表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/36

2.喫茶店クローリクとナチュラルメイク




 よっしゃ!バイト先が決まった!


 小さな喫茶店なんだけど、黒の大渓谷への出発日までの一ヶ月間、住み込みでバイトさせてくれるって!お陰で宿代が浮く!


 捨てる神あれば拾う神あり。

 四十代の優しそうな店主アルマさんが営む喫茶店は、美味しいコーヒーと紅茶が飲めて、昼時はランチメニューも提供している。


 彼女の旦那さんと息子さんは現在弓兵として大渓谷へ従軍中なのだと言う。

 しかも人手が足りないので、バイトを雇っていたのだがその方が現在産休中。


 なので、私ともう一人のバイトを雇ったそうだ。

 因みにもう一人の子は家からの通いらしいが、息子さんの幼馴染らしい。

 ニヤニヤ案件かな〜?甘酸っぱいの期待しちゃう!


「ヴィーちゃんは料理が上手いわね。きっと良いお嫁さんになるわよ。」

「褒められ慣れて無いので照れますね。」


 毎日昼時が忙しいけど、ここで働いている内に心が癒された。


 こんなに優しい人達も居たんだな、って思ったら異世界転生して良かったと思える様になり始めていた。

 実家とは違って帝都の街の皆が優しく感じられたしね。


 もう一人のアルバイトであるコレットちゃんとも歳が近い事もあり、直ぐに打ち解けて仲良くなれた。


 しかも定休日に一緒に買い物に行っちゃったよ!

 今生で初めての友達なんですけど!脱ぼっち!うれしいのですわ!


 それにね、予想通りコレットちゃんはアルマさんの息子さんであるファビオさんが好きらしい。

 甘酸っぺ〜!中身が三十路の喪女にはこれ大分効きますよ〜!


「顔も容姿にも自信がなくって、何度も告白しようとしたけど、こんな地味女相手にされないんじゃ無いかなって・・・なのにアイツはどんどんカッコよくなって行っちゃうし・・・」


 若人の初々しい恋愛が尊い。

 尊すぎる。

 ならば年長者として応援するべきでしょう!


「コレットちゃんは別に地味じゃないよ?化粧っ気が無いからそう思い込んでるだけ!」

「化粧はちょっと・・・前にしてみたらケバケバした顔になったし。」


 そして彼女は言う。

 ヴィーちゃんの様な可愛い顔だったなら、と。


 化粧初心者が上手くいかないのは当たり前なのだ。

 だから私はお見せしなければならない。

 

 素顔を!!


 こうして簡単な生活魔法で自身の顔を洗浄すると、超地味顔が露わになる。


 うふふ、コレットちゃん驚いてる驚いてる!


「どうかな?私の化粧力は!」

「す・・・凄い・・・一体どうやって?魔術で顔を変えていたの?」


「まさか。これはただの化粧よ?」


 驚きに目を見開く彼女の顔に満足すると、浮いた宿代で購入したメイク道具を取り出す。

 容量が小さいけど、一応中級魔術師なので自分のマジックストレージを持っている。


「コレットちゃん、私達は地味顔だけど、それはそれで武器になるのよ。」


 地味顔の我々は気分によって顔の印象を変える事が出来るのだ。

 生まれ持った美人には敵わないけど、男どもが好きそうな、素朴な可愛らしさを演出する事も出来る。


 その日から彼女は出勤時間より早く店に来て、私と一緒にお化粧をする様になった。


 長所を生かし、短所は削る。前世ではありふれた手法だが、この世界ではまだ一般的では無い。


 ま、化粧品が高いってのもあるんだけどねー。





***



 その後、時間は掛かるが超ナチュラルメイクで可愛さ演出したコレットちゃんは、お客さんにも人気が出始め、自信も付いたのか前より明るくなった気がする。


 眉を整えただけでも結構印象が変わったのだが、素朴と言うより明るくて眩しい元気な女の子感が出てきた。


 ふんわりオレンジメイク考えた人、ナチュラルだがうるうるする涙袋メイクの発案者の人も有難う!

 そしてシェーディングってやっぱり素晴らしい!


 アルマさんも是非教えて欲しいと言い始めたので、毎朝三人でのメイクタイムを設けるようになった。

 必殺!若返りメイクじゃー!


 アルマさんも帰ってきた旦那さんを驚かせるのだと意気込んでいた。



 そして、バイト三週間目の休日。

 カルデア大公領のクリームチーズを安く購入出来たので、キッチンを借りて前世でもよく作っていたスフレチーズケーキを作る。

 うまく出来たので、その日のティータイムに出すと、お店の新商品として出させて欲しいとアルマさんが言った。


「本当に良いんですか?」

「ええ、勿論よ!ふんわり優しく香るチーズの香りと、このしゅわしゅわした食感。是非ウチで出させて!」


 “ヴィーのふんわりスフレチーズケーキ”。アルマさんがそんな名前を付けてくれたけれど、考えたのは自分じゃなく前世の誰かなので少し後ろめたかった。


 だけどこの世界での発案者として名前が残るのだとしたら。

 もし討伐戦役で死んでも、このケーキは残るのだからここで生きた意味もあったのかも知れない。

 

 両親を早くに無くした前世。育ててくれた祖母も亡くなり、友人は少ないオタク仲間だけ。

 ほんの少し思い出してくれる子もいるかも知れないけど、私の存在は直ぐに忘れられてしまっただろう。

 

 今生では貴族として生まれ直しても辛さの方が優って幸せではなかった。


 だけど帝都に来てから、バイトを始めてからの日々は本当に楽しかったし、生きているという実感があった。


 エピソードブックやイラストカードのお陰で、仕舞い込んでいた筈の貴腐人心を揺さ振る物語達にも出会えた。


 この世界で、もう少しだけ生きて行きたい。

 やっとそう思える様になったのはこの喫茶店クローリクのお陰だ。


 それにコレットちゃんやアルマさんのついでに、私もお客さん達から可愛いと言ってもらえたしね!


 前世と今生含めて、こんなに褒められたの初めて!

 




 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ