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メビウス館の殺人  作者: 菱川あいず
止まらない殺人
25/30

ねじれ⑴

 一太を殺害した幹康は、ポケットから黒いインクを取り出し、その場にバツマークを描いた。


 それから、一太を割れたシャンデリアの中央付近に「飾り付ける」と、「1」の客室寄りの螺旋階段(広間の玄関から見て左の階段)を降りていった。

 なお、シャンデリアを踏んでもダメージがないように、足には長靴を履いている。



 螺旋階段の行き着く先は、「広間」である。


 しかし、この「広間」には玄関がない。


 また、中央壁寄りの「メビウスの輪」の銅像もなく、代わりにそこに置かれているのは、「かの女史」の銅像であった。



 この「広間」こそ、一太が必死で探していた「隠し部屋」なのである。



 幹康は、中央のソファーまで辿りつくと、達成感とともにソファーに沈み込んだ。



——やった。ついにやり遂げたのだ。



 幹康は、憎き親戚5人を()()()()()葬り切ったのである。



 もっとも、幹康にはまだやり残していることが2つあった。



 そのうちの1つに取り掛かるべく、幹康は、テーブルの上に羊皮紙を広げる。



 今回の「メビウス館の殺人」の全貌をこの羊皮紙に記すのである。




 幹康は、親戚5人を亡き者にするためだけに、無人島である不磨島を購入し、この特殊な仕掛けの施された館を建設した。


 この館のあまりにも奇怪な構造を、設計士や建築業者は大いに怪しんだ。


 しかし、彼らは大金を叩いてくれる依頼者に口を挟むほど野暮ではなかった。



 この館の構造の特殊な点はいくつもあるが、最大のものは、この館が「メビウスの輪」のように()()()()()()()()()()()()だろう。




 実は、この館には、()()()()()()



 表は、被害者たちが存在を認識していた1階と2階である。1階は広間で、2階は客室だ。


 そして、裏は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()地下1階と3階である。


 地下1階は1階と同じ構造の広間、3階は2階と同じ構造の客室となっている。


 そして、今、幹康がいるのは、地下1階の広間である。



 この地下1階と3階は、一太が言っていたところの「隠し部屋」であるが、実は、構造上は「隠し部屋」などではなく、簡単に行き来ができるようになっている。



 ただ、あるトリックによって、被害者たちはそのことに気付いていなかっただけなのである。



 では、どのようにすれば地下1階及び3階に行くことができるのか。


 簡単である。


 1階の広間において、玄関から見て左の階段を上れば3階に、そして、2階の廊下で、玄関から見て左の階段を降りれば地下1階に辿り着くのである。



 この館は、「メビウスの輪」のように、ねじれて交錯している。



 つまり、1階に2つある階段のうち、一方(玄関から見て右)は2階につながっているが、もう一方(玄関から見て左)は3階につながっている。


 そして、2階に2つある階段のうち、一方(玄関から見て右)は1階につながっているが、もう一方(玄関から見て左)は地下1階につながっている。



 これこそがこの館が「メビウス館」の名を冠する理由であり、「メビウス館の殺人」の最大のトリックなのだ。

 なお、3階に関しては、2つある階段のうち、一方(玄関から見て右)は地下1階につながっているが、もう一方(玄関から見て左)は1階につながっている。



 このトリックがバレないようにするための仕掛けが2つある。



 一つは床の傾斜である。


  1階にある2つの階段は、被害者たちが頻繁に利用しうるものであるが、一方が1フロア分上昇するもので、もう一方が2フロア分上昇するものであるため、螺旋階段というトリッキーな構造であるとはいえ、他に何も工夫をしなければ、さすがに長さの違いを気付かれてしまう。


 そこで、1階と2階とで逆の傾斜をかけることにより、階段の長さがほとんど変わらないようにしたのである。

 なお、地下1階は1階と同様の傾斜、3階は2階と同様の傾斜になっている。



 そして、より重要な役割を果たしたのは、廊下の中央に仕掛けておいた割れたシャンデリアである。


 被害者たちはシャンデリアを踏まないようにするため、玄関から見て右側の客室(6、7、8)に行くときには右側の階段を、そして、玄関から見て左側の客室(1、2)に行くときは左側の階段を必ず使用していた。これにより、被害者たちは、地下1階へつながる階段を一切利用することがなかったのである。



 このことにはもう少し説明が必要かもしれない。


 被害者たちは、シャンデリアを避けるために、玄関から見て右側の客室(6、7、8)に行くときは右側の階段を使用していた。

 この階段は、1階と2階をつなぐ階段であるから、6、7、8の客室を利用していた一太、幹康、未優は、広間と2階を行き来していたことになる。


 他方で、玄関から見て左側の階段は、1階と3階をつないでいるため、1、2の客室を利用していた安曇と月奈は、1階と3階を行き来していたことになる。



 つまり、安曇と月奈が利用していた客室は、2階ではなく、割れたシャンデリアも含めて2階と全く同じ構造をしていた3階に存在しており、一太、幹康、未優の客室とは別のフロアに存在していたのだ。



 このことは、割れたシャンデリアがなければ誰しもがすぐに気付けるはずであったが、割れたシャンデリアによって、廊下の中央を通って行き来することができなかったため、被害者たちは誰も気付くことができなかったのである。



 なお、外観上、この建物が3階建てであることがバレないような工夫として、この無人島には背の高い木をたくさん植えてある。目の錯覚で、建物を低く見せるために。

 そもそも、この建物の屋上にはソーラーシステムがあるから、仮に建物の高さに違和感を持ったとしても、それはソーラーシステムによるものと解釈するものとは思うが。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)





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― 新着の感想 ―
これは図がないと理解するの難しいですね。私も途中で図を描きながら読みました。
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