22.お祈り
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ユヴァーリ領主のヴィクトリア様から挨拶を受けたり魔女様達となんやかんやお話ししていると、お師匠様のご実家である大魔女領サントアーリオからのお迎えが来たと騎士さんが知らせてくれた。
お師匠様は普通にソレーユ様の眷属ってことバラすし、秘匿じゃないんかーい!と思っていたら、今の神聖属性魔力量だと魔女様達には隠し通せず、直ぐにバレてしまうだろうから、どうせなら最初から話しておけば面倒な事にならずに済むと言う。
面倒ってなんでしょう・・・考えるのも恐ろしいのですわ!
しかもヴィクトリア様やその騎士さん達も、あの健康に良さそうなソレーユ様への祈りのポーズを私に向かってして来るし・・・
しかもちょっと楽しそうなのが腑に落ちませんのよ!
『久しいな、アルマロス。ようやくあの穴蔵から出てきたか。』
これはこれは大きなオオカミさんですわねぇ。
お迎えがフェンリルっておかしくありませんこと!?
このお迎えフェンリルは、お師匠様のお母上である大魔女様のペットなのだそうだが、わんちゃん感覚で飼ってはいけない魔獣だと思いますの!!
「知ってたなら助けてくれてもよいと思うのじゃが・・・まぁ、時間の感覚が違うのは仕方がない事じゃな・・・。」
フェンリルさんは、お師匠様がダンジョンにちょっと遊びに行ってたぐらいの感覚で話している。
おおもう、やっぱりここ魔境ですわ!来て早々伝説の魔獣ですの!!
でも、よく見たら尻尾をブンブン振っていますのね。やはりお師匠様の帰郷は嬉しい事なのでしょう。
『それにしても、ようやく嫁を見つけてきたか。主もさぞや喜ぶであろう。』
「この娘っ子は弟子じゃぞ。」
何かもう、時間感覚がアレ過ぎて本当に話が噛み合ってないんですの!
それに、お師匠様が独身だったのすっかり忘れておりました。骨ですし。
まあ今は土魔術でイケメン状態ですが、骨には変わりありませんの。
「ヴィーちゃんも結婚するの?おめでとう!」
「あら、おめでたいわ。もう一回祈りましょう。」
しかもこの魔女二人ぃ!話を聞いていない!
そして祈らないで下さいまし!
「弟子ですよ!お供なんです!って・・・え?」
“も”って何ですの?
「ヴィーちゃん、結婚は良いよ。私も奥さん3人、じゃ無かった。旦那さん一人と奥さん二人がもう直ぐ私の魔女領に来るんだよ。」
「なんと!それはおめでとうございます!」
びっくりしましたの。
だってまだ十六歳くらいでしょうに。
でもそうだよね。リューシャちゃんも魔女だし。
まだ若いけど、そう言うものよね。
そして、私も大渓谷でお世話になったヴェスティエール教導官と、ジーク姉様の元婚約者である脳筋令嬢で有名なジル・ファルケンマイヤー嬢を妻に迎える予定なのだそうです。
ジーク姉様の元婚約者さんが、ちゃんとご結婚なさると聞いて安心致しました!
お相手に強さを求める御令嬢だそうなので・・・相手が見つかるか心配でしたの!
「後はカルデアのアンリくんが皇子称号返却したらお婿さんに来て、私の為にご飯をいっぱい作ってくれるの。アンリくんの作るご飯美味しいからヴィーちゃんも食べにきてね!」
ああ・・・ご飯で夫を決めちゃったのですね・・・!
流石大食らいの食いしん坊。納得ですわ!
それにしても、あの騎士王子が我儘を言って魔女の夫になりたがっていると言う噂は、やはり聖女ロザリーの側近が流したものだったのですわね。
それにしても、剣技マニアの騎士王子がお料理・・・?
きっとリューシャちゃんの為に一生懸命お料理を習ったのでしょうか・・・?
うん、これは大分尊みを感じますの。
それに弟の結婚ですもの、ヴィルヘルミナ様もお喜びでしょう!ふははは!
「ほれ、ヴィー。ゆくぞ。」
お師匠様がそう言うと、フェンリルさんに乗り私を引っ張り上げてくれる。
お背中はもふもふ。ふっかふかの乗り心地です。
リューシャちゃんやマイヨーラ様にはユヴァーリ滞在中に遊びに行くと約束をし手を振ると、二人はお祈りポーズで返してくれた。
それほんとに楽しそうですわね・・・!
***
お師匠様のご実家領地、大魔女の聖域と呼ばれるサントアーリへ到着すると・・・
何処からどう見ても、魔王城みたいなお城がありました。
いつもの骨状態のお師匠様にきっと似合う。似合い過ぎる生家なのですわ。
そしてお出迎えしてくれたのは、渋カッコいいオジ様。
どことなくストーメア卿と似た雰囲気を感じますので恐らくこの方がクラウス様でしょう。
「ヴァイオレット嬢、ようこそおいで下さいました。」
「初めまして。アルマロス様の弟子、ヴァイオレット・モルゲンシュテルンと申します。」
クラウス様は私に挨拶をした後、お師匠様にお帰りと言うと唐突に頭をわしわしと撫でておりました。
親子の再会にほろりと来そうになりましたの。
「お前が百三十年顔を出さない間に、夫や妻達の顔触れもだいぶ変わっているのだから、改めて挨拶をするように。」
「親父よ、それ大分で済む話なのか?」
ご長寿多過ぎ!と思ったらエルフの方も数人いらっしゃるそうです。
渋々顔でお城に入るお師匠様は、勿論その後親達に可愛がられまくると、何故かついでに私もギュッギュと抱きしめられ頭を撫でられ可愛がられた。
お師匠様が弟子を連れてきたのは初めてなのだそうで、孫弟子みたいなものだからと喜んでくれた模様です。
そして・・・
「やっと帰ったか。本当にお前は遊んでばかりでフラフラと。」
魔女達を束ねる大魔女イリーナ様のお小言が始まりました。
でも、このお城の皆と同じでとても嬉しそうなのです。
だがしかし。
皆様、お師匠様がダンジョンで遊んでいたと思ってるあたり流石魔境の住人なのですわ!
死に掛けて骨になってても全然気にしておりません!
「ヴィーと言ったか。息子の世話をいつもありがとう。今後ともよろしく頼む。
それにしても面白い娘だな。折角だから私も早速試すとしようか。」
一体どうやって時間差無く情報を仕入れたのか!
大魔女様もお祈りポーズ!!
「母上、精霊達がもう話したのか?」
「勿論だ。リューシャもマイヨーラも随分と楽しそうだったと聞いた。」
そう言いながら、祈りのポーズ全種類試す大魔女様はもはや健康体操をしているようにしか見えない。
「帝国全土の結界全交換の準備でな。忙しくて肩が凝って困っていたのだ。」
魔女達だけで無く精霊さん達の面倒も見ていると言う大魔女様も、やっぱりソレーユ様への祈りのポーズが一番しっくりきて良い感じだと言っていた・・・
良い感じって、凝りがほぐれたって意味ですねこれ。
「眷属であるヴィーを通じて、太陽神ソレーユへの祈りが届きやすいのだろう。より精度の高い祝福祈願になっている。」
「そんな謎現象が・・・」
「では神獣への祈りの型を為して体感するといい。」
そう言われて何となく気になり、大魔女様に水神様への祈りのポーズを取ってみるとあら不思議!
「ひんやりと心地いい!旅の疲れが取れる感じがしますね!」
「それはそうだろうとも。お主ならばより効果を感じ取れるだろうからな。」
私と大魔女様は向かい合って祈りのポーズをする。
見た目とってもカオス過ぎる空間になってしまったが、何故人々が神々や精霊や魔女に祈りを捧げるのか、その意味が分かった気がした。
そして、そんな混沌とした空間でお師匠様がぽつりと呟く。
「コレ完全に唯のストレッチじゃな・・・。」




