表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

留音ちゃん、覚悟を決める

 自分のせいで大惨事を起こしてしまったような錯覚に見舞われながら、留音は一人街へ繰り出していた。お詫びに何か買って帰ろうとしたまではいいが、男に対する贈り物を選んだ経験など無く、結局手ぶらで帰る最中、チンケ男に絡まれてしまう。


「ひゃっはー!姉ちゃん色っぺぇなー!おいらたちと遊んでおくれよーうひーっひっひ!!」


 あぁメンドクセぇ……無視して歩き続ける留音にしつこく纏わりつくチンケたち。仕方ないから蹴散らしてやるかと考えた留音だが、フェルディナントによれば自分の格闘スキルはここでは役に立たない可能性がある。面倒な事にならないように無視して歩こうと思った頃に、背後から声が響く。


「待たれいッ!拙者が相手になろう!」


 チンケの向こうからした声。だるそうに向き直った留音の顎が外れる。もう大体予想通りではあるが、とても西香に似てい……いや全く似ていない。カリスマしか感じないその風体から、CVは中村悠○か小○大輔的な声がしている。


「このサカノスケ、あなたの為に馳せ参じた……。チンケ共、その人に触ることは許さぬ」


 ポニーテールのように髪を結った西香らしき西香と全く違う男は、その場から「とぅッ!!!」と大ジャンプするとチンケ共を通り越して留音の隣に着地、チンケ共に向き直して留音を守るように前に出て言った。


「留音殿……ここは拙者が。……なに、心配はありません、あなたは下がっていてくだされ」


 大きく見える背中が語る。留音は複雑怪奇な表情を浮かべるだけで何も言えなかった。


「おうおう!お熱いこって!先生!やっちまってくだせぇ!!」


「あじぇんどぅぁー!」


 チンケの背後から人語も話せないような巨体のブサイクが出てきた。


「貴様は……ブス野中ブス郎太……!よかろう、拙者の因縁、この場で断ち切らせてもらおう……」


 留音の前ではなんだかよくわからないノリで、よくわからない展開が繰り広げられている。とりあえずサカノスケがバビュンと周りのチンケを一瞬で打ち倒し、デカいのと一騎打ちになった。


「っく……流石のブス郎太……ちっぽけな自分を隠すための謎の意識の高さで近づくだけでも辛い、そして単純に臭い……!だが、拙者は!」


「こんせんそぁぁす!いんせんちぁあぶ!」


 巨体が謎の言葉を発しながら突進をしてくるのを見るなり、サカノスケは剣に闘気を纏い、同じように突進する。


「拙者は留音殿と生きるッ!!愛の剣、受けるがいい!!」


 ザッパァァ!競り勝ったサカノスケが敵を切り裂く音が響く。臭い意識高い系はバーティカルにブラッドがアウトプットし、サカノスケの想定した結果に死んだ(コミットした)


「っぐ……」


 サカノスケが疲労に膝をつく。空気を読んだ留音は無視して帰るのも悪いかなと一応「大丈夫か?大丈夫なんだろうけど」と上辺だけ心配してみせた。するとサカノスケは懐から何かを包んだ布を取り出し、丁寧に中身を留音に見せた。


「留音殿……拙者はあなたにこれを渡したくて……千年に一本しか咲かないと言われる彩虹西花、あなたのために地獄を通り、冥界の片隅より探して参りました。……これでやっと真の男になれる」


 決闘に勝利し、ただ一本の花を好きな相手に届けるために獄門だって通る、それこそ真のイケメン。……その花の放つ七色の輝きと戦いを制した男性ホルモン垂れ流しの勇ましい顔に留音は少しだけ頬を染めて目を逸らすのだった。


 それから疲労で倒れそうなサカノスケに肩を貸しながら家に帰る。みんなの看病の甲斐があってサカノスケはすぐに良くなり、共同生活も何日か経った。


 みんなは留音がいるだけで世界が明るいと幸せそうだったが、留音はひどく疲れていた。みんなの愛が重い。自己犠牲が行きすぎてて見てるのも辛い。だからもう早急にこの世界を破壊したいと考えている。


 じゃあもう強行策しかないなと、真夜中にリビングに立ち、片っ端から物を投げ捨てて散らかしてみた。


 ぱりん、がしゃん、ばたん、がつん、めこめこ、騒がしく散らかしていると他のみんなの目も覚めるというもの。


「どうしたんだ、留音さん!」


「ルー姉ちゃん……何してるの!?」


「留音殿……!」


 起きてきたイケメン四人衆は口々に留音を心配していた。


「いやぁちょっと、もう割と色々辛い。だから世界を壊して終わりにしたいなって思って……ほらマリオ、これ見ろよ」


 雑誌の一ページをビリビリに割いてポイ。真凛だったらこの状況を見れば本が落ちる前に世界が消えてる。


「っ、留音さん……」


 マリオのトーンが落ちる。お、もう少しか?留音はダメ押しに机の上に裸足で乗ったり、ティッシュを何枚か抜き取って千切りながらその辺にばら撒いたりしてみた。


 ゆっくり近づいてきたマリオ。やっぱり怖いけど、怒らせて世界を終わらせなければこの世界から脱出できないのだ、やるしかない。でも……。


「留音さん!」


 マリオはガバッと留音に抱きついた。愛情増し増し、優しい抱擁で。


「ごめんなさい留音さん。世界の終わりを望むなんて、俺はあなたの悩みに気づく事ができなかった……こんなことをさせてしまったのはきっと俺のせいですね……気の済むまでやってください。あなたが何をしようと、俺はあなたの味方です!もうあなたを外の世界には行かせない……俺が一生守る!」


「ひ、ひえぇ~」


 マリオは後悔に後悔を重ね、悔し涙まで流すように監禁宣言をした。でもその抱擁は暖かく、留音を世界のすべてから守るような心を込めている。


 続いて駆け寄るイクヤもガバッと抱きつき、潤んだ瞳でこう言った。


「ぼ、僕も!ルー姉ちゃん、僕がいつも好き勝手するから嫌だったんだよね?僕もっと大人になる!それでルー姉ちゃんにふさわしい男になるんだ!!」


 そしてサカノスケは歩いて近づき、片腕だけを留音の首後ろに回し、頭をポンポンと優しく撫でる。


「……それを言うなら拙者だって悪かったと思っている……。長いこと留守にして、みんなにも心配をかけて……留音殿、拙者はもうあなたの側を一時とて離れません。あなたの悩み、悲しみ……全て拙者が受け止めましょう」


 もう一人のあの彼もしっかり留音の手を握り、こくんと頷く。


「俺は」「僕は」「拙者は」

『貴女のためなら命すら惜しくない』


「ひぃ」


 結局……マリオを怒らせることはできなかった。もうここまで真剣に言われると留音も折れそうになる。



 一ヶ月後。出来ることを片っ端から試してみたが、みんなの愛の深さを知るばかりで進展はなかった。


 例えば特製卵かけ御飯にわざと醤油をかけなかった事がある。みんなを試したのだ。本当の愛であれば間違いを指摘すると思って。だが彼らの言葉は……。


「美味しいよ、留音さん」「うん!こんなに美味しいTKG初めてだ!」「素朴な味わいが身にしみますな」


 ありえない、口からでまかせの上辺だけの言葉だ。留音も醤油のない卵かけ御飯を食べた事があるが、あれは不安になる味をしている。後でお腹痛くならないかなーとか考える感じの、食物としては致命的な不安を覚えてしまうものだ。


「なんでだよ、みんな……醤油が入ってないんだぞ……なんか不安になるだろ?!そんなの生で溶いて食ってるだけだし、しかも白飯のせいでもっと味が薄れて……変な気を使うなよっ、自分で醤油垂らして食えばいいじゃないかっ!」


 留音は不安だった。自分が積み重ねてきた卵かけ御飯理論を否定されたようで。だってもし醤油をかけなくても卵かけ御飯が美味いならそれは自分が頑なに守ってきた醤油をご飯の円周の半分地点に合わせて一周半理論は無意味となる……なんて恐ろしい事だろう。将来卵かけ御飯本を出してもいいなと漠然と考えていた留音には考えたくない事だ。


 だがそんな留音の心配を察したのだろうイケメンたちが、爽やかにそれぞれの思いを紡いだ。


「留音さん、それは違います。俺たちはあなたの用意してくれたものならなんだって大好物になるんです」


「そう、例え味気ない卵かけ御飯だって、ルー姉ちゃんの体温を経由した愛情のこもった料理」


「そうです、インスタントラーメンにお湯を入れずに砕いたおやつだって、留音殿が教えてくれなければ拙者たちは知る事もなかった……あなたの手から生まれる奇跡を拙者たちは特等席で堪能できる」


 そんな事を澄んだ瞳で言われては、留音はやれやれと首を振った。


「みんな……わかった。あたしの負けだ……ほら、お椀だしな、もっと美味しくしてやるからさ」


 そうして留音はみんなの愛の前に折れた。醤油をぴゃーっときっかり一周半、垂らす。実際はやる場合これだと塩分多すぎかもしれないので、減塩醤油を使うなり、体調に気をつけよう。


「でもさ、嫌なもんは嫌だって言っていいんだぞ。あたしは醤油のない卵かけ御飯なんてごめんだけどな」


「はは、留音さんの出すものに嫌なものなんてありませんよ。言われれば毒だって食べてみせる」


「うん。もしルー姉ちゃんがカラスは白いといえば、僕は命を賭して世界中のカラスを白く染め上げるからねっ」


「拙者の世界の中心点はあなたです。危険に飛び込めというなら喜んで身を灰にしましょう」


「そう、だって俺は」「僕は」「拙者は」


 段取りしてたの?ってくらい綺麗に一人ずつ留音を見つめる。


『貴女のためなら命すら惜しくない』

 

 留音はその言葉に気持ちのいい微笑みを浮かべる。そして逡巡か何かの間をあけた後、「ふっ」と何かを決めたように笑い、それから清々しい声でこう言った。


「……よし、もうわかった。もうあたしの我慢も限界だわ」


 手をパン、と叩いてみんなにしっかり聞くことを促し、続ける。


「もうこうしよう。もう隔日交代制でみんな結婚しよう。もうダメだ、もうあたし自身まんざらでもなくなってきちゃったから。もういいよ元の世界とか。もうあたしここで幸せになるわ。なんだよ射撃バリアってバカじゃねーの?」


 こうして留音は隔日交代制でイケメン四人と婚約を果たした事で幸せな人生をまっとうし、それぞれの旦那と二人ずつ、八人の美男美女の子供をもうけ、天寿の限りに命の輝きを謳歌したのだった。みんな文句は言わなかったのか?言うわけがない。真のイケメンである彼らは留音の決定を全て尊重し、その結果の向こうで彼女の幸せのための行動をするのだ。それが例え隔日交代の多夫一妻制だとしても。


 ……こうして留音は現実化した心象世界に取り残され、その一生で元の友達と再会する事は無かった。でもめでたしめでたし。

この話のコンセプトはホラーでした。


このシリーズは他にも他の子たちの活躍が見られる魔法少女になっちゃう話や留音ちゃんが一本の頭髪から殺人犯を見つけ出す本格(嘘)推理モノなど、疲れたあなたに別の疲れを提供出来る話があったりなかったりします。


ポイントやブックマークなどいただけたらとても励みになります!


ここまで読んでいただきありがとうございました!


ここで留音ちゃん編は完結ですが、もう一遍続く予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ