31.小さな騒ぎ
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今の宮殿内は襲撃警戒体制バッチリ。
ユヴァーリ領も勿論警戒中だそうです。
因みにフォルトーナは廃領が決まり、周囲の領地に割譲される事が決まりました。
恐らく一番喜んでいるのは領民でしょう。
故郷にいる時何の役にも立てなかった自分は、少しで
も彼等がこの先幸せに暮らしていける様にと祈ることしかできません。
「えっ!?出頭ですか?あのルナリア姉さんが!?」
今日のお昼時に飛び込んで来た大ニュース。
しかも取り巻き達も一緒に来ているそうで、一件落着感が凄いのです。
「にしてものう、最期に妹に謝罪をしたいという懇願。どう思う?」
「あー、嫌な予感しかしないですね。」
他の取り巻き達は別々に取り調べだし、特に問題行動を起こしている訳ではないそうです。
「武装もしておらんし。マジックアイテムストレージの強制解放でも食糧が出ただけときておる。」
お師匠様は、それが逆に怪しいと言う。
それに彼等を個別に取り調べる行政官さん達も同じ意見だそうだ。
何でも、これからやらかすぞ感が滲み出ているらしい。
どんな状態なんでしょそれ・・・
「今、皇帝陛下に禁術使用の許可をもらいに行ってる所だ。」
ガレス卿が、何か起こっても直ぐ鎮圧出来るので問題は無いだろうと付け加えた。
でも何だか引っかかる。
もう直ぐお祈りの時間だし、何も無ければと思っていると帝都中で信号魔術弾が打ち上がる。
バルコニーからも数十カ所で打ち上がったのが見えた。
そうこうしている内にピッピちゃんに伝令が届いたのですが、どうやら街中に魔物が複数同時に出現したそうなのです。
「陽動のつもりだろうか?何とも稚拙な・・・」
ガレス卿がため息を吐く様に言う。
「行政府と宮殿の観測士さんの術効範囲は帝都全てカバー出来るわけですけど・・・」
「まぁ、一応それ機密じゃからなぁ。ん?今も機密じゃよな?」
百年前と大分常識が違ってしまっている為、お師匠様はこうして偶に確認してくるのです。
「今ではもう機密と言う程では有りませんよ。飛行船にも観測士が常駐する時代ですもの。」
侍女長のレティシア様がそう言うと、ついでの様にそろそろ時間ですと言われ、お祈りの為バルコニーに出ました。
いつもと同じように沢山の人々が居ります。
「こう言うところが狙われやすいのでしょうけど・・・」
そんな訳で、お集まりの皆様の安全を考慮し、今日はいつもよりちょっと多めに神聖属性魔力をドバーっと放出します。
そして、やはりと言うべきか攻撃魔術が多数放たれました。
「宮殿の防御結界も機密じゃよな?」
「ええ。それは今でも機密となっていますよ、アルマロス様。」
因みに、攻撃を受けても結界に届く前に魔術が魔素に変換されてしまっております。
キラキラした精霊術独特の光が見えますので、恐らくアンリ様がカルデア領騎士と共に防衛をして下さっているのでしょう。
そんな訳で、少し騒つく場面もありましたが何事も無かった様にストレッチ風お祈りをいつも通り行いました。
***
宰相府にある施設では・・・
頻りに妹に会わせて欲しいと懇願するルナリア・フォルトーナ。
何を企んでいるかはさて置き、状況をコントロール出来る状態で手の内が見たい。
そう考えた宰相は、宮廷魔導師長に依頼して魔術でヴァイオレットの身代わりを拵える。
その精巧な土魔術と操作術は、アルマロス直伝だと言うが、全く見分けがつかない出来栄えだった。
ルナリアはそんな身代わり人形に、自分が悪かったのだと必死に謝罪の言葉を口にする。
何をしようとしていたのか、そろそろ確認出来るだろうか。
宰相がイザベラに目配せすると、人形をルナリアへ近付けた。
その瞬間、ルナリアは人形に向かい何かを突き刺した様に見えた。
勿論そうなるよねぇと言いたげな顔をする宰相とイザベラは驚きもせずただそれを傍観するだけだった。
「貴様!何をしている!!」
騎士がルナリアを拘束するが、聖女と名乗っていたとは思えない程に酷く顔を歪めて笑っていた。
そしてふらふらと倒れる人形。
「あははは!さぁ、私の役に立ちなさい!愚図で愚かなヴァイオレット!!」
声を上げて笑うルナリアと、立ち上がらない人形。
「ああ、成程。人を呪箱の様に瘴気と怨嗟で侵食する術式か。一時的に人間を瘴気の魔物と同等の物に出来ると言う感じかしら?」
手元から伸ばした魔力で人形に刺された杭を解析すると、呪術もついでに解呪して行く。
「なっ!?何で!!」
そして、ヴァイオレットだと思い込んでいたものが土人形だと知り、ルナリアは叫んだ。
「魔素変換で言うと、ブレスを一回使えた位にはなったかしら?結構面白いわね、神殿の術式も。」
「師長、面白がっている場合ではないだろう。」
「あら、ごめんなさい。でも拘束術式発動したから大丈夫よ。彼女は魔術を扱えない見えない檻の中よ。」
それを聞いたルナリアは取り乱し、暴言を吐き続けた。
そして、こんな事はおかしいと何度も叫ぶ。
「私こそが一番評価されるべきなのに!あんた達は間違ってる!!」
必死に叫ぶも、誰もルナリアの相手をしない。
そして彼等がいた尋問室は、そのまま彼女を幽閉する為の牢となった。
実際に術が発動したら、建物に被害が出て困った事になっただろう。
また建て替える事になったら面倒だっただろうし、無傷で次代に引き継げて一安心。
宰相はそんな事を考え、執務室へと戻って行く。
そしてイザベラは、ちょっと変わった呪術を発見出来て少しだけ楽しそうに笑っていた。
大規模な魔術も不発に終わった上、そんな彼らの無関心さもルナリアの自尊心を傷つける事になっていた。




