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メビウス館の殺人  作者: 菱川あいず
止まらない殺人
21/30

自衛

 一体誰が何のためにこのようなことをしているのか。


 百歩譲って、安曇と月奈を同時に恨んでいる人物がいるとする。



 だとしても、なぜ、このように奇怪な殺し方をするのか。



 安曇が死んでいた客室は、完全に密室であった。


 そして、月奈の死んでいた客室だって、一太と幹康が見張っていたという意味では、「密室」なのである。


 なぜ密室である必要があるのか。ここは警察の立ち入ることのない孤島なのである。一体何のためにそのような細工が必要だというのか。


 何のためのバツマークなのか。



 そして、なぜ、安曇と月奈の死体を焼却炉で燃やす必要があるのか。



 証拠隠滅のため、というよりは、一太には、単にそこに焼却炉があり、そこに死体があるから燃やしているようにしか見えなかった。


 あまりにも奇怪である。


 人間の所業とは思えない。



——そうか。これは人間ではない妖怪の所業なのか。

 単に人間を困らせ、揶揄うために妖怪が仕組んだのが、この連続殺人ということなのか。その方が「辻褄」が合う。


 そして、その妖怪の正体は、間違いなく、広間に置かれた「メビウスの輪」であり、この館そのものである。犯人は、「メビウス館」なのだ。



 そして、メビウス館は、必ずしや次の被害者を欲している。




 客室のベッドの中で、一太は腕時計を確認する。


 時刻は23時を回っていた。


 さあ、メビウス館よ。次は一体誰を殺そうというのか。未優か、幹康か、それとも一太か。


 もはやこの館「による」連続殺人には、法則性もなければ論理もない。


 それはすなわち、一太が自衛をする方法もないということである。

 普通に考えれば、一太がチェーンを掛けた状態で客室に閉じこもってさえいれば、一太が殺されることはありえない。しかし、その「普通」すら、この場面では通用しない。



——いや、冷静になれ。



 一太は大きく首を振る。


 ここが現実世界であり、夢の世界でない以上は、館が人を殺すなどということはありえない。


 安曇と月奈が自殺でない限りは、間違いなく犯人がいて、それは間違いなく人間なのである。



 そして、人間である以上、物理法則を無視することはできない。

 たとえば、今、チェーンを掛けて閉じこもっている一太を、チェーンを掛けたままの状態で殺すことなどできないのである。



 何かトリックがあるはずなのだ。


 安曇の場合にも、月奈の場合にも。



 では、犯人は一体誰だというのか。


 まず、一太は犯人ではない。

 過去に精神を病んだことなども一切なく、二重人格や夢遊病という可能性も全くない。



 犯人は、未優か、幹康か、それとも無人島に隠れている第三者か、ということになる。



 安曇殺しは、完全なる密室であり、少なくとも一太の考えが及ぶ範囲では、誰も実行することはできないものであるから、一旦措いておく。


 月奈殺しに絞って考えよう。


 未優が犯人という可能性は、正直、なかなか考えにくいと思う。

 性格の面でもそうだし、死体を焼却炉まで運べるだけの体力があるかという点でもそうだが、さらに月奈殺しに関しては、未優には完璧なアリバイがある。

 未優がいた客室は、一太か幹康のいずれかに常時見張られていたのである。


 そして、無人島に隠れている第三者の場合であるが、そもそも無人島内には、一太が探した限りでは隠れるようなスペースなどないのだが、それを措いておくとしても、やはり月奈は殺せない。

 月奈がいた客室は、やはり一太か幹康のいずれかに常時見張られていたのだから。



 とすると、月奈を殺せる可能性があるのは、幹康だけ、もしくは、夫婦の共犯ということになるが、やはりその可能性も薄いように思える。

 果たして一太が外で用を足していた1分か2分の間に、月奈の部屋に移動し、月奈の首を絞めて殺すことなどできるのだろうか。

 首に引っかき傷があることからしても、月奈はそれなりに抵抗しているはずである。シャンデリアという障害もある。

 百歩譲って物理的にはギリギリ可能だったとしても、一太がいつ戻って来るかどうか分からず、また、月奈がどの程度反抗するかどうかも分からない状況で、そのような早業殺人をしようと考えるとは思えない。

 それはあまりにも危険な綱渡りである。


 犯人候補としては、幹康が一番怪しいことにはなるが、かといって本当に幹康が犯人とも思えないのである。



 結局、一太がいくら考えても、答えが出るようには思えない。



 そうである以上は、やはり可能な限りの自衛をするほかないのだ。



 一太は、ベッドで横たわりつつも、決して眠ってしまうことがないよう、神経を尖らせた。


 このまま朝までずっと起き続けてやる。何が起きてもチェーンロックは絶対に外さずに。


今日の24時に完結予定です。


なお、21時に2話、22時に1話、23時に3話、24時に2話(最終話)をすでに投稿予約しています。


21時の2話で「問題編」が終わり、22時の1話で犯人が分かり、23時の3話でトリックが分かります。


そして、24時の2話で「動機」と、創作内創作の意味が分かります。


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