23.大賢者
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「ヴィーちゃん、いらっしゃい!」
転移者であり大賢者でもある佐藤さんは、黄金の魔女イリア様の第二夫なので、アポを取ってご自宅にお伺いしたのですが・・・
「リューシャちゃん、何故ここに?」
「何故って、ここは私のお家だもの。そんな事よりパパが待ってるから、入って入って!」
つまり、リューシャちゃんは黄金の魔女様の娘で佐藤さんの娘でもある、と言う事だそうです。
偶然にも程がありましてよ!
佐藤さん以外のご家族は出払っているそうですが、黄金の魔女様とその奥様は森の浄化作業に行っているそうです。
リビングに案内されると、白いモコモコの仔虎さんがおりました。ティグリスの幼獣でしょうか?
モフりたい衝動に駆られるのですわ。
そして・・・
「初めまして、ヴィーさん。転移者の佐藤一朗です。」
「は、初めまして・・・っ!!?!?」
ちょっと!?ちょっとちょっと!!
エルフじゃねーの!!?
待って!?転移者ですわよね?!日本人ですわよね?!
まあ確かに、黒髪で顔も少し日本人っぽくはありますが、ぽいってだけでコレどう見ても日本人じゃ無いですよ!?
「ははは、アンリ君の時と同じ驚き方だね。僕は何処にでもいる平凡な日本エルフだよ。・・・やはり君も魔法のない世界から?」
しかもこの話の流れだと、まさかの騎士王子転生者って事になりませんか!?
しかも魔法のない世界ってどう言う事ですの!?
「はい、ヴィーちゃん。ジュース飲んでゆっくりしていってね!」
魔法の存在する世界としない世界のお話を聞いていると、リューシャちゃんが何気なく飲み物を持って来てくれたのですが、これコーラですね・・・
しかもコレは騎士王子もといアンリ様がお土産に持って来た物なのだそうです。
醤油にも驚きましたが、コーラ・・・!!
久しぶりのコーラにゲップを堪えつつ、生まれについてのお話をしましたが、佐藤さんは余り驚いておらず普通にお話を聞いてくれました。
そして、佐藤さんの転移の時のお話も聞くことが出来ました。
流され着いた地は、魔物溢れるユヴァーリ領セーヴェルの森。
当時は死ぬかと思ったと笑いながら仰っておりますが、養父様が言っていた“殆どは直ぐ死ぬ”という言葉の意味が分かった気がします。
無理ゲーにも程がありましてよ!
わたくし、転生で本当に良かったのですわ!
「それにしても、本物の聖女が再び現れてしまったら神殿は大変だろうね。」
「再び・・・?」
「千年前の聖女マリーナだけが帝国で唯一公式に認められた聖女だろう?彼女の様に神殿に狙われない様に注意が必要だね。」
あ!真里奈さん!!
恐らく長い間部外秘だった日記を読んじゃったのは私ぐらいのものだろう。
日記の内容をショートバージョンでお伝えしたら、とても驚いていた。
「まさか、そんな事が。」
「酷い話ですが、そんな事になってしまっていたみたいです。」
そして、佐藤さんは私に問う。
「それを知ってしまった君は、どうするんだい?」
「まぁ、元々ぶっ潰しちゃおうと思ってましたし、その決意がより固まったと言う感じです。」
私がそう言うと、佐藤さんは憂いのある表情をしたまま俯いてしまいました。
「真面目な神官さんや修道士さんの為にも、ちゃんと真里奈さんの意思に沿った形になると思います。」
「それは、禁術を使うって事かな?」
ひょえっ!流石大賢者ですの!
皇帝陛下の了承にも気付いてるんだろうなぁ・・・
「瘴気の発生量を減らすには、神殿の排除か・・・やはりそこに切り込むのか。」
「臭いものに蓋をし続けるにしても、彼らはやり過ぎですから。」
会って話してみて分かったのは、佐藤さんは流血沙汰を嫌うという事。
種族的なものかな?とも思ったけれど、それはあの懐かしい故郷の価値観なのだと気付いたら何故か安心した。
だって、この世界は命の価値が低過ぎるもの。
僅かな見舞金と勲章の為に、平気で娘を死地に送る親がいる事を私は知っている。
そして、命を救う事よりも己の派閥や地位の為に争う聖女を知っている。
「僕も・・・微力ながら、真里奈さんの為に術式を提供するよ。」
そう言って、見た事もない様な複雑な魔法陣を差し出してくれた。
「これは?」
「闇属性魔石と合わせて使える、心の内を暴く術式だよ。選別の魔眼と同等の効果を一時的にだが発動する事ができる。」
それは、佐藤さんの故郷の日本で扱われていたものなのだそうだ。
「犯罪捜査に使われるものだが、対象者の魔力量によっては発動しない事もある。だから、神殿を相手に使用するなら魔導師以上だろうね。」
こちらに流されて来る前、魔術省に勤務していた佐藤さんは様々な術式の管理を取り扱う部署にいたそうだ。
と言うか魔術省って何ですの!?
ある意味そっちも相当な異世界ファンタジーなのですけれど!!
「ありがとうございます、佐藤さん。遠慮なく使わせて頂きます。」
「今まで見て見ぬふりをして来てしまっていたから、何とかできるなら、宜しく頼みます。」
何だかお礼のし合いになってしまって、日本っぽいなぁと思っていると、玄関の方から声がした。
来客かな?と思っていると、水神様そっくりな男性騎士が現れる。
「イチロー、姉上はいないのか?」
「ガレス君、それよりまず先にご挨拶は?」
佐藤さんが挨拶を促すと、その騎士さんは挨拶と自己紹介を始めた。
「私は水明の魔女ミカエラの息子、ガレス。実家より何故か姉上の家の方が落ち着くから、よく此方に遊びに来ているだけなので、私の事は気にしないでくれ。」
「あ、はい。ご挨拶ありがとうございます。ヴァイオレット・モルゲンシュテルンと申します。」
挨拶をすると直ぐに台所へ行ってしまった・・・
それにしても、イケメンしか居ないのかユヴァーリは!!何処をどう掛け算していいか混乱してしまいますわ!!
「それにしても、慶事が続くね。雷の精霊の帰還も、それによって君と言う太陽の女神の眷属がこの世界に訪れた訳だし、もう直ぐ皇帝陛下は退位されるだろう?」
雷の精霊?
皇帝陛下の退位・・・!?
「あの、雷の精霊と皇帝陛下の退位って・・・?どう言う事なのでしょうか?」
佐藤さん曰く、騎士王子は転生者と言うよりも帰還者なのだと言う。
ヴィルヘルミナ様達が仰っていた大精霊様の加護。それはフェイクで、本人自身が精霊と言う扱いなのだそうだ・・・
「皇帝陛下は大魔女イリーナ様の求婚者だろう?恐らくは、課題が認められたから許可が降りたんだと思うよ。」
そうでした!最下位皇子から皇帝にまで上り詰めたオルテア帝国皇帝フリードリヒ陛下は、魔女の夫となる為の課題である”帝国の良き改革“を絶賛遂行中なのでした。
幼馴染の皇妃様に協力してもらって、その課題を必死に頑張っていると言う話を、ティルと森を冒険している時に聞いた。
ティルは、魔女の夫になる為には厳しい課題が課せられるとよく言っていたが、それが認められたと言う事なのだろう。
「めでたいですね!所で、佐藤さんも課題を?」
「いや・・・僕はね・・・」
佐藤さんが何かを言おうとした瞬間、ガレスさんがコーラ片手に台所から戻ってきた。
「ハハハ!イチローには課題など無かったが、課題以上の成果を次々と出すから結局夫となったのだ。」
「そうだね。セーヴェルの森から救出してくれたエマに面倒見てもらってる内に、エマは魔女の妻になってしまって。そのまま居候してたら夫にしてもらったと言う感じだよ。」
大賢者様のヒモ宣言に驚愕ですの!!
確かに沢山の功績がございますが、それを除いたら本当にただのヒモ賢者なのですわ!
いえ、お金を稼ぎまくっているでしょうからヒモとは言えないのですけれど・・・
そんな思い出話を聞いていると、昼食の支度の時間だと言い、黄金の魔女イリア様とその奥様であるエマヌエル様がお帰りになったのですが・・・
「ヴィーさん、ようこそ!大渓谷では娘のリューシャがとてもお世話になったようで。本当にありがとうね。」
エマさんもといエマヌエルさんは、どっからどう見ても男の方でしたの。
オネェさんではありませんか!!!
ジーク姉様とはまた違う、妖艶な美貌に大人の魅力を併せ持っているお方ですの。
「は、初めまして!こちらこそ奥様にお会い出来て光栄です!」
一瞬見惚れてしまって、返事が遅れてしまいましたの!
ああ、いけません。荒ぶる貴腐人の御心よ、どうか今は落ち着いて下さいまし。
「私からもお礼を。予備食をいっぱい持たせたつもりだったけど、持たせた分だけ直ぐに食べるとは思わなくて。本当にありがとう。」
黄金の魔女イリア様からも干し肉のお礼の言葉を頂いてしまいました。
そして、昼食を是非一緒にとお誘いを受けてしまったのです。
取り敢えずわたくしの頭の中は、情報過多状態。
しかも公式掛け算というとてつもない恵みにより、どんどんと腐蝕が進んで行ったのでした。




