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19.劣化版エリクサー

誤字報告やブックマーク有難うございます!



 最近嫌でも耳にするヴァイオレットの話題のせいで、酷く気分が悪い。


 聖女ルナリアは自身の教会にて祈りの会を行う為の準備を始めるが、湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。


 贈った筈の呪箱の影響も全く無い上、開封後起こったであろう惨事についての隠蔽の気配も無い。


 だがそれは宮廷魔導師達とも懇意にしていると聞くし、解呪の依頼でもしたのだろうと考えた。


 そして侯爵家の養女となったヴァイオレットはいずれ聖女である自分を見返そうと、復讐めいた事を必ず仕掛けて来る筈だと。そう思っていたのに未だに何も起こっていなかった。

 折角切っ掛けを贈ってやったと言うのに。


 自分の愚かさを棚に上げ、今までの冷遇に対して復讐するヴァイオレットを返り討ちにする。

 そして叩き潰す事を楽しみに、心待ちにしていたと言うのに。

 その無様な姿を見れば、宰相も失望しあの家から妹を追い出すだろうに。


 姉のカトレアは上手く行った。

 母に似て贅沢が好きな女だったと言うのに、何故か継承権第三位の皇子との婚約に漕ぎ着けていた。


 今でもあの時の見下す様な目は忘れないが、頭の悪いカトレアは簡単に自分の策に引っ掛かり湯水の様に金を使い込んだ。

 そして、婚約破棄の時のあの顔はなんと心地の良いものだっただろうか。


 ルナリアは当時を思い出し、愉悦に浸る。


 だが、妹のヴァイオレットはどうだろうか。

 まるで自分の事を忘れてしまった様では無いか。


 大渓谷以来功績も無いくせに、高位の貴族や皇族に囲まれて今も尚称賛を受けている。


 たかが化粧品を数点作った程度で、あのヴィルヘルミナ皇女の派閥に入ると、彼女の新規事業に参入。

 その事もルナリアは許せなかった。

 そんな技術があるなら何故フォルトーナにいた頃、自分に言わなかったのかと。


 今では帝都から帝国中に、新ブランドであるカリーティカの化粧品が急速に広まっており、真新しい化粧技術を記載した本は飛ぶ様に売れていた。

 そのため、ヴァイオレットは今帝国中の女性達にも感謝を捧げられていた。


 だが、そんな事があってはならない。

 自分より劣った者が称賛を受けるのが許せないルナリアは、ヴァイオレットの日々の努力はお構い無しに憎しみを募らせて行った。


 しかもモルゲンシュテルンと下手に関わったせいで、フォルトーナ領で奴隷や魔物の売買、危険類人種での商いが出来なくなったと神殿から苦情が来てしまった。


 彼女にとっては痛手となる事が多かった。

 それでもまだ自分には信徒達がついている。魔女などに頼らずとも、聖女さえいればと崇めてくれる彼らの為にも、力をつけて行かなければならないのだと奮起する。


 そして、いずれ神殿と共に魔女共々ユヴァーリ領を攻め滅ぼせば良いし、自分ならばやれるだろうと、そんな無謀な妄想にも取り憑かれていた。


 残念な事に、自らより優れている者達も彼女にとっては許されざる者となり始めた様だった。


 世界で一番己が賢いと信じる彼女は、己の立ち位置を未だ理解出来ていない。


 神殿にとって聖女はただの駒。集金の道具でしか無い事に気付いて居ながら、それを逆に利用しているのだと思い込んでいた。


 勿論、そんな彼女の内面を見破りつつも、その側に身を置く神官もいた。

 彼らはルナリアにこう言葉を掛ける。


 化粧品やその技術は、本当は貴女が考案したものではありませんか?と。

 そしてそれは妹が貴女から盗んだものでは無いのか?と。


 ルナリアはそれを、自分が賢く優れているから皆がそう言うのだと思い、苦々しい顔をしながら否定する。

 だが、それを見た彼女の取り巻き達は誤解する。

 ヴァイオレットがルナリアの技術を奪ったのだと。


 勿論これは神官達のお遊びだ。

 噂を間に受けた者から技術料を徴収するもよし、言い掛かりだとカルデアやモルゲンシュテルン側に一蹴されるも良し。

 フォルトーナ領に大貴族からの抗議が来ようとお構いなしだ。


 ルナリアに金が流れれば神殿に、自分達にいずれ入って来る。そう成らずとも、毎月しっかり高額なお布施を徴収出来る。

 どちらに転ぼうとも構わないし、ダメージを受けるのはルナリアだけだ。


 だからこれはただの暇つぶしなのだ。










***




 貯金が溜まってから最初にした事は、太陽神ソレーユ様の祭壇の設置だった。


 ただね、ソレーユ様の肖像画がね、めっちゃ高くてね、結果貯金は元通りゼロですの・・・


 でも、この幸せな毎日はソレーユ様から頂いたものだし。異世界転生の感謝をいっぱい込めました!


 一応神々や精霊様、そして魔女様達への祈りの言葉があるけれど、それにプラスして今日の出来事的な事をお話ししている。


 だからなのかな。

 不思議な夢を見たのです。


 暖かい日の光に包まれた美しい庭園で、ソレーユ様とお耽美な掛け算談義と初々しい男女の恋愛模様についてのお話をしたのです。

 とても趣味が合いました。趣向がとても似ているのです。

 両方の趣向が合う相手に出会える事は珍しい。だからこそ同志との会話は心がとても満たされました。


 だから夢です。あれはただの夢ですわ。

 私の妄想が生んでしまった夢なのですの!!



「朝からどうしたんじゃ、ヴィーよ。」

「い、いえ何でも無いです。」


 そうです。今日も早速治癒ポーション作りですよ!


 うう・・・でもソレーユ様からもらったアドバイス・・・

 あれが気になるのですわ。


「お師匠様、少し試したい物が有るんです。」


 そう言って私は手元にある素材をひとつひとつ調合鍋に入れていく。

 足りない物は厨房や保管庫へ取りに行ったり、庭で採取する。


「ほう、変わった材料じゃな。何を作るんじゃ?」


 エイスローラと乾燥したマンダリンの皮、黒曜石少々、天馬の骨、シーサーペントの角、ベヒモスの牙一欠片、そこら辺のただの土を一匙。

 これにローズマリーの精油を一滴垂らしたら桃の果汁をドバッと掛ける。


「この素材達に、光水複合魔力を一気に流し込んだら出来上がり!!」


 違ってください!

 効果が弱いギリギリのエリクサーの作り方って女神様が言ってたけど違ってください!!

 でないとソレーユ様がわたくしの同志決定してしまいますのぉ!!!男女の方はいいけどお耽美な方はダメですよね!?


「光と水は中々無い組み合わせじゃな。と言うか合わせる事自体が難しい筈じゃが。して、これは一体なんじゃ?」

「エリクサーという霊薬の下位互換品ですが、怪我が治るのだそうです・・・」


 お師匠様は、霊薬?だそうです?と復唱し首を傾げると、自分の腕にナイフで傷をつける。

 まぁ、腕っていうか骨ですけど。


「では一滴。」


 ぽとりと落ちた瞬間、謎の発光現象と共に瞬時に傷が消える。


「ファッッ!?なんじゃこりゃあ!!」

「やっぱりか、やっぱりそうなのですか・・・」


 結局、治癒ポーションどころか、下位互換と言えどエリクサーが出来上がってしまいました。


「賢者の石も使わずに治癒ポーションじゃと!?」


 お師匠様は賢者の石を使う事を想定していましたが、女神様レシピにはありませんでした。


 そもそも材料のそこら辺の土って何なんですの!!?

 それでいいんですか!?


「女神様が夢枕に現れまして、仰ったんです。この世界にある物で、割と簡単に万能治癒薬が作れると。」


 そう、これは劣化版エリクサーなのだそうだが、そこそこ効くだろうと仰っていたのだ。


「庭の土も材料じゃったな・・・」

「はい、ただの土でいいそうです。」


「賢者の石関係なかったのぅ・・・」

「ミスリルもです・・・いっぱい仕入れてしまって、すみませんでした・・・」


 賢者の石は、稀に遺跡や鉱山などから出土する希少な鉱物、ミスリルはダンジョン閉鎖後の鉱石化で採取できる貴重な金属なのです。なのでとってもお高いのです。


「では、治癒ポーション完成を感謝し女神様へ祈ろう。」

「そうですね、共に祈りましょうお師匠様。」


 こうして治癒ポーションを開発できた我々師弟は太陽の女神様にお祈りを捧げたのです。



 その後は同志女神様の為に、祭壇にはクレモナ共和国セストの街から仕入れた、とてもニッチなジャンルのエピソードブックのお供えを欠かさず行うようになりました・・・。





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