3.戦地
一ヶ月経ち、私のバイト期間も終わるとお別れの日はやって来た。
大渓谷へ人員を輸送するための飛行船発着場では、今年度の討伐隊第二陣の最初の帰還者達が戻ってきたばかり。
私は第三陣の最終便で大渓谷へ向かうのだけど、有難い事にアルマさんとコレットちゃんが見送りに来てくれた。
魔術師ローブを見て、二人はちょっと驚いていたけど、本来着る予定のフォルトーナ領軍の制服は着ていないので素性がバレる事は無いと思う。
そして、何と最初の帰還便にアルマさんの旦那さんと息子さんが乗っていたらしく、偶然にもすれ違った。
そう。彼らは妻と幼馴染に気付かず、家路を急いでいたのだ。
勿論二人を呼び止めるアルマさん。
そうしたら驚きながらも、帰還したら嫁がより一層美人に見えると惚気る旦那さん。
ファビオさんもコレットちゃんの可愛らしさに驚いている様だ。
久し振りに再会した幼馴染の女の子が垢抜けて可愛くなってたらそりゃもう、あれですよ。
と言うわけで、ええ。ニヨニヨタイムです。
告白しちゃって良いのよ!
と思ったが、コレットちゃんはモジモジしながら無事に帰ってきてくれて嬉しいと言うだけ・・・!
初々しい!
なにこれ尊い!
そんな事を考えニヤニヤしていると、バイトさんですと二人に紹介された。
そして普通にお礼を言われ、一緒にお見送りされてしまった。
因みに、輸送艦が出身領別に割り振られていた様で、南西部の領地出身だろうと言う事が丸わかりになってしまった。
帝都では、ど田舎出身と言う事を隠していたのに〜!
わたくしだって、シティーガールぶりたかったんですのよ・・・!
そんな私にずっと手を振り続けてくれた皆に出会えて、本当に良かった。
良い思い出が出来たしね。
生きて帰って来れたら、今度はお客さんとしてランチ食べに行きますからね!
スフレチーズケーキの事も、よろしくお願いします!
***
そんな訳で現地に着くと直ぐに魔物討伐任務が始まった。
私の受け持ちは大渓谷に広がる森とその手前の草原の丁度中間。
森の奥や谷側最奥と言う魔境に送られずに済んだが、階級によって受け持ち場所が違うらしい。
私の属性は、水が一番強く土と光が少しだけ。
水属性が多いから学院の治癒課程に行きたかったけど、ルナリア姉様の聖女に能力が被ると言う理由から行かせてはもらえなかった。
馬鹿のくせに治癒術学びたいなんて。と、盛大に笑われたんだよね・・・。しかもついでとばかりに子供の頃まで遡ってどれだけ無能なのかと罵られるし。
アイツのどこが聖女なんだろ?
アルマさんやコレットちゃんの方がよっぽど聖女なんですけど。
ま、この世界には記憶にある創作物に出て来る様な聖女様なんていないし。
お金でも買える認定だしね〜。
お布施にもお金掛かるし。
新しくフォルトーナ名物にしようと建てた、聖女ルナリア教会に幾ら金掛けたんだろ。
巡礼者はそこそこ居るけど、魔女様達に比べるとどうしてもね・・・。
後、教会を観光名所にするならクレモナ共和国の教会群みたいに白色とかに統一して芸術的に仕上げないとダメでしてよ?
ウチのはクソダサ成金教会で恥ずかしいのですわ。
フォルトーナ領は頑張る方向性がおかしい。
伯爵位を維持してる事自体が奇跡としか思えない。
あー、もう。
フォルトーナには帰りたくないのでございますのよ!
いや、でも帰らなくても良いんじゃないのかしら?
だって私はお邪魔だった訳だし。
「おっと、アックアジャヴェロット!」
考え事をしていたら魔物さん達がわらわらと森を突っ切って草原までやって来た。
取り敢えず、威力は低いけど仲間の魔術師や騎士と連携して水槍で貫いて行き、草原分は討伐完了。
中級にしては魔力が多い方なので、帰還したら上級への推薦状を書いてもらえる事になった。
頑張ってれば良い事もあるのですわね!
ガリア伯爵領やヴェスティエール侯爵領みたいな、まともで裕福な領地で任官試験受けるのも良いかもしれない。
いや、やっぱ帝都内で職探そう!そして喫茶店クローリクの常連になりたい。
ファビオさんとコレットちゃんを見守り隊なのですわ!
なるべく実家とは関わりたくないし、そう言う進路無いかな〜と思っているその時だった。
黒い谷から、今年5度目となる魔素と瘴気の大噴出が起こった。
それもただの大噴出ではなく、大災害を起こさせる様な大規模な物だった。
上官や教導官は私達に言う。
これからは休息など滅多に取れなくなるし、ここに居る大半の者は死ぬ。と。
兵士も騎士も魔術師も魔導師も。関係なく大勢が死ぬ様な大災害。
近い領地でも遠い領地でも魔物が多く発生する。
そして瘴気が運ぶと言われる疫病の発生。
やっぱり、わたくしここで死にそうですわ!
アルマさんの旦那さんやファビオさんが、こうなる前に家に帰れて本当に良かった。
楽しい日々を与えてくれた、アルマさんやコレットちゃんが悲しむ所なんて見たくないから。
そしてこの日から昼夜問わず、この草原区域でも過酷な魔物討伐が始まった。