留音ちゃん、寝てる場合じゃない
留音が良い夢を見てる裏の現実世界では射撃無効のバリアを持った侵略者が地球を支配せんとしていた。
「ふぇ~っ、留音さんが全然起きませんよぉ~っ」
真凛がピューピューとビーム弾を街に撃ちまくっているKAIJU的な巨大生物を窓の向こうに見据えながら、ベッドで良い顔をして眠りこけっている留音を揺すって起こそうとしている。
「留音さんたら……せっかくあなたにピッタリの格闘弱点のレアモンスが現れたというのに……衣玖さん、何か方法はありませんの?あなた曲がりなりにも天才なんでしょう?何か都合よく叩き起こす装置みたいなのあるんじゃありません?」
西香が面倒臭そうな表情でそう言うが、衣玖苦々しくこう言った。
「難しいわね……これは明らかに夢見心地現実化症候群睡眠現象だわ……私の開発するマシンで起こすことは出来るかもしれないけど、それはルーの心を無理やりこじ開ける行為にほかならない……もしもその方法で起こしたら、ルーは一生今夢に見ている何かに興味を持てなくなるわ」
衣玖はその症状をかつて文献で読んだことがあった。自分の中に内包された願いを夢の中で叶え、そのまま現実に帰ってこられなくなってしまう可能性のある奇病だ。そしてその発症には心が深く関係している事も知っている。
「じゃ、じゃあ留音さんがもしもイケメンばかり出てくる夢を見ていたらどうなるんですかぁ……?」
「留音さんがイケメン?誰得ですの?」
西香は何の悪気もなくそう言っているが、本作の世界観的には全くを持って正論である。
「そうね……ルーがそんな夢見てたらキモくてオエッてなっちゃうけど、もし仮に見ているところを起こしたら……きっと今後の生活で一生イケメンに反応しなくなるわね」
「何一つ問題ありませんわね。起こしましょう」やっぱり正論だった。
「えーっ、でも何の夢見てるかわかりませんし、かわいそうですよぅ。それよりいい方法があります!」
真凛の提案に、衣玖が「なんなの?」と首をかしげる。すると真凛はむふんと鼻を高くするような感じで言った。
「ふふふ、女の子なら絶対に目が覚めるという噂の……名付けて!王子様のキスで目覚まし大作戦です!」
西香はそれについて興味深そうに訊ねた。
「それってどんな作戦なんですの?」
「何って西香、王子様のキスで起こそうって作戦でしょ馬鹿」
「え、えーっ!衣玖さん、どうして説明もしてないのに今わたしが考えた作戦をわかったんですかぁ!?」
「答えないわよ」
「でもそんなので起きる人なんて存在しますの?もし仮にいるとしたらスイーツ脳のバカ女くr」
「ちょっとやめて、色々怖いから」
「でもまぁ……確かに留音さんですからね……探す王子様は筋肉モリモリマッチョマンじゃないとダメかなぁ……」
数秒ほど考える間を持って、冷静にキス程度で目覚めるわけないなと考えついた彼女たちは話題をもとに戻すことにした。怪獣の起こす騒音はなおも響き続けている。
「しかし……外が大変ね」
衣玖が窓の向こうを遠く見る。そこには怪獣が相変わらずビームをばらまきながら国防軍の戦闘機を破壊しまくっている光景がある。
『ぎゃおー!がぴー!びびびびび!』
怪獣の咆哮はここまで届き、つけていたラジオではレポーターが命がけの報道をしている様子が聞こえてくる。
『世界の終わりです。謎の大型生物はバリアのような空間の歪曲により現代兵器の一切を無効化しています。この放送をお聞きの方はとにかく遠くへ行き、なんとか生き延びてください。もう誰かの支援も、何も望めないと思って行動してください。政府は既に瓦解し、全ての国は崩壊します。格闘最強の銀河の救世主でも現れない限り、もう我々は終わりです。とにかくあの生物から遠ざかってください。繰り返します……』
それがずんずんとみんなの家に近づいて来ており、真凛以外の少女たちは次第に焦りを増して行っている。真凛はといえばこんな具合だった。
「あの、衣玖さん、ちょっと怪獣が近づいてきてうるさくなってきたんですけど、もうわたしアレ消しちゃってもいいですか?」
基本的に真凛は射撃バリアとかそんなの関係なく惑星やら銀河やら破壊出来るため、ちょっとウザいな程度に怪獣を眺めていた。だがそれを、衣玖は付き合いの長い留音のために制する。
「ダメよ!たまにはルーに花をもたせてあげないと。こんなゴリラ女でも心は乙女なところあるの。メンタルが突然ガラスになったりするの。真凛があっさり倒せるとしても、ルーのために残しておかないと起きた時にめんどくさい目に合うのは私たちなんだから」
「でもうるさいんだよなぁアレ……あぁ……家が揺れたらホコリが……はぁ……うるさいなぁ……早くぶち○したい……」
「い、衣玖さん。真凛さんのストレスゲージにも気を配ってくださいな……」
「っく……ルー!いい加減に起きるの!!早くあのでかいのをあなたが倒さないと、真凛に地球が破壊されるわ!」
全然別のところで迎える地球のピンチ。
「ぐーzzz v*^^*v」
でもやっぱり留音は起きなかった。
ほぼゲスト出演状態の彼女らの活躍は本編で!
読んでいただいてありがとうございました!