28.待ち伏せ
いつも評価やブックマーク、誤字報告をありがとうございます。
美味しいコーヒーとケーキを堪能して宮殿へ戻る途中。
ノアさんが嫁に来るか?と冗談を言ったりするので、私は命が惜しいですと言い笑っていた時だった。
「久しぶりね、ヴァイオレット。」
そうなんです。
もう会いたくなかった人ナンバーワン。ルナリア姉さんとその仲間達に出くわしてしまったのですが・・・
待ち伏せられていたの方が正しいかもしれません。
「ヴァイオレット、あなた宮殿で神の眷属の侍女をしてるんですってね?」
あ、忘れておりましたが、一応そう言う設定になっております。
ヴィルヘルミナ様派閥の女子達で架空の侍女ポジションを固めて、宮殿内の魔術工房をお借りして化粧品生産を行っております。
しかも作業中にエピソードブックや恋愛小説のお話が出来てとても楽しいのです!
まるでリア充の様な生活ですの!
「あなたみたいな愚図には務まらないだろうから、私が代わりに宮殿へ行くわ。だから今すぐ辞退なさい。」
おお・・・この命令口調懐かしいのですわ!
でもね、横でノアさんが少し殺気立っているのです。
私がその眷属本人だと知らないのはしょうがありませんが、自重して下さいルナリア姉さん!
「これはモルゲンシュテルン家の娘としての役割ですから、私にはどうしようもありません。ですので、その申し出は宮殿側にして下さい。」
私がそう言うと、ルナリア姉さんは顔を顰めた。
そしていつも通りの人格否定や過去の事を持ち出して、私が如何に駄目なのかを言いながら辞退しろと執拗に迫ります。
相変わらず私の話には耳を貸してくれない様です。
ついでに取り巻き達も、駄目な奴だ馬鹿な奴だと罵ってくださいました。
前世の記憶がない頃は、そんな言葉に怯えて萎縮して傷付くだけ傷付いて、何も言い返せなかったのです。
「そんな事も御座いましたわね。あの頃はお勉強も上手く行きませんでしたし、ボーッとして池に落ちたりもしましたし、お見合い十連敗したりしましたね。今となっては何もかもが懐かしいです。」
そうなのです。今はただ懐かしいだけで何とも思わないんですよね。
そんな訳で、傷付いた顔が見られずガッカリしたのか暴言が沢山飛んできましたよ。
余裕ないですね、皆さん。
「諸君ら、侍女殿はもう戻らねばならぬ。道をあけよ。」
そう言ってエスコートしてくれる三騎士であるノア・オルセン卿には何も言えない小物ばかり。
戸惑いながらも彼等は道をあけてくれました。
何故私はこんな人達に怯えていたんでしょうか?
まぁ、記憶を取り戻す前の話ではありますが。
「ではルナリア様、皆様方もごきげんよう。」
お別れのご挨拶だけで予想以上にすんなり通れましたし、三騎士の名は伊達じゃないのです。
ノアさんに感謝ですね!
***
「元ご家族から脅迫されたのですって?」
宮殿すぐ側だった為、噂が広まるのも速い。
派閥仲間のお姉様方が心配の声を掛けて下さいました。
「もう縁も切れてますし大丈夫です。ただ典型的聖女様なので、自分の思い通りに行かないと癇癪を起こすと言う感じです。」
「あるあるですね。彼女達は堪え性がないと言うか何と言うか。何にせよ災難でしたね。さぁ、ヴィルヘルミナ様からの差し入れも有りますからお茶にしましょう。」
労いの言葉を下さるのはブルーム公爵家のレティシア様。
一応このお方が眷属様の筆頭侍女的な役割をしておりますが、実際の所は宮殿内化粧品工房の全体の管理をして下さっております。
因みに次代の皇妃様で御座います。
そんな訳でお茶タイムという名の情報交換タイムです!
「聖女と言えば。先程耳に挟んだのですが、パストーリ伯爵領で叛乱が起こったとか。」
「私も聞きました。長男のウルリヒ様が領軍を率いていらっしゃったそうですよ。」
おお、遂にパストーリ領でも動きが!
ジーク姉様曰く、あそこには軟禁状態の長男さんがいたらしいけど、遂に抜け出せたのか。
しかも叛乱起こしちゃうくらい元気でよかったよかった。
「では残るはフォルトーナだけですかね?聖女が領主になってからは行政官も殆ど辞めていったと聞いてます。」
「民の流出もですわ。ファルケンマイヤー領に大分人が流れているそうです。」
故郷がとんでもない寂れっぷりを発揮しておりますねぇ・・・自称天才が治めればもっと発展するとか言ってましたが、結局こうなってしまうのは分かりきっていた事です。
だってルナリア姉さん領主教育受けてないですし。
婿取る予定でしたし。
しかも取り巻きは騎士多めで後は魔術師だけだし。
領地経営なんて専門家無しにはどうにもならんでしょ!
「神殿の解体の方は上手く進んでおりますから、その次は教会と聖女でしょうか。」
「そうですわねぇ。治癒ポーションのお陰で、大渓谷やヴィーグリーズでも聖女の需要が無くなりましたし。こうなってしまうと治癒師だけで十分ですからね。」
「応急処置要員で冒険者になるくらいしかお仕事が残されて居ませんしね。」
大渓谷では治癒ポーション導入後、治療効率上がりまくったお陰で死者数がグッと減りました。
ぶっ掛ければ治っちゃいますしね!
しかも救護所からは、聖女が居なくなったお陰でスムーズに仕事ができる様になったと喜びの声が・・・
「わたくしも従軍した際に拝見した彼女達の振る舞いが許せないので、早々にご退場頂けて嬉しいですわ。」
勿論ここに居るお姉様方も大渓谷の魔物討伐戦役での従軍経験がおありですので、当時を振り返っては皆溜息をついてしまうのです。
「聖女が居ないなら今後討伐戦役の参加率が上がりそうですね。」
「それもそうですわね。わたくしももう一度行ってみようかしら。」
レティシア様のお言葉に皆が二回目を考え始めたようです。
私も治癒ポーション有りならもう一回行ってみようかなと思うけど、ルール上もう従軍は出来ないのです。
“黒き谷は、人の子の業をもって鎮めよ”
魔女や精霊は人の括りではない。勿論、太陽神の眷属の私にもそれが適用されてしまいます。
まぁ実際はユヴァーリの魔女領の方が過酷な気もしますが。
大量の瘴気を魔女領に誘導しているのは魔女様達のお心遣いだそうですが、あれ大渓谷よりヤバくないですか?と滞在中よく思ったものです・・・
「さて、そろそろ作業を再開しましょう。ようやく偏光素材も手に入りましたし、早く帝国中の女性達にこの素晴らしい艶をお届けしましょう。」
お茶タイムを終了して作業再開。
そんな訳で、パールグロー感が出る素材がようやく見つかったのです。
シーサーペントの鱗の一部と魔貝なのですが、かなり良い出来になりそう。
艶々肌楽しみですわ!!
なので本業もしっかり頑張らないとですね!




