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9.ぶとうかい





 おっす!オラ、ヴァイオレット!

 今日は舞踏会!


 わくわくすっぞ・・・


 宮廷舞踏会ですが、ワクワクじゃなくてガクブルですの・・・


「ヴィー、とっても似合ってるよ。ドレス着てくれてありがとう。」

「こんな高価なもの頂いちゃって。気にしなくて良いって言ったのに。」


 収集したラピスカサロの黒曜石を、民の為に役立てて欲しいと全部あげた所、御礼にと宮廷舞踏会への招待とドレスや装飾品一式を贈ってくれた。


 今日は希少なカルデアンクリームが使われたケーキが出るそうで、メシ食おうぜ!みたいなノリで誘われた。


 律儀にエスコートしてくれるのだが、皇子や皇女がいっぱいの会場から受ける視線が痛い。


 グサグサ刺さりますわ。


 カスパー殿下は婚約者がいない事で有名だから、彼狙いの女性も多いのだろう。



 因みに今私はモルゲンシュテルン家に籍は置くが、アルマロス様のお屋敷で住み込みで働いている。

 最初は通いだったけれど、業務が多くてブラックなんですの。


 今日は着替えのためにモルゲンシュテルン邸に戻ったけど、侍女さん達が張り切って準備をしてくれた。

 皆のお陰でちょっとは侯爵令嬢っぽく見えてると思うのです!



「これはこれは、お美しいお嬢さんですね、カスパー殿下。」


 継承権第一位のルートヴィヒ様と第三位のアルブレヒト様のコンビが声を掛けてくれると、ティルも嬉しそうに二人に挨拶していた。


 あれ?対立候補だって話だけど、すっごく仲が良さそうですわねぇ。


「今日出されるカルデアンクリームとヴァツカーヌキルシュのケーキがとても美味しいから友達を招待したんだ。」


 ヴァツカーヌキルシュ!エイスローラですわね!

 戦友から頂いて以来、わたくしの大好物でしてよ。


「久しぶりだね、ヴァイオレット。元気そうで何よりだ。」

「こちらこそご無沙汰しております。その節は大変なご迷惑をお掛けしまして、まことに」

「謝罪など必要ないさ。それに、君が解放されて良かった。」


 アルブレヒトさんは私の事情も知ってくれていたらしい。労いの言葉を掛けてくれた。


「では君が、星降の魔女を覚醒に導いた魔術師、ヴィーか!」


 ルートヴィヒ様が良くやったと笑顔で言っていたが、言えないのですわ。

 スフレチーズケーキの件はリューシャちゃんの名誉のために秘匿しなければならないのですわ!


 と思ったら皇子三人知ってたっぽい。

 スフレチーズケーキ美味かったぞと、そちらの考案もついでに褒められてしまいましたの・・・


 それにしてもルー様とアル様のコンビを目の前で堪能出来るこの幸せ・・・

 わたくしの中の貴腐人が大興奮でしてよッ・・・!


 しかもそこに添えられたティルの笑顔。何と爽やかな事でしょう。

 尊いのですわ。


 取り敢えず萌えを補充し、ティルと食事ゾーンへ。

 立食も良いのですわ。

 食べ放題的なお得さとは裏腹に豪華な装飾。帝都の調理技術パネエ!



 だが、こういう事が現実に、しかも自分の身に起こるとは。


「あら、ごめんあそばせ。」


 ティルが挨拶に捕まり、私が一人になった隙を狙われたのでしょう。

 手が滑ったという言い訳もできなそうな大振りで、真っ赤なワインをぶっかけて来た御令嬢がいらっしゃったのです。

 悪役令嬢気取りかな?



「わたくしは何とも御座いませんけれど、貴女は持ち手が揺れてしまう程お疲れなのですね。お大事になさって下さいまし。」


 師匠!物理結界伝授してくれてあざぁっす!

 バッチリ防いじゃいましたのよ!


 飛び散ったワインは、急いでこちらに駆け寄る給仕さんの為に水流操作で纏めて移動しておいた。


 わたくしも魔力操作が大分細やかになって来たのではなくって?

 自画自賛ですのよ!オーッホッホッホ!


「ヴィー、ごめん。危ない目に遭わせちゃって。」

「平気だから気にしないで。それより、物理結界と水流操作見てくれた?

 でも、よく考えたら最初から水流操作だけにしておけば床に落ちなくて済んだわよね?」


 そう言えばティルは吹き出す様に笑った。


「咄嗟だし、展開速度は結界の方が速いんじゃないかな?だからさっきの手順でいいと思う。」

「えへへ、ありがと!」


 その後食べた、エイスローラとカルデアンクリームのムースケーキはとても美味しかった。

 濃厚で滑らか。コクもあって、柔らかな後味。それなのにエイスローラがサッパリ爽やかを演出している。

 恐るべきクリームですわ!


 やっぱり友達と食べる食事やケーキは美味しい。

 気の合う友達との会話も楽しいし!


 まだ視線は気になるけど、今日は少しだけ重武装ですのよ?

 自作の繊維入りマスカラでまつ毛増毛。

 アイシャドウの薄い重ね塗りで目の横幅を自然に広げる。

 シェーディングとイルミナイザー。

 クラルハイトを極限まで粉状にし作り上げたマットリップ。

 口角上げメイクも今生のこの顔に合う。


 前世より彫りの深い顔なので試行錯誤は続いたが、ようやく自分の顔を理解した。


 この会場内の誰よりも手間が掛かってるだろうけど、ぱっと見は誰よりも薄化粧に見えるのだから、化粧の技術力って凄いのですわ。


 前世のメイクアップアーティスト達に感謝を!






***


 食事と冒険談義を目一杯堪能した私だが、今日はモルゲンシュテルン邸に帰りそのままお泊まりして明日帰る事になった。


 ドレスと装飾品の扱いはプロにお任せしないとね。


 因みにこのお屋敷の侍女さん達の間でもナチュラル詐欺メイクが流行中。

 お陰で皆良くしてくれるけど、ブラック勤めなものであまり帰れていない。


「ヴィー、お帰りなさいませ。」

「ジーク姉様、只今戻りました。」


 因みに養父である宰相様もブラック勤めですので、今日もまだお仕事中。


 それにしたって、私の学生時代の最推しがこんな可憐な美少女に・・・


 ジークフリート先輩はジークリンデ姉様になってしまっておりました。



 学生時代、少し背が低めだけど超絶美形だったジークフリート先輩は女子生徒の憧れだった。

 中性的な美しさと、何よりもその強さ。その剣技は百年に一度の逸材と言わしめた。


 お着替えをして、侍女さんにお茶の用意をしてもらうと自分の魔術工房へ。


 フォルトーナにいた頃は、魔術工房を持たせて貰えなかった。貴族なら十歳の誕生日に贈られるものだと知ったのはいつだったろう。

 私には専属の侍女も居なかったし、世話をしてもらえない日だって多くあった。


 このお屋敷に初めて来た時、宰相様とジーク姉様が整えてくれたと言う魔術工房に入った瞬間号泣してしまった事を思い出す。


 あたふたする二人に、これは嬉し涙で感涙だからとぐしゃぐしゃの顔で伝えては更にオロオロさせてしまったのだった。


 氷の宰相と言う渾名も真っ青なオロオロっぷりだった養父様。

 そして子育てに奮闘する父親らしい一面だったと、使用人からの人気がアップしたそうですわ・・・。


「ヴィー、少し良い?」

「はい、勿論ですジーク姉様。」


 ジークリンデ姉様は、私が家にいる時殆どの時間側にいてくれるのです。

 研究談義が楽しいからとは言いますが、恐らく気遣いだと思われますの。

 尊いお姉様ですわ・・・!


 そんなお姉様はつい最近、勝手に神殿から聖女認定を贈られてしまったのです。今必死に返品と除名をお願いしているのだけど、中々上手くいっていません。


 姉様は学院で聖書と属性研究を専攻していて、研究テーマは神聖属性なのです。

 そんな中、聖女と光属性に着目した姉様は実験と称して様々な場所で治癒を行っております。

 勿論水魔術での治癒も欠かしません。


 ・・・目の前に神聖属性の現物が居りますが、まだ事情を話せてはおりません。

 相変わらず指先に薄らポヤっと出力できる程度ですしね。



 でも、聖女に勝手に認定された事で疑問の一つが解消されたと言うジーク姉様。


 神殿が言い張る、聖女認定の神の啓示は無いと。

 まあね、ジーク姉様は本当は兄様ですものね!



 ーー女神の願いにより水の神獣は天より降立ち、瘴気の灰に蝕まれる世界を光によって癒した。

 そして、その力は乙女達にのみ受け継がれてゆく。



 乙女とは魔女を指し、癒しの光とは神聖属性魔力だろうという所まで研究が進んでおりますが、サンプルは遥か彼方。

 この世界の上空に輝く、天空の女神の加護である白帯にあるのです。


 きっとこの星は土星の様な輪っかが有るのですわね。

 しかし、神聖属性を含む岩や氷ってどれ位の高さにあるのでしょうか。

 飛行船では届かなかったそうですし、ドラゴンでもダメだったそうです。


 ですが、ジーク姉様の研究はいずれお手伝いできればと思います。

 今はしばしお待ちくださいませ姉様!





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