15.神殿
「ようこそおいで下さいました、モルゲンシュテルンの聖女ジークリンデ様!」
「とんでもございません。今日は学術研究の為の見学をお許し下さいまして、誠に有難うございます。」
はい、今日はジークリンデお姉様が学術研究の為と偽り、神殿見学に訪れておりますの・・・・。
今回の訪問で、魔物密輸に関する資料を見つけられると良いのですが、表向きに公開できる場所には置いてはいないでしょう。
それでも、少しでも手掛かりを掴めれば良いのですが。
それにしたって、結構お金が掛かりましたのよ?
クッソ最悪なぼったくりですの!
今日のわたくしは、モルゲンシュテルン領軍騎士服を着て護衛騎士の振りをしてジーク姉様について来ております。
なので、今日のメイクは目元がちょっとキツめなくっころ系女騎士風ですの。
後、何故かお師匠様もついて来てしまったんですの。
モルゲンシュテルン領軍騎士服に魔術師ローブを装備した二十代仕様のめちゃくそイケメンな人間姿で!!
三十代仕様も確かに素敵でしたが、流石美しき大魔女様の御子息。
イケメンにも程がありますの!
「ジークリンデ様、御所望の物がお有りでしたら何なりとお申し付け下さい!」
そう言う神官は鼻の下を伸ばしまくっている。
分かる。気持ちは分かるけど聖職者でしょうが!
今日この神殿へ訪れた姉様の言い分は、自分の様な一学生研究者が聖女に選ばれるなど恐れ多く、返上を願っていたが、その前にもっと聖女を知るべきだと思い、その活動の軌跡を辿る為に資料庫を拝見したいと言うものだった。
認定が上手く役立ちましたわね!
わたくしの為を思ってくださる反面、唯の研究欲と言うのが分かってしまうのも微笑ましいのですわ。
ワクワク顔の姉様尊い!
そんな訳で、聖女の扱う光属性の癒しの魔術やその活動の歴史の閲覧を始めたのですが、ジーク姉様の美しさに完全に心奪われてしまった様子の神官が、とっておきと言って初代聖女の神聖語で書かれた書物と言う物を持ってきてくれた。
状態保存をかけられたその千年前の書物は、今も当時と変わらぬ状態で保管されていると言う。
「神聖文字ですので読む事は出来ませんが、初代聖女様の筆跡で御座います。是非閲覧していただきたく存じます。」
そう言って本を開いた瞬間、私はビクリと身体を硬直させてしまう。
ジーク姉様やお師匠様、そして神官さんも一斉に此方を見る。
「どうかしましたか?」
そう問いかけてくる神官さん・・・目立たないつもりが、やっちまいましたの。
「発言をお許しくださいジークリンデ様。初代聖女様の書物と聞き、此方を目にする幸運に感謝と感激でこの身が震えてしまったのです・・・!」
感動するくっころ女騎士を演じて難を逃れようとすると、神官は言う。
「凛々しくもお美しい騎士様、貴女のような信徒が目を通すならばきっと初代様もお喜びになるでしょう。ささ、ジークリンデ様と共にご覧になってください!」
おいいいい!こっちにもデレっとした顔を向けないでくださいまし!
全く、節操のない神官ですこと!
だけど、これを読むチャンスだ。
だってわたくしには読めますもの。
日本語だからねコレ!!
「敬虔な神の信徒である貴女を連れてきて良かったわ。」
ジーク姉さんも私の演技に合わせてくれたようで、主人の隣は恐れ多いとかなんとか、お決まりっぽい問答しながらようやく席につき閲覧を始める。
私とジーク姉様が分からないふりをしながらページを捲る。そして、その後ろで繰り広げる師匠の演技も凄かった。
信徒に対する心遣いが素晴らしいと、目の前の神官さんを褒める褒める。
更には人格を褒めるだけに止まらず、能力も高そうとひたすら褒めちぎっていた。
有難うございますお師匠様!
注意を逸らしてくれたお陰で初代聖女の日記が読みやすいのですわ!
***
その後、神官長さんにご挨拶をしてお布施を渡してすぐ帰った私達なのだが、ジーク姉様は上手く返上の意向を伝えていた。
神託により選ばれた聖女は光栄だが、やはり自分は聖女達のように献身的な活動など出来ないし相応しくないと弱々しく言う。
あと、ついでと言わんばかりに軟弱設定を付けていて、流石にそれはと思ったのだが、神官長さんはそれは考慮すると言い出した。
生臭坊主過ぎませんかね・・・。
そして今日は、モルゲンシュテルン家の屋敷には、養父様も心配していたのか夕方には宮殿から戻って来ていたそうだ。
本当に娘達を大事にしてくれる素敵なお父様なのですわ!
お着替えをした後、今日はお師匠様をお招きしてのお食事タイムなのだが、侍女さん達が急なイケメン登場にそわそわしていましたの。
皆様、それ中身百八十歳の骨ですわよ・・・
食後は勿論、家族水入らずのお茶タイムなのだが今日は報告を兼ねて、ジーク姉様やお師匠様と共に養父様の魔術工房へお伺いする事になった。
***
養父様の魔術工房にはお茶とお酒、そしてお菓子と軽いおつまみが用意されており、ここには侍女や従者も居らず、完全な密室となっていた。
「話をする前に言うべき事があるじゃろう、ヴィーよ。」
お師匠様は、この二人は信頼出来る家族なのだろう?と付け加える。
確かにそうなのだが、お師匠様の様にあの荒唐無稽な話を信じてくれるだろうか?
それに、なんか恥ずかしいのよね・・・
「わ、分かってます!でも、結構ぶっ飛んだお話なのですが・・・。」
「家族にもいずれ打ち明けたいと言っておったじゃろうが。今がそのチャンスじゃぞ?」
仮にも一国の宰相の前で、あの話するんですよ?
あたおか感半端ないあの話をですよ!
師匠の時だってすごく緊張したんですから!
「ヴィー、何があろうとも受け入れる準備は親となった時点で出来ている。」
「そうですよ。私達は家族なのですから!」
こんな風に優しい言葉を掛けてくれるパーヴェルお父様もジークリンデお姉様も、本当に大好きなのですわ!
「で、では。私の生まれについてお話したいと存じます。」
お師匠様に話した時の様に、順を追って説明していくのだが偶にお師匠様が解説を入れてくれるので、より分かりやすく伝える事が出来た。
結果、養父様は頭を抱え、ジーク姉様は神聖属性魔力を見たいと興味津々なご様子だった。
手のひらにふんわりと白い光を灯すと、ジーク姉様は目を輝かせて観測に勤しんでいたのだが、直ぐに魔力切れになってしまい光は消える。
「今扱える最大値がこれです。すみません、もっとドバーッと出る様になったら姉様にもお見せしようと思っていたのですが・・・。」
「そんなことはないわ!本物の癒しの輝きを目にする事が出来たのだから太陽の女神ソレーユ様にお祈りを捧げたいくらいなのよ。」
生きているうちに見られるかどうかも分からなかったから、と言うジーク姉様はソレーユ様にその場で祈り始めてしまった。
「ふむ、事情は分かったが私の娘には変わりない。ただ、知られる訳にはいかぬな。」
「それが問題じゃて。じっじはヴィーに、魂が馴染む時間と言った様じゃし、これはいずれ大きくなる力なのじゃろう。」
やっぱり今バレると不味いですよねー。
そして養父様は、ヴィルヘルミナ様の派閥入りが良い選択だったと褒めてくれた。
後ろ盾としては恐らく最高だという。
それは勿論、沢山の女性を味方につけられると言う意味だそうだ。
美容品って強いですわね・・・
「でも私が神殿を潰したい理由は、神々のご意向と言うだけではないのです。今日、初代聖女の日記を読んで、やっぱり神殿はダメだって思ったので・・・。」
そうして私は日本語で書かれた日記の内容を、覚えている限り語り聞かせようと話し始めた。




