20.言い掛かり
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「作れちゃったのね。」
「ええ、出来ちゃいました・・・」
宮廷魔導師長のイザベラさんに検品してもらうと、やはり万能治癒薬で間違いないとのこと。
女神様の話は秘匿し、師匠と一緒に作成過程をでっち上げた。結構あり得そうで少し情け無いものになってしまったけど・・・。
「美容液を作ろうとしていたんです。」
「確かに材料はそうね。でも美容液に庭の土はちょっと・・・。」
やっぱり土きた!
苦しいっ!土に関する言い訳は苦しいんですの!
「何日か連続で徹夜してたら急に大地のパワーが欲しいと思い、こんな事に。」
「ああ、分かるわ!徹夜が続くとおかしな事をしてしまう。とてもよく分かるわ!」
あ、イザベラさん納得した。
徹夜明けテンションは説明のつかない、おかしなやらかしも多いですしね。
「そう言えば、カリーティカにおかしな言い掛かりをつける者が居るそうなのよ。」
思い出した様にイザベラさんが言うのだが、その話は皇妃様から聞いた話らしい。
相変わらず仲が宜しいんですね・・・
「ヴィーがフォルトーナの聖女の技術を盗み、持ち去ったと言うのだけど、おかしいのよね。冊子に描いてある事しか言わないのだそうよ?」
イザベラ様は笑っている。まるで子供の悪戯を微笑ましく見守る母親の様な笑みだ。
「あの冊子はただの入門編なので他のメイクや詐欺メイクまでは載せて無いんですよね。」
「あはは!詐欺メイク!言い得て妙だこと!」
利益度外視で出した冊子本には、本当に基本のメイクだけしか記載されていないのだ。
あれは宣伝用広告みたいな物だしね。
ただ、今までのコッテリ塗りからは程遠いので、多くの女性があっさりメイクが流行した事を喜んでいるだけだろう。
既存の化粧品でも同じ事ができるし。
ちょっとだけ材質は違うけれどね。
それにヴィルヘルミナ様の派閥仲間や皇妃様、イザベラさんにはメイクアップ講座してしまったから、侍女達含めて結構な数の人が私のメイク法を知っている訳で・・・
何でか広まらないんだけどね。
「まぁそうよねぇ、カリーティカ製の化粧品素材も特定できていない様だし、同じ物が作れない内から言い掛かりなんて。これだから素人坊っちゃん嬢ちゃんは嫌ね。」
そしてイザベラさんは、神官達が遊んでるのだろうと笑いながら言う。
ただ、この時の目はひんやりと冷たい。顔は笑っているのに背筋がぞくりとする様な目だった。
多分、ルナリア姉さんならやりかねないとは思う。でもあの人はもう少し用意周到だった気がする。
取り巻き達の暴走かなぁ、あの人達も変わってるし。
基本的にルナリア様凄い!そんな人の側にいる自分も凄い!みたいな考えだし。
「考えてみると、聖女もその取り巻きも似通ってますよね。」
「そうね、可哀想な子が多いわね。」
可哀想。
それは私にとって、予想外の意見だった。
「努力ではなく結果にこだわる子が多いわね。生まれ持った家柄や能力を妬みがちだし、上や横を見てはどうにか引き摺り落とそうと必死なの。そして下を見れば蹴りつける。」
「言われてみればそうですね。そんな人達が多いです。」
前世分を足したら年下だと言うのに、イザベラさんはよく見えてるなぁ。
「認められたい、褒められたいだけの子供達よ。ただ、子供故にとても残酷な事が出来てしまう。何処かで間違いに気付ければ良いけれど、そうでない場合は己の怨嗟に喰われてしまう。」
そして歴代聖女の殆どは、己の生み出した瘴気に蝕まれて死んでいくと言う。
そして私は、この日初めて知った。
大渓谷からの噴出だけでなく、人々も日々瘴気を生み出していると言うことを。
***
「フハハハハ!小童どもが!」
納品に出向くと、ヴィルヘルミナ様はいつものように勇ましい笑い声を上げていた。
でも何だか楽しそうなのですわ。ふははは!
「元姉の方から先に謝罪文ですか。流石に大公家と侯爵家は敵に回したく無かったようですね。」
あのDV姉は意外と危機回避が上手いのですわ。
だからこそ、ここまでズルズルと酷い事になってしまっているのですけれど。
最近あった夜会でルナリア姉さんの取り巻きが自爆してしまったそうですの。
最初は技術を奪うなんて酷いんです〜と噂を流しまくっていた取り巻きさん。
だが丁度そこに居たヴィルヘルミナ様の派閥仲間で、あの素敵な化粧品用ケースをデザインして下さったルラーキ男爵家の御令嬢エリーゼ様が、和かに論破して下さったそうです。
ついでに貴女騙されていますわよと優しく諭したそうで、何故かそれだけでルナリア姉さんから離れて行ったそうです。詳しくは知りませんが。
だけど相変わらずエリーゼ様の話術すんごいのですわ!
何よりもあのお方のデザインが素晴らしいんですの。
次に出るアイシャドー新色も可愛いケースですの!詰める作業が捗りますの!
「フハハ!流石は我が嫁よ。」
ご結婚はまだですよ、気が早いですねヴィルヘルミナ様。
あ、因みに帝国法では魔導師以上なら同性婚が可能ですの。
魔女様達と同じく、助手や共同研究者という意味合いですが。
まあ、結構厳しい条件があるけど権利や利益を守る為でもあるのですわ。
なので、派閥婚なんてものもあったりしますの。
地位が低く立場は弱い。でも才能があり有能。そんな人を守りつつ活躍させたい!
そういった事情の時、高位貴族の魔導師が使う手もこれですの。
養子縁組も有りますが、やっぱり魔女様に倣ってと言う理由が大きいのですわ。
それに、ヴィルヘルミナ様のご先祖様は“降霊の魔女アスタルテ”。
ユヴァーリ侯爵家と同じく魔女の血筋ですから、嫁の一人や二人、夫二人や三人はしょうがないんですの。
「さて、新しい弟の話でもしようか。」
「そうでした。レオンハルトさん上手くやれてますか?」
私がそう言うと、勿論だと言い頷く。
そして、元気一杯の可愛い弟が出来たと言うが、何故か私は褒められてしまった。
「遠い国で情報も少ないと言うのに人物考察が上手いな。ヴィーの予想通りの人物だったよ。」
レオンハルトさんには話さなかった当たり障りの部分。
良い歳してカードゲーム好きと言う事と、恐らくは継承争いはどうでも良くて、本気で騎士になりたかっただけと言う考察が見事に当たっていたそうだ。
あと子供っぽくて無邪気と言うのも。
予想設定の第二王子の一見不憫、中身腹黒も当たっていたし、第一王子の俺様系ポンコツ王子と言うのもおおよそで当たっていた。
わたくしの妄想力凄くないですか!?
ヴィルヘルミナ様のお役にも立ってるし、これは掛け算し続けても良いって事ですわよね!?
ただ残念なのは、第一王子の王立学園卒業式での大々的で濡れ衣的なテンプレ婚約破棄現場を見られなかった事ですの・・・
悪役令嬢にされた公爵令嬢やらヒロインっぽい元平民男爵令嬢。
もしかして私の前例さんって、レムリア王国の公爵令嬢さんなのかな?
何処かでお会いできたら嬉しいのですわ。
「評判としては、田舎王子やら追放王子やら言われたい放題だがね。それに新弟はパストーリの聖女ロザリー嬢に目をつけられてしまった様だし。面倒な事だな。」
「うわぁ、それは災難ですね。元姉と同じくらい厄介なお方だそうです。十分お気を付けくださいませ。」
あの顔じゃね。聖女達が取り巻きに加えたがりそうだもの。
その後直ぐ、私の元にも新弟アンリ様の良くない噂が聞こえて来た。
ロザリー嬢の取り巻きが嫉妬に駆られて醜聞を撒いたのだろう。
パストーリの聖女は魔導師だ。そこに群がる取り巻き達は勿論ロザリー嬢狙いだもの、そうなりますわよね。
そう言えば、聖女派閥にもそれぞれ特色がありますわよね。
私も関わりたく無いけど、あっちから妙に絡んで来るのが面倒くさいのですわ。
でも準備が整い始めている。
継承争いもほぼ決している。
どうやら祝いの日は近いようです。




