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霧の庭 - 0 -
山あいに潜む盆地にはいつも霧が溜まっていて、一歩踏み入れれば足元すら霞む程視界が悪かった。その上足場はどこも湿気でぬかるんでいて、霧のせいで迷うこともあり、誰もその霧の中に行く人はいなかった。
というのに、霧の真ん中にぽつんと明かりがひとつ灯っていた。
周囲の丘の一つに、盆地を見下ろすように町があった。その町からは、そのぽつんとある明かりも一緒に見下ろすことはできたが、それが一体何なのかは霧のせいでよく見えない。
一人の旅人がその光を指差して聞いた。
「あそこには何かあるの?」
問われた人々は皆首を傾げて「さあ、何もないと思うけど」と答える。
「何もないのに明かりがついているの。いつから?」
「どうだろうなあ。十日くらい前じゃないかね。少なくとも一ヶ月前にはあんなものなかったよ。だけど、誰かが住んでるとも思えんけどな。あの霧の海には本当に何もないから」
「そうらしいね。毒キノコに脆い木々ばかりって聞いた」
「ま、そういうことだ」
それが町の人々の答えだ。
昼間でも薄ぼんやりと光っている霧を眺めて、旅人は「ふうん」と呟いた。