特殊部隊に所属していた超エリート軍人だ。レンジャーの資格も有しているそうだ」

「ドM三銃士……ごくり」


 何と言うふざけ……ユニークなお名前でしょうか。名前からして、決して関わりたく無いお相手ですね。そう言うお相手と関わるとろくな事が起きないと相場は決まってます。


「まあ、実際ドM三銃士とは遭遇した事は無いけどな。本当の所は知らん」

「……」


 あまりバッドエンカウントはしたくありませんね……変態は色々な性癖を拗らせた美玲お嬢様だけでお腹一杯です。これ以上変態と関わったら胃もたれ起こしてしまいそう。


「氷華、そうえばその足元にある大きな荷物は何や?」

「はい、このダンボールの中にはモモネちゃん……葵さんに捧げる供物です。楓さんやエルちゃんのお土産も勿論入っております♪ 昨日準備したのです。今年の冬は例年よりも寒そうですからね、一ノ瀬家の皆さんには暖かく過ごして頂こうかと思い、カイロ、のど飴、マフラー、ネックウォーマー等あると便利な物をセレクトしてみた次第で御座います」

「お、おう……氷華、そんなに喋る様なキャラやったけ?」

「ポッ……(恥ずかしい)」

「ぷっ……あたいは素の氷華の方が素敵だと思うぞ? だけど、何だか安心したわ。あの怪物と呼ばれた天狼会の氷剣姫に人の心があったんやと」

「あ、ありがとうございます……」


 私は怪物でも無いし唯の小心者なコミュ障ですよ……とほほ。周りは私の事を美少女の皮を被った怪物だとか、趣味が人斬りで人の苦痛に歪んだ顔を見て興奮するサディストだとか、色々な噂が1人歩きしてるせいで私の知らない所で自分のイメージが最悪なのですよ! 


 本当はお洒落や化粧もしたいし、友達と一緒にカフェ巡りもしたいし、イケメンで優しい彼氏も欲しい……何でこんなむさ苦しい男達ばかり居る極道の世界に居るのかしら? しかも、私の上司はサイコパスで頭ぶっ飛んでるあの美玲お嬢様だし、もう私の人生踏んだり蹴ったりてす。辞職届けは謎の力で毎度消されてしまうし……あぁ、涙出そ。


「氷華も大変そうやな。美玲は我儘やからなぁ……まあ、今日はゆっくりしてくれや」

「はい、そうさせて頂きます」



 私が天狼会の中でも怪物と恐れられたきっかけとなった事件があります。



 ―――3年前に韓国マフィアと天狼会が全面抗争をしていた際、美玲お嬢様の元で護衛を務めて居たのですが、私は人を斬るのが怖くて逃げ出そうとしていました。



 しかし、敵の包囲網は凄まじく、助かる道は強行突破をするしかない地獄の様な死地だった。そんな時、私は聞こえる怒号や悲鳴から目を背ける様にして、ヘッドホンを装着し西園寺モモネちゃんの歌を大音量で聴きました。せめてここで死ぬなら、最後に推しの声を聴きながら逝きたいと思ったのです。


 ですが、モモネちゃんの【Dear my frend】を聴いてたら次第にドクドクと波打つ様な脈は治まり、冷静になっている自分が居ました。襲い掛かって来る凶悪なマフィアを見ても恐怖は無くなり、私はモモネちゃんの声に元気と勇気を貰ったのです。麻薬よりも中毒性がある妹系癒しロリボイスを聴いて、私の脳内はその時お花畑でしたね。


 そして、モモネちゃんの歌が終えた後、気付けば敵は皆……寒空の下、地面に冷たくなって倒れていました。後からその場に居た味方から聞くと、【九条氷華……冷たい無表情で敵を斬るその姿。凍てつくような慈悲も無い斬撃……まさに氷剣姫】、【何と言う化け物だ……】、【おいおい、1人であの人数を斬ったのか。嘘だろ……】とか、挙句の果てには美玲お嬢様までもが、私の事をサイコパスを見るかの様な目でドン引きしていました。


 それ以来、私は天狼会の極道達にも恐れられる存在となり、本部を訪れると極道達が道を開ける程です。私の本質は小心者のごく普通の女ですが、世の中は本当に奇っ怪なファンタジーだ。


 唯の引きこもりニートから、あの有名な資産家でもあり、政財界に大きな影響を持つ財閥のお嬢様、綾辻美玲のメイドとなり、挙句の果てに天狼会で氷剣姫と恐れられている。私の人生……この先どうなるのでしょうか?


「ふふっ……今日こそ普通の女の子になるの。まずは楓さんと葵さんとお友達になるんだ……連絡先交換してくれるかなぁ? ふぅ……いやいや、私如きがそんな……あぁぁ」



 氷華は葵と楓のお友達になりたいと強く願う……





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