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13.師弟の秘密



 今日は、魔法陣と魔石を用いた属性外魔術についてのお勉強です。

 魔導師試験対策として複数の属性を扱えた方が良いとお師匠様は言います。


 これは属性無しの単純魔力をかなり消耗するので、私には向いて居ないと思うのだけれど、一年前と比べても今は大分魔力量が上昇している。

 今ならきっと出来る気がする!



「魔法陣と魔石の扱いをしっかりと覚えたら、次は杖の製作じゃな。」

「えっ、今使ってるのじゃダメですか?」


 私は手に馴染んだ学園での教材だった杖を今も使っている。

 所謂、量産型杖なのです。


 それにフォルトーナ家に居た頃は、自作杖を作れる程のお小遣いも無ければ素材もない。

 そもそも魔術工房さえ持って居なかったのだから、しょうがないのだ。


「この百年の間に、学用杖が随分と良物になってはおるが、まさかその杖で魔物討伐戦役に従軍したとは・・・。」


 呆れる様にお師匠様は言うが、何となく思い当たる節がある。


 大渓谷の草原地区では皆が妙に優しくて、時には食べ物まで分けてくれたり、労いの言葉を沢山もらった。


 伯爵令嬢と気付いた人も居なかったし、確かにお金はバイト代で貰った分しか持ってなかったけど・・・理由はそれだったのね。


 苦学生だと思われてたのかもしれない。

 きっと、学費のために従軍したのだと思ってくれていたのだろう。


 そして、ふと思い出してしまう。


 あの草原区画で親切にしてくれた仲間や仲良くしてくれた人達皆がもう居ないのだと。


 その記憶に引きずられる様に、胸が重く締め付ける様に痛んだ。


“ヴィーちゃん、飴をお食べ。“

”グロースフォーゲルの肉が沢山手に入ったから遠慮しないで沢山食って行けよ!”

“傷薬が沢山あって困ってるから、是非とも消費を手伝ってくれないか?”


 次々と思い出す彼らの顔や言葉に、涙が溢れた。


「成程、だから皆親切だったんですね。」


 堪えても堪えてもポロポロと落ち始めた涙を急いで拭うと、お師匠様がポンポンと骨の手で頭を撫でてくれた。


「お主が泣くのは珍しい事じゃな。まぁ、理由は察するがの。」

「急にすみません、でも大丈夫です。悲しいだけじゃなくて良い思い出もしっかり残ってますから。」


 大渓谷では誰もが経験する、仲間を失う悲しみ。

 それは幸運にも生き残った者達皆が、平等に背負うものだ。

 そして、生き残った者達の義務。それは、彼らの分まで生きて戦う事なのだと教導官達から習った。


「もっと強くなりたいので、ご指導宜しくお願いします、お師匠様!」

「そうじゃな、それも良かろうて。だがの、楽しむ事を忘れてはならんぞ。」

「勿論ですよ!お師匠様の講義は楽しいですからね!」



 その後、魔法陣と火の魔石を使って蝋燭に火を灯す練習を始めたけど火が大き過ぎたり小さ過ぎたり、蝋をどろっどろに溶かしたりと発動時の調整が難しかった。


 だがしかし!練習あるのみなのですわ!








***




 お師匠様に、神聖属性魔力の事をなかなか言い出せない日々は続いた。


 だが、今日こそは!と意を決して、お師匠様の読書&晩酌タイムに書斎へお邪魔する事にした。


 お師匠様はここ百年の新技術に関する研究書等を日々読み込んでいる。

 凄い量だけど、読んでいる時のお師匠様はとても楽しそうなのだ。



「して、改まってどうしたんじゃ。」

「あの、その・・・私の、魔力属性についてお話をと・・・。」

「ああ、微量の神聖属性魔力じゃな?」


 って知ってたんかーい!


 流石大魔導師ですわね!と思ったのだが、どうやら別の事情があった様だ。


「儂の故郷、ユヴァーリにある魔女領ではそれ程珍しい物ではないからの。ただ、お前さんは聖女を嫌っておるじゃろ?微量でもその属性が公になれば否が応でも巻き込まれるじゃろうて。」


 やっぱり気付いていて何も言わないでくれていた様だった。


「ヴィーの場合、血統的にも発現要因が不明じゃて。であるからこそ、それは隠さねばならぬ・・・。」


「その事について、お話をと思っていました。荒唐無稽な話にはなってしまいますが・・・全て事実なのです。」




 こうして、ようやく私はこの世界で初めて、生まれについての秘密を明かした。


 異世界で一度死んだ事。

 死の間際に太陽神ソレーユの眷属となってこの世界に送り出された事。


 そして、この世界では水神に出会い、話をした事。

 お礼と称して魔石をもらった事。

 真・聖女についても。


 その全てを、時間を掛けて話したのだが、お師匠様は何も言わずに最後まで聞いてくれた。




「神の眷属、しかも真なる聖女とはのう・・・まぁ、水の神獣の人化した姿は滅多にお目にかかれんからの。ヴィーの語る姿形は正確じゃて。だからこそ儂はその話を信じるし、血統の問題にも納得がいった。」


「やはり、いずれかの魔女の系譜でなければ神聖属性は発現しないと言う事でしょうか?」

「左様。だが、魔女の系譜も四〜五代辺りが限界じゃて。」


 しかも血が薄まると、再び魔女との間に子を作ると言う水神様・・・

 ゼウスも真っ青の子孫数ですの・・・


 そして大魔女様は水神様の最初の娘なのだそうで、つまりお師匠様は神孫に当たると言う。


「水神様が言っていた孫って、お師匠様の事だったんでしょうか?あの時まだ出会っていなかったのに、未来の事も分かるんですかね。」

「恐らくは儂ではなく、星降の魔女とやらがそうなんじゃろう。天空の女神様の白帯にある星屑を掴むほどの異常な魔力量のようじゃしの。」


 お師匠様が知る百年前の魔女達の中でも、そこまでの者は居なかったと言う。




「では私も、ヴィーに話すとしようか。この身体の事を。」


 お師匠様が急におじいちゃん言葉を止めてビックリしてしまったのだが、そんな驚く私を気にせず話し始めた。



 百年前、あのダンジョンで受けた攻撃で割とガッツリ致命傷を負っていたそうだ。


 そこで、お師匠様のお父上が開発した魔術で延命をしたのだと言う。

 幸か不幸かその魔術と相性が良かったため、骨を体とし精神と魂が上手く定着したそうだ。

 ただ、余りにも上手くいってしまった魔術のせいで、寿命が全く分からなくなってしまったと言う。



「それは父クラウスの最初の死の間際、自分を一人にしないで欲しい、と言う大魔女の願いを叶える為に編み出した魔術だったのだよ。息子としては聞いていられない惚気話を何度も聞かせられたものだが、役には立った。」

「気恥ずかしくて子供的にはあまり聞きたくない類の話ですね・・・」


 大魔女様は建国の前から生きている。

 長い時の中での大切な人達との別れはさぞや辛かっただろうと思う。

 でも長い時の中で、ずーっと側に居続けてくれる人がいるって素敵よね。


 一人ぼっちは寂しいものね。



「ま、そう言う事じゃて!お互い面倒な者同士何とかやって行くしかないのう。」

「確かにそうですね。本当に面倒体質師弟ですね私達!」




 今日、師匠と話して一番驚いた事は、魔女領一帯にだけ現れると言う強大な魔物の魔核五個と、私も貰ったあの神聖魔力結晶一個を交換してもらえると言う事だった。


 それも、魔女領で偶に行われる魔物狩り大会での賞品なのだそうだ・・・


 神聖属性の扱いが軽すぎませんこと!?


 しかし、神聖魔力結晶の存在は一応秘匿されている様である。


 だけど、お師匠様の話を聞く限り、魔物狩りが楽しい催し物と言う感じがしてしまうのは何故なのかしら・・・


 ユヴァーリ領って冒険者ギルドも作れない程に過酷な地方と聞いているのに!


 しかも、魔女の妻達は手料理や菓子を交換し合い、夫達は日々の研究の成果を発表する場になるそうだ。


 そして子供達は、母である魔女と一緒に強大な魔物達を倒す競争をすると言う・・・


 異世界の中に、別の異世界を発見いたしましてよ!

 とんでもない魔境ですの!

 


 従軍前の、今よりずーっと弱いあの状態で魔境に行かなくて良かったのですわ・・・


 あの厳しい入領審査に感謝を!




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