プロローグ
人を殺してまで得たいものとは、一体なんだろうか。
金か、それとも快楽か。
私は、殺人者自体も1人の人間である以上は、同じく1人の人間である他者を殺めることには、そうせざるを得なかった事情が必要だと考えている。
言い換えれば、殺人の目的は、殺人でないと得られない何かではないといけないと思っている。
だから、金のために人を殺すというのは、正しくないと思う。金は、人を殺さなくても手に入るものだ。稼いでもいいし、貯蓄しても良い。それが難しければ、殺さずに奪えばいい。
快楽についても同様だろう。
今の時代、快楽はすべて金で買えるのだ。
しかし、私には、人を殺さなければ得られないものがある。
ゆえに、私は、親戚の殺害を計画した。
たしかに私は親戚との折り合いが悪い。幼少期から要領が悪く、愚直な私のことを、彼らは見下していた。
大人になっても、彼らは生涯独身を通している自分のことを「結婚できない」落伍者として扱い、私が財を成すようになってからも、決して私の功績を認めようとはしなかった。
要するに、彼らは皆私のことを嫌っていたのである。
私も彼らのことを嫌っていた。
いや、恨んでいた、と言っても差し支えはない。
もっとも、それは親戚の殺害を思い立った動機ではない。
私が彼らのことを恨んでいる以上、彼らを殺しても構わない、とは思ったが、それゆえに彼らを殺したい、と思ったわけではない。その程度のことは殺人の動機たり得ない。
私が彼らを殺したいと思ったのは、憂さ晴らしなんかよりももっと重要で、私にとってのっぴきならない事情によるものだった。私は、彼らを殺さなければ、それを得ることができないのである。
私は彼らを殺害するために、入念な準備を行なった。
その最たるものが、あの館だろう。
私は、彼らを殺すためだけに、金に糸目を付けず、あの館を作らせた。ただの館ではない。
あまりにも奇抜で大胆な「仕掛け」が、あの館には施してある。
私は、あの館で、館にいる親戚全員を殺すのだ。
誰にもトリックがバレないようにして。
それにより、私は望んだすべてを手に入れるのである。