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27.誤解

評価やブックマーク、誤字報告をいつも有難うございます。



「帝都では女神の眷属の評判が予想以上に良いそうだぞ。」


 行政府傍にある訓練場で騎士達の鍛錬を眺めながら、ノアさんがボソリと呟きます。


 今日はガレス卿が混ざっての打ち合い稽古となっておりますが、皆様とても気合が入っている様です。


「子供から年寄りまで、種族も問わず沢山の人々が癒しの効果を体感したらしくてな。・・・だが、神殿や教会に通って祈っても同じ効果は得られないし、その上お布施を分取られると苦情が凄いんだわ。」


 神の眷属様は金など取らないのに、なぜ神殿はあんなに高い金を要求してくるのか?


 今までは当たり前だった事だが、真聖女の出現で変わって行く。


 眷属降臨で最初こそ沢山の人が訪れたけど、最近は礼拝に行かず普通に家で祈るのが帝都の民達の流行なのだそうだ。


 天空の女神や太陽の女神様へのお祈りの後、水の神獣に祈ると少し効果を体感できるらしい。


 これ完全に健康体操ブーム以外の何物でもありませんの・・・凝りも解れますしね。


「それで、ジークは大渓谷から戻って来たか?」

「はい。ジーク姉様は何故か援軍を沢山お招きしておりました・・・。」


 大渓谷で知り合った信頼できると言う方々の中に、ジーク姉様の元婚約者やヴェスティエール教官がおりました。

 そしてカルデア領騎士達とアンリ様、ユヴァーリ領の魔導師に、魔眼を持つと言うパストーリの聖女の姉君まで・・・


「大貴族も神殿排斥派が増えている様だし、この騒乱が終われば遂に継承の儀って事か・・・。」

「そうなりますね・・・。」


 ノアさんは、今後の進路でお悩み中なのです。


 フリードリヒ陛下以外に仕えるつもりは無いが、陛下を追って魔女領まで付いて行ける訳もなく。

 ならばいっそ大渓谷に常駐でもするべきか、それとも冒険しに旅に出るか等、とても迷っているそうなのです。


 進路といえば、ティルもですの。

 大渓谷の裏側と言われる、最果ての地への冒険旅行を諦めきれずに居るそうです。


 何だか悩ましい事ばかりですわね。


「ジークを三騎士に推そうと思えば、宰相府で任官しちまうし。後任もどうしたもんかなぁ。」


 ノアさんの基準がジーク姉様になってしまっていて、同等かそれ以上となると魔物出現率上位のカルデア領やガリア領、ユヴァーリ領の騎士になってしまうそうだ。


 ただ、そんな過酷な土地の騎士達の多くは領外で仕官したがらないのだそうです。


「まぁ、ルートヴィヒ様の騎士達の中にも推薦ができそうな奴もいるし、それは次代が決める事で良いのかもなぁ。」


 覇気とかセクハラ力とか、そう言ったものが最近のノアさんには欠けている気がします。


 今日だってそうです。会ってもケツを叩いてこないのは初めてじゃないでしょうか。

 もしやこれが世に言う、燃え尽き症候群でしょうか。


 その後もぼんやりと騎士達の訓練を見守るノアさんは、なるようにしかならないか〜。と、ため息混じりに仰いました。


 相当重症のようです。

 気分転換にクローリクへお誘いした方が良さそうですね。






***




「帝国各地の神殿や教会の神官達の拘束は完了し、選別作業に入りました。ただ、行方がわからない神官も数名おりますので国外へ逃亡した可能性があります。」


 心清き者は恐るるなかれ。

 交付されたその一文のお陰か、真面目な神官さん達は喜んで選別の魔術を受けてくれると言う。


「各領地とも一時的に領軍が駐留する事になった様なのですが・・・」


 結構な頻度で、地下に閉じ込められていた若い女性達を発見してしまったらしい。

 しかも彼女達は皆売買される為に連れ去られ、閉じ込められていたと言う事もあり、各領地の領主達の怒りは凄まじい物になっている様です。


 ただ、聖女を有する領地はあまり協力的ではないそうで、このまま勅命に従わないならば降格どころか廃領にされてしまうとの事です。


 その中には、フォルトーナやパストーリの名もありましたが・・・ツィーゲ領は既にこれまでの罪を認めて爵位と領地の返上を願い出ているそうです。


 きっと、聖女マルティネ様が大渓谷の瘴気に蝕まれて魔物化してしまった事もその理由の一つでしょう。


 あのやたらと絡んで来たマルティネさんが討伐されてしまったと言うお話は、大渓谷から帰還したジーク姉様から聞いております。

 迷惑な方だとは思っていましたが、こうなってしまうと何だか後味が悪いです。


 “認められたい、褒められたいだけの子供達”


 イザベラさんの言葉が頭から離れない。

 でも彼等が今までして来た事は、決して許されるべきじゃない事も分かってる。


 ・・・だから、ちゃんとやり遂げないと。




「そろそろ祈りの時間です。」

「はい。ではよろしくお願いします。」


 私は日に一度、宮殿のバルコニーからお祈りをする。


 その時に神聖属性魔力をドバーッと放出するのだけれど、これが中々綺麗なので見物人が日に日に増えて、今では一緒にお祈りする人達もいます。


 なので、日に一度の健康体操フェスティバル状態です。


 それに午後三時を知らせる鐘と共に祈れば、仕事中の丁度良い休憩にもなるのです。

 帝国の新しい慣習、と言うか名物になりつつあります。


「では、祈りを捧げましょう!」


 神殿組織の解体が上手く行きますように。

 そして、この世界に少しでも平穏を齎せられますように。






***



 喫茶店クローリク。


 最近中々来られていない癒しの空間にノアさんと一緒にやって来ました!


 やっとですよ、やっと!



「ヴィーちゃんはもう太陽神の眷属様の祈りに参加した?」

「う、うん。何度か。」


 やっぱり話題は陛下の退位と新帝、それからやはり神の眷属なのです。

 コレットちゃんへの返事に何だかちょっと後ろめたさを感じますが、しょうがないのですわ。


「凄いよね。怪我が治ったり病気が治ったり。更には失われた筈の頭髪がフサフサと生えたりするらしいよ。」

「ブフゥッ!髪の毛生えるの!?」


 コーヒー吹きそうになりましたの。

 それは流石に神聖属性魔力絞り出した自分も驚きですわ!


「あれかなり効くぞ。大分昔に大渓谷で受けた傷も痛まなくなったし、眷属様はやはりいいな。」


 他のお客さん達も絶賛なのですが、必ずそれとセットで神殿は高額謝礼を支払わせる上、効果が低いと言う愚痴が入る。

 今まで結構ボッタクって来ましたからね・・・我がモルゲンシュテルン家も神殿見学の際には大金をお支払いしましたし。


「何らかの事情で異界より遣わされたって聞くが、理由はやはり神殿だろうか?」

「神様蔑ろにし過ぎだしな、アイツら。」


 こんな具合に民意が神殿排除に向き始めているのですが、基本的には不思議な祈りの効果の方が話題になっています。


「ああ、そう言えば。陛下が退位するならノアさんは引退か?」

「・・・まぁ、そうなるだろうなぁ。」


 ああうっ!ウィルさんがデリケートな話題ぶっ込んで来るぅ!

 アルマさんが、空気を読んで話題を変えようとしたのですが時既に遅しですわ!



 そして、コレットちゃんが超絶問題発言をしてくれた。



「ノアさんは引退したらヴィーちゃんと結婚しないんですか?」

「ブフォゴッホッホ!!!?何でそうなるんですの!?」


「いや、ヴィーを嫁にするのは難しいだろうなぁ・・・はぁ〜、世の中上手くいかない事が多いなぁ。」


 おいいいい!燃え尽き症候群発症一旦止めて誤解を解いて下さいましぃ!!!

 マジで命の危険があるんですの!!


 そして、どうやらノアさんと私はここで知り合い、交際し始めたのだと思われていた事が判明した。


 癒しの空間に訪れている我々を、喫茶店デートしていると勘違いしていたようなのです。


 そう言えば、噂ばっかりあってモテた試しがないんですよね・・・


 それどころか故郷ではお見合いも十連敗しましたし。


 恋愛とは程遠い人生を歩んでいる気がします。


 




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