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メビウス館の殺人  作者: 菱川あいず
止まらない殺人
23/30

「第三者」

 幹康が殺されたことを知った後、一太は、未優と会うのが怖かった。


 もし未優がこの連続殺人事件の犯人だったとすれば、出会い頭に一太を殺してもおかしくはない。



 しかし、実際に広間で鉢合わせると、そのようなことはなく、むしろ、未優の方が一太に怯えているようであった。



「一太さん……、幹康が……夫が殺されてしまいました……」


 未優は真っ赤に腫らした目で、一太の顔をじっと見る。


 睨む、というよりは、もはや感情を使い果たしたような目であった。



 一太は、未優に掛ける言葉がなかった。「ご愁傷様でした」と言って慰められるほど平和な状況ではない。


 もっとも、未優に対して、「あなたが犯人ですか」と聞くのも躊躇われた。


 たしかに、幹康殺しに関しては、未優にも実行可能である。それどころか、もっとも実行しやすいポジションにいると言える。


 しかし、目の前の憔悴しきった華奢な女性が、夫を殺し、さらに夫の兄弟をも殺したようには到底見えなかった。



「一太さん、私は一太さんを信じていいんですか?」


 この「信じていいんですか?」というのは、「犯人ではないんですか?」という意味に違いない。



 一太は大きく頷く。



「もちろん。俺は幹康を殺してない。無論、安曇も月奈も」


「……じゃあ、犯人は誰なんですか?」


「……分からない」


 未優が犯人でないとなると、犯人は無人島に隠れている第三者ということになる。


 幹康に関しては、状況的に、明らかな他殺であり、自殺の可能性は考えられないのだ。



「一太さん、あなたたち兄妹を恨んでいる人物は誰かいないんですか?」


 たしかに殺された人間の共通項は、薩川家の血を分け合った兄妹ということになる。


 とはいえ、兄妹はみな成人し、別々の場所で別々の人生を歩んでいるのだ。


 兄妹全員をまとめて恨んでいる人物など思い当たらない。



「たとえば、相続絡みの可能性とかはないですか?」


 なるほど。その視点は今までなかった。たしかに薩川家はそれなりの名家であるし、資産をそれなりに有している親父はまだ存命である。


 ゆえに、その親父の資産を狙った殺人、というのは動機としては納得できる。


 とすると、犯人は、相続に絡んでくる人物であり、かつ、殺された者が相続から排除されることによって得する者、ということになる。



「……俺しかいないな……」


 親父の相続人になるのは、お袋がすでに亡くなっている以上、子どもということになるが、現時点で残された子どもは一太だけなのである。



「じゃあ、やっぱり一太さんが……」


「いや、違う。断じて違う。何を言っても信じてもらえないかもしれないけど……」


 未優は、唇をわなわなと震わせ、今にも発狂して泣き出しそうだった。


 その気持ちは、一太もそう大きく変わらない。




「ここでお互い話し合っていても何も解決しませんね」


「そうだな」


「私、自分の部屋に戻ります」


 そう言って、未優は、小走りで階段室へと向かっていった。


 一太に背後から襲われることを警戒し、チラチラと背後を確認しながら。



 未優の背中を見送った後、一太は続くようにして螺旋階段を上り、自分の客室へと入っていった。



 そして、ベッドで仰向けになり、考えを巡らす。



 ふと、気付くことがあった。



「沙耶斗か……」



 先ほど、相続人は一太しかいない、と未優に答えたが、もしも一太も死亡したとすれば、代襲相続によって、沙耶斗も相続人になりうるのである。



 そして、沙耶斗は、今回の無人島旅行を計画した張本人なのだ。


 考えてみれば、「急な仕事」を理由にドタキャンするということもかなり怪しい。本当は「急な仕事」などなく、一太たちよりも先にこの無人島に来ており、どこかに隠れ、親戚を一人一人殺していったというのは、考えうる話のように思える。



 そのことに気付くや否や、一太は、メビウス館を飛び出した。



「沙耶斗ぉ!!」


 今まで漠然としていた犯人像に、突然色が付いたのである。


 散々探しても見つからなかった「第三者」が今なら見つけられる気がしたのだ。



 一太は沙耶斗の名前を叫びながら、無人島じゅうを駆け回った。まるでかくれんぼで子どもを探す鬼のように。



 しかし、一太の叫びは、メビウス館の建物にぶつかってこだまし、青い海へと沈んでいくだけであった。



 やはりこの無人島に、「第三者」などいないのである。



 一太は、疲労と絶望で、地べたに崩れ落ちると、そのまま動けなくなってしまった。


「読者への挑戦状」を意図してませんが、ここまでが一応「問題編」であり、次話より「解決編」となります。



ここでページをめくる手を止めて考え欲しいことがあるとすれば、誰が犯人か、という以上に、この館の大胆な仕掛けとは何か、ということになるかと思います。


一見すると不可能に見える安曇殺しも月奈殺しも、メビウス館の仕掛けさえ理解できれば、推理可能なものです。




ヒントは「シャンデリア」ですかね。廊下の割れたシャンデリアが、本作のすべてを支えています。


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