18.治癒ポーション
ブックマークや誤字報告を有難うございます!
レイラ様の件でアルブレヒト様から謝罪を頂いた翌日、エイスローラが届いた。
それにしても、アルブレヒト様も粋なことして下さいますよね。
「レオンハルトさん!お久しぶりですね!」
「はい。ヴィーさんもお元気そうで何よりです。」
レオンハルトさんはあの後、大渓谷で沢山功績を挙げて騎士爵を授与されたのです。
あの激戦を共に戦った仲間の叙爵はとても誇らしいのですわ!
「叙爵のお祝いも有難うございました。所で、まさかとは思うのですがこれ全部お一人で食べたりしませんよね?」
コンテナ一つ分のエイスローラ。
リューシャちゃんじゃあるまいし、全部は無理でしてよ!
「勿論研究用です。あ、でも好物なのでおやつに頂いたりもしたいです。」
久し振りに会えた仲間です。しっかりおもてなししなくては!
さぁドールさん達宜しくお願いします!
ドールへの命令式をささっと送ると、滑らかな動きでどこからどう見ても人間感のある人工メイドさん達がお茶とお茶菓子を持ってやってくる。
でも、何だか今日のレオンハルトさんは少し元気が無いような気がするのだ。
「あの、何かあったんですか?」
「これは失礼を。・・・いや、カルデア大公家と友好の深いヴィーさんですから、いずれ耳に入ってしまいますよね。」
大公家で何かあったのだろうか?
普段からヴィルヘルミナ様にはとてもお世話になっているので、私も少し不安になって来ました。
「この度、カルデア大公家の血縁者を他国から養子に迎えるのですが・・・その護衛騎士にと打診がありまして。ですが、会った事もない相手に仕えるのはと・・・」
お悩みの所すみません、レオンハルトさん。
でも今は心の中で叫ばせてくださいまし。
レムリア王国の騎士王子キマシタワアァァ!!!!
大公様や先帝ヴィルヘルム様が養子の打診をしていた事は知っておりましたの!でもまさか実現するとは!
「やはり継承戦は第一王子と共に脱落されてしまったのですね。残念な事です。」
「それはどう言う事でしょうか?」
レオンハルトさんは少し食い気味に聞いて来ましたが、未来の主人が気になるのでしょうか?
いけませんわ、わたくしの中の貴腐人よ!今は堪えて!
「え、ええとですね。市場調査の為に小国群のある地方の流行なども調べているうちに、レムリア王国の王位継承争いが帝国に倣ったものだと知りまして、それで色々と情報は仕入れておりました。」
すみません、嘘です。
萌のためです。掛け算の為です!
「宜しければ、第三王子について情報が有れば、お教え頂けませんか?テレシア皇女の御子息と言う事ぐらいしか聞いていないんです。」
「それ程詳しくは御座いませんし、知っている事だけで宜しければ。」
そして私は当たり障りのない部分だけを伝えた。
第一王子が王太子に決まればその騎士になる予定だった事。
ロムレス公国の剣技訓練校に留学し次席で卒業。
そして留学中に治安貢献賞を受賞していた事。
「ただ、第三王子が敬愛なさっていた第一王子が留学中に問題を起こしてしまったようで。そこを突いて第二王子が急激に台頭して来たようです。」
しかしながら、レムリア王子三兄弟がバラバラになってしまうのは少し寂しいですわ・・・
「素行等に問題はないのですね。安心しました。」
「ええ、そのようですわ。何より国民の人気も高かった様ですし、きっと心根の良い方なのでしょう。」
素行が悪いのは私の脳内だけですの。
でもレオンハルトさんが少し元気になってくれたようで良かった。
「所で、ヴィーさんは大丈夫でしたか?襲撃の噂が絶えない様でしたので、少しだけ心配でした。」
「大丈夫です。友人に冒険仲間のカスパー殿下と喫茶店の常連仲間のオルセン卿がいらっしゃるので、そのせいです。私はこれを、とばっちり襲撃と呼んでおります。」
そう言うとレオンハルトさんは笑う。
ようやくいつもの表情に戻ってくれた様です。
「それに、カミラ姉さんの事もお礼を言わなくてはいけませんでした。本当にありがとうございます。」
「いえいえ!お世話になっているのは私の方ですよ!」
お二人は異母姉弟なのだそうだ。あまり似ていないし家名も違うので気が付きませんでした。
そして気付かないと言えば・・・
レオンハルトさんから就活の御守りにと貰ったホーンラビットの魔石は、小国群地方では良縁の御守りでもあり恋人へ贈る宝石としても有名でした。
勿論帝国では健康の御守りですから!
分かっておりますから!
***
と言うわけで、エイスローラも届きましたので私も早速治癒ポーション制作の実験を始めようと思います!
「エイスローラはやはり美味いのう。」
「ですね。」
味見と言って、先程からずーっとカリカリと良い音が響き続ける魔術工房内・・・
食感と丁度いい酸味、そしてこの爽やかな香りのせいで止まらないんですの。
「治癒ポーションの必要性に気が付かない魔女や魔導師は一体今まで何をやっておったんじゃろうな。まぁ、儂もじゃが。」
「しょうがないですよ。治癒魔術の方が圧倒的に効率が良いですし、敢えて作ろうとは思わなかったんだと思います。」
自身が必要としなければ思い付きもしないだろう。
お師匠様だって瀕死になっても治癒ポーションを思い付かなかった様だし。
「それに、結構難しいですよ。水魔術での治癒と違って効果を細分化する必要がありますし。」
「面倒じゃなぁ。」
お師匠様は言う。この世界において水魔術に癒しや浄化が含まれるのは水神様が主神代行をしているからだと。
そして一番保有率の高い風属性は、この世界の本来の主神である天空の女神様の加護によるものだと言う。
「怪我にも種類がありますし、病気だってそうですよ。年齢別や体重別にも分けなきゃいけないし、性別もですよ?」
「うーむ、やはり水属性治癒術で良いと思わぬか?」
「水魔術の魔石封入とポーション化はダメだったじゃないですか。」
片手には賢者ユウクラーダこと倉田医師の医学書。
彼は家庭の医学っぽい書物と、専門的すぎて訳の分からない医学書の2つを残してくれたのです。
ただ、この世界は治癒術の効果が高過ぎて余り評価されていないのが残念だけど。
一冊目の方なんかはとても分かり易くて良い本なんだけどなぁ。治癒ポーション作りの参考にもなるし。
もっと評価されるべきなのですわ!
「やっぱり一度、神聖属性と水属性の混合術式を試しましょう。」
「ヴィーよ。それだとお主か魔女にしか作れん代物になるじゃろうて。」
「ぐぬぬ!やっぱりそうですよね・・・もっと手軽になれば良いのですが。」
議論している間にエイスローラがなくなってしまったので追加していくが、ついつい手が伸びてしまう。
「乾燥したエイスローラの粉末にも傷を治す効果があるそうですし。」
「傷ならばウィローや天馬の骨じゃろうて。わざわざ効果の落ちるエイスローラを使う事はないと思うのじゃが。」
ーーカリッカリカリ
結局議論は纏まらず。
治癒ポーションへの道のりは遠いのです。




