表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/36

16.初代聖女



 今から千年ほど前、異界より流されて来た転移者である西園寺真里奈。

 彼女は大渓谷付近の街ヴィーグリーズで目を覚ます。


 何故か言葉は通じたものの、魔法のない世界から来た彼女はこの世界に困惑する。


 魔物や魔獣、危険な類人種であるゴブリンやオークと言った、様々な危険と隣り合わせのこの世界で、どうやって生きて行けば良いのかと。


 そんな彼女を最初に助けたのは、当時の継承権序列第一位の皇子メルキオール。次代の皇帝であった。


 物語っぽい出会いだが、特に恋愛関係にはならなかった。だが、友好関係はその後も続いた。


 ある日、魔術が使えず困っている彼女のためにと皇子メルキオールによって、一人の魔術師が教師とし派遣された。


 その若い魔術師とは、後の宮廷魔導師長であるサミュエル・ミュラーであった。

 教え上手な彼の元、生活魔法を始め次々と魔術を習う。

 そして主属性が光だと分かった後は便利なライトがわりになれたと言う喜びが日記に綴られていた。

 因みに副属性には水と土属性があったそうだ。


 最初は帰る為の方法を探していたが、ヴィーグリーズの街の人々や冒険者達と交流を深めて行った彼女は、次第に自分も何か役に立てないかと思う様になる。


 故郷では看護師であった彼女が出来る事と言えば、自身の技術をもってダンジョンや黒の大渓谷で傷ついた人々の看護をする事であった。


 最初は職務の範囲を越えることに忌避感があった彼女だが、水属性による治癒術を覚えると次第に治癒師として活動する様になっていった。


 めきめきと魔術の腕前を伸ばす彼女だったが、ある時光属性魔術による弱い細胞再生効果を発見する。

 昔から存在していたそれは、擦り傷を直す程度のものだったが、彼女は術式を研究し、より応急処置効果の高い魔術を編み出した。


 それが、現在使われている聖女の癒しの元となった魔術であった。


 一時的な延命と、その後の水属性や水土複合の治癒魔術で一気に戦役従軍者の生存率と帰還率を上げていった彼女は、次第にヴィーグリーズの聖女マリーナと呼ばれる様になった。


 これは聖女的行いでは無く、沢山の人々に恩を受けたので恩返しなのだと彼女は言う。

 この世界の人々が、どんなに自分に良くしてくれたのか。その感謝が治療活動の理由となっていた。


 そして、故郷では余り良い思い出が無かった事も記されていて、この時点で既に故郷への未練は無くなっていた。


 そんな中、遂に神殿が彼女に声を掛ける。

 彼女の崇高な行為は神々の認めるものとなり、これからもこの世界の人々を癒して欲しいと。


 そして彼女は神殿の支援を受ける様になり、光属性魔術での応急処置術を指導する様になって行った。


 そして、治癒の流れが確立されつつあったある日の事。

 彼女は神殿内に囚われる事になってしまった。


 理由は神殿内での派閥争いと、彼女が民からのお布施を拒んだせいでもあった。

 自身が教えた神官の中には高額な治療費を要求する者もおり、それを彼女は禁止した。


 それが幽閉の決め手になった事を知った彼女は、神殿の腐敗にようやく気付く。


 だが、教え子の神官達の中には清廉潔白な信徒達もおり、一度は彼女の救出を試みるも全員が殺されてしまう。

 それも、彼女の目の前でだ。


 もうどうする事も出来ないと悟り、彼女は日記に書き残す。


 どうか、この歪んだ神殿を正して欲しい。

 正せないのなら綺麗に消し去って欲しい。


 そしていずれこの日記を読むかも知れない同郷の者達へ。


 己に力がない場合は決して彼らと対立してはいけません。関わってもなりません。

 万一その力があっても、行動は慎重に。彼らの手のものはそこら中に居るのです。



 もし、強大な力を持つ方がこちらの世界にいらっしゃったなら、腐った神殿を正すより、日々祈るあの清廉な者達だけをお救い下さい。

 彼らにこそ救いが必要です。






「こう言った内容が日記に綴られていた訳なのですが・・・」


 一通り説明すると、魔術工房内の空気がズーンと重くなった。


「儂はサミュエル学派じゃから、祖の教えの意味が今何となく分かった様な気がするのう・・・。」

「お師匠様と同じで、大魔導師サミュエル様も神殿嫌いで有名ですよね。そりゃそうですよね、弟子を勝手に幽閉された訳ですし。」


「ヴィーよ。マリナは弟子であり、愛する者だったそうじゃ。よもやそれが初代聖女だったとはのう。」


 師匠はしみじみと語り、養父様は腕を組み頷いている。


「では、皇帝メルキオールが密かに愛し、失った女性と言うのも初代聖女やもしれぬ。黒髪と見慣れぬ顔立ちと言う特徴は南方の女性かと思われていたが・・・。そうか、転移者ならば合致する。」


 養父様は転移者で大賢者の佐藤さんも黒髪に見慣れぬ顔立ちだと言っていた。


「帝国の歴史の中に、稀に現れる異界からの漂流者。その殆どがこの地に適応出来ずに数日の内に死ぬと言う。ただ、生き残った者は偉業をなす事も多いと言われている。」


 おっふ!異世界超怖い・・・わたくし転生で良かったのですわ!

 あ、そう言えば私の前例さんってどうなってるのかしら?

 元気だといいな。


「では私も初代聖女の意思を汲み、壊滅ではなく選別の方法を取るとしようか。」

「ありがとうございますお父様!」


 養父様は神殿や教会は綺麗さっぱり更地にしよう!と言うお考えでしたが、真里奈さんの日記を知って考えを変えてくれた様です。


 所で、選別ってどうするんだろう?

 と思ったら、真実しか話せなくなる魔術と言うのがあるそうだ。

 しかもそれは頭の中で考えている事がダダ漏れになってしまう危険な術式なのだと言う。


 使用には皇帝陛下の許可がいるそうで、今それが使えるのは宮廷魔導師に一人だけ。

 しかも、その魔術を扱えるだけの魔眼を持った魔導師さんは、パストーリの聖女のお姉さんなのだと言う。


 因果だな、と思う。

 噂だとそのお姉さんも酷い目に遭わされた上、今でも妹である聖女が不敬や迷惑行為をする度に方々へ謝罪しに行っているそうだ。


 私ならあのDV姉の為に謝罪なんて絶対に無理。


 でもジーク姉様の為なら地面に頭を擦り付けるレベルの土下座が出来ますの!


 まぁ、ジーク姉様は人に迷惑を掛ける様な方では無いのですが。




 その後、養父様とお師匠様とで千年前の歴史考察が始まりましたので、わたくしとジークお姉様は就寝タイムですの。


 ただ、部屋に戻るまで何も言わずに手を繋いでくれていたジーク姉様の優しさが心に沁みた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ