26.神の眷属
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帝都郊外にある飛行船発着場。
そこには近衛騎士と竜騎士隊、そして宮廷魔導師達や大貴族達が揃っていた。
「これで遂に最後の仕上げか。」
皇帝フリードリヒは思う。
天意の魔女イリーナへの突然の一目惚れから何十年だろうかと。
だがようやく課題である帝国の改革が認められて、遂に求婚は叶った。
約束通り子供も三人も儲けたが、幼馴染である皇妃の協力がなければここまで辿り着くことは出来なかっただろう。
魔導師の皇妃は妻を二人持つ身だが、これからは趣味の時間が沢山取れると喜んでいる。
三人の息子達上二人は、行政府で日々働き早々に皇子称号を返上していた。
だが生真面目な三男カスパーだけは継承争いを己の義務と言い、その争いに身を投じてくれた。
次代の皇帝はルートヴィヒに決まったが、あの青年も自分と同じく最下位に近い位置からよくここまで上り詰めたものだと感心する。
「陛下、飛行船が見えて来ました。では、ご準備をお願い致します。」
「ああ、そうしよう。」
***
いやいやいや!!
ちょっと待って下さいまし!!
何故か引かれたレッドカーペットの先に皇帝陛下居ません?
宮殿や行政府の重鎮達いません?
仕事はどうしたああぁぁぁ!!!?!?
また先帝ヴィルヘルム様にお留守番させましたわね!
「まさかこんな事に・・・」
「流石の儂もちょっと引くわぁ。」
予想以上のお出迎えに心臓がバックバクして来ましたの!!
見物人の数もとんでも無い事になっておりますし!
そんな中、ガレス卿が私をエスコートしようと手を差し出してくれますが、何でこの人だけ平然としてるんでしょうか?
魔境出身だからですか?!
脚が震えて来ましたが、ガレス卿のエスコートで何とかお師匠様の後ろをついて行きます。
「我が名はアルマロス・グリゴリ。帰還が遅れました事、お詫び申し上げます。」
八十歳仕様のお師匠様は陛下の前で膝をつく。
そして陛下は帰還を喜ぶと言い、労いの言葉を掛けた。
「かつて宮廷魔導師長であったアルマロス・グリゴリをお救いくださいまして誠にありがとうございます。彼は後に我が息子となる者でありました。」
そう言う陛下が片膝突いちゃいました・・・
しかも事前に聞いていたお礼の台詞と全然違います。
「我が主、太陽神ソレーユの願いにてわたくしはここにやって参りました。」
台詞合ってる?大丈夫なのこれ!もうめちゃくちゃですよ陛下!
「この世の瘴気を払う為、癒す為に力を振るう事が太陽神の眷属たる私の役目です。」
言う場所がとんでもない所になっちゃった上、予定と違って話が噛み合わないのです!
なんか別な事情で感極まっちゃってませんか陛下!?
「すまぬ、事前に色々振り返っていたら台詞が飛んでしまったのだ。」
陛下が小声でボソボソと呟いている。
もう、どうしましょう。折角飛行船の中で覚えて来たと言うのに!
「じゃぁ、もうやっちゃいますので祈りのポーズお願いします。」
ヒソヒソと話したあと、陛下が声を上げると全員が膝をつき、太陽神ソレーユへの祈りを捧げた。
そして見物にやってきた大勢の民達も何故か釣られてお祈りポーズを取った瞬間だった。
白い光が自分を起点に拡がって行くのが分かる。
いや、わかるんですけどね、コレ何処まで拡がっちゃうんでしょうか!?
「おししょーさまっ!止まらないんですけど!」
「魔力は大丈夫か?」
小声で祈りポーズのお師匠様に助けを求めるが、お師匠様にもよく分からない現象だった。
「気にするな、唯の祈りの返礼だ。その内収まるだろうし、ヴィーの魔力消費は最初の物だけだ。」
冷静に答えてくれたのはガレス卿だった。
流石水神様の息子!
ただ、規模が凄すぎて歓声がえらい事になってます。
この後、竜騎士隊と共に空から宮殿へ行く事になっているのですがそれまでに収まりますかねこの光・・・
***
結果、空からもキラキラと白い光を振りまいてしまった様で、帝都中に神聖属性魔力をお届けしてしまいました。
そして身の安全の為にと、私やお師匠様はアクィラ宮殿に滞在しながら普通にアイテム工房のお仕事をしながら過ごす日々が始まりました。
「神の眷属の癒しは予想以上の効果であった。」
「早速神殿から問い合わせと抗議が来ております。」
神殿は、女神様の眷属は神殿にこそ相応しいと言い、即刻身柄を引き渡せと言う抗議文を送り付けて来たそうです。
「皇帝と違い、神々との契約が無い神殿にその権限は無いと言えば宜しいのでは?」
お師匠様が冷静に返信文を考えるが、皇帝陛下はその案を採用しつつ、真里奈さんの件とお師匠様暗殺未遂の件を女神の眷属が哀しんでいると付け加えるよう指示していた。
「では偽聖女と拝金主義も付け加えましょうか。」
宰相である養父様がそう言うのだが、皆ここぞとばかりに返信文に今までの悪行を詰め込んでいた。
「心清き者のみを救い、悪しき物は滅びる。これなら後世まで語り継げる良い教訓になるでしょうし、上手くいけば改革で済むのでは?」
皇妃様がそうおっしゃるのですが、そこに護衛騎士のガレス卿が発言の許しを求めて来た。
「神殿に神官を置かず、管轄を国に移せばよろしいのではないかと愚考します。」
「成程、神官を行政官とすると言うことか?」
「左様です。」
称号や資格を更新制にしてしまえば、なおヨシ!
と言う事だそうです!
佐藤さんから頂いた魔法陣と術式はとても役に立ちそうです。
「それでは小国群に逃げ込む可能性がありますが。」
「残党狩りは必須よなぁ。」
皇帝陛下が残党狩りを命じれば、きっと向かうのは宰相府や軍務省の特務監査官達になる。
そうなると、きっとジーク姉様も駆り出されるのでは無いだろうか。
「もしも討伐隊をお出しになるのであれば、ユヴァーリ領にも多少の備えがありますので人員を出す事が可能です。」
その言葉を聞いた皇帝陛下が笑う。
何か思い当たる事でもあったのだろうか?
「既にヴィクトリアからの了承を得ているのか。流石だな、我が従弟殿。」
あらら、陛下はガレス卿が水神様の息子さんって気付いていたのね。
あ、そうか。継承の義で水神様に会ってるもんね。
と言う事は、ガレス卿がお師匠様の叔父さんという事になるのですわね。
相変わらず時の感覚がおかしいのですわ。
「さて、これより次代へ向けて大掃除を始めよう。」
こうして、返信文を送った後に神殿改革と言う名の選別が始まりました。
実際は殲滅に近いものなのかも知れません。
そして、最初は普通に罪状を挙げて捜査する所から始まりました。
これは偶にある事なので、神殿側は油断しきっている様です。
ルナリア姉さんはきっと今も抗争の為に大渓谷にいるのだろう。
もう直ぐ詰みだと知らないあの人は、今日も誰かを踏み躙って愉悦に浸っているのだろうか?
出来れば今後は真面目に領地経営して欲しいけど、無理だろうな・・・




