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1.長女の婚約破棄





「では、こちらが婚約破棄の書類です。」


 一番上の姉の婚約者が差し出した紙束を見たヴァイオレットは思う。


 ま、現実の婚約破棄なんてこんなものよね。と。


 物語の様に劇的な婚約破棄でも無ければ、悪役令嬢もヒロインも居ない。

 姉の散財癖が酷すぎた上、功績どころか研究も魔物討伐戦役に従軍すらしていないのだから、こうなって当たり前だろう。


 外面の完璧な長女カトレアの婚約破棄。

 両親もまさかそんな事になっているとは思わなかった様で、平謝り状態だった。


 ここフォルトーナ領はオルテア帝国西側にある中途半端で微妙な位置にある領地だ。

 帝都には遠くも近くもなく、僻地と言う程でもない。特産品や名産品がある訳でもないし、主要交易路からも外れている。

 飛行船発着場もなく交通の便も悪い。


 帝位継承権など数百年前に途絶えて久しいそんな伯爵家に、とんでもない幸運が舞い降りた。


 カトレアの学園時代の同級生であった継承権序列第三位の皇子、アルブレヒト・プリムス・カルデア。

 帝国東側の大公家の長男からの婚約の申し出があったのは今から3年前の事。


 このオルテア帝国は先々代の皇帝まで遡り、その血筋に帝位継承権が与えられる。

 現在は334人の継承権を持つ皇子達が日々継承争いを行っている。

 彼はその中でもほんの一握りである上位の皇子で、先代皇帝の孫であった。


 これで我が家も安泰。

 現在第三位なら帝位も狙える位置だ。

 例えば皇帝になれなくとも、次代では宰相か大臣か。いずれにせよ将来は安泰。


 だと言うのに、カトレアは慢心しきって素が出てしまったのだろう。

 カルデア大公家から出される婚約者への予算を使う使う。予算オーバーなんて次元じゃない。

 その額を見て家族一同絶句したが、アルブレヒトは返済の必要はないと一見甘い事を言う。


 だが安心出来るわけがない。


 謀略家であるこの青年の意図が図れず、今後の伯爵家の事を考え、長女カトレアは修道院へ送られる事になった。


 

「と言うことはルナリア姉さんが家督か。」


 次女ルナリアは、アルブレヒトに対し誠心誠意の謝罪をしていたが内心喜んでいるだろうなとヴァイオレットは思う。

 馬鹿は嫌いだと口癖の様に言い、カトレアやヴァイオレットを酷く嫌っていた。


 そんな姉の元で生活するのは辛いので学園を卒業したら専攻科を決めて学院まで進もう。

 基本放置の末っ子とは言え、その位のお金は出してもらえるよね?

 

 そんな事を考えていたが、それも叶わず魔術師認定を貰ったら直ぐに、魔物が溢れる黒の大渓谷の魔物討伐戦役に従軍しろと言われてしまう。


 聖女の認定を得たルナリアの様にしっかり国と領の役に立てと言われるが、政略結婚の駒にもならない地味な容姿と言われた彼女は、学園の卒業後に魔術師認定試験を受けたら直ぐに家を出る事になってしまった。


 ただ、魔術師認定試験に二度程落ちた彼女は大分遅れて従軍準備をする事となった。






***



 平凡な市役所職員だった前世は、酷い最期だった。

 人違いで刺殺されたのだから運が無いとしか言え無い。


 ”優愛さん!将樹さんを返して!“

 みたいな事を言っていたのだけど、そもそも私の名前は夏菜です。


 何でこんなもっさりした三十路の喪女にそんな勘違いを・・・と思ったが、その日休日だった私は整形レベルのメイクをしていた事を思い出す。


 特徴ない顔って化粧映えるなと、うっきうきでお洒落して買い物に出掛けたその帰りだった。

 きっとメイク後の私は優愛さんとやらに似てしまったのでしょうね・・・。


 問題はその後。


 死の寸前、自称神様が現れて別な世界で生きてみないか?と言うものだから、そりゃ驚きましたとも。


 この世界って、異世界転移ならまだしも異世界転生って本来出来ないシステムらしい。

 だけどつい最近前例が出来たらしく、その再現で異世界転生して見ない?と言ってきた。


 自称神の女神さんは酔狂にも自分自身の力を私に分け、眷属にした後送り出すと言う・・・


 初っ端からチート能力でも貰えたかな?と思ったけど、もらった力は世界の境界を渡る時に使い果たしたみたい。


 つまりわたくし、優遇無し転生になったのですわ。

 ただのモッサい伯爵令嬢ですわ。


 その場のノリで、死にたくない余り転生を選んだ事を後悔した。

 だって結局は一度死んでるという・・・。

 しかも美少女でも無いし、今生でも地味顔。

 姉達には馬鹿にされ、両親も見て見ぬふり。

 特に二番目の姉ルナリアは精神的暴力を振るうのがお得意の所謂DV姉です。恐怖で一家を支配してるんですよ。


 

 そんな訳で、前世の記憶は半年程前からじわじわと思い出したのだけれど、もっと前に思い出していれば色々と何とか出来たでしょ。幼児期とかなら特に。


 でも現実は甘くないよね。多分何ともならなかったと思うわ・・・


 それにね、思い出してからの半年間ですらどうにもならなかったし!

 それどころか馬鹿なくせに家の事に口を出すなとルナリア姉様からどやされるし。

 この領地は神殿から聖女の補佐のためにやって来た汚職神官だらけって言うのもあるけどね・・・。

 神様天罰はよ!


 そんなわけだからね!もう!内政チートどころじゃないのでしてよ!


 後、残念なお知らせ。

 転移者が何百年かに一度漂流して来るこの異世界は、結構文明と文化が発達してる。

 先人達がチートしまくってくれたお陰で私のやるべき事なんてもう無いんじゃないかなー。


 何であの自称女神はわざわざ自分の身まで削ってこんな事したんだろ?


 取り敢えず、転移者だと思われる大賢者サトゥーもとい佐藤さんには一度会っておこうかなと思い、彼の住むユヴァーリ領へ行こうとして見たけど入領審査が厳しすぎた。


 ま、世界守護の魔女達が住む領地と言うのもあって、セキュリティガッチガチな訳なのですわ。


 入領許可まで半年掛かると言われちゃうし、魔物が溢れる黒の大渓谷への出発日までは、どう考えても間に合わなかった。


 死亡率の高い魔物討伐戦役。

 戦死者の家族には見舞金が出るとも言うし、この世界全てへの献身として大変名誉な事でもあると言う。


 やっぱそうですわよね、死んでこいって意味ですのよね!


 何もそこまで嫌わなくても良いじゃない。

 確かに私は前世と同じく、今生でも平凡どころか地味な容姿ですよ。

 カトレア姉様みたいなゴージャスな美人でもないし、ルナリア姉様の様なキリッとした美形でもない。


 出来るだけ良い家と縁組をと、見合い的な事も何度かしたけど全部お断りされちゃうし。

 美人な姉二人を見て期待して見合いしたけど、これはちょっと・・・って面と向かって言われた事もあった。


 それ以来両親ですら私に手を掛けてくれなくなって行ったのよね。


 貴族って結局こんなものなのかなぁ。

 家の利益にならなければ簡単にポイ捨て。


 あー、思い出したら落ち込むわぁ。

 でもまぁ、そんな時は美味しい物でも食べよう!  

 


 と思ったけど家から与えられた支度金が少ないので贅沢なんて出来ない。

 出発まで結構どころじゃ無く日数ある・・・


 バイトでもしようかな・・・









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