留音ちゃん、世界の真相を知る
同居人が男になってた世界に迷い込んだ留音が衝撃の真実を知る……!
「一体なんなんだ、全く……!」
一人でおかしな世界に迷い込んだ留音は悪態付きながら、流石に下着に近い姿で男どもの前にいられないとなけなしの恥じらいを見せ、自分の部屋で私服にこそこそ着替えていた。普段ならトイレの扉だってちゃんと閉めてない事のある留音だが、さすがにきっちり閉めている。
すると部屋の床に魔法陣が浮かび上がり、そこから光柱が浮かび上がった。驚き疲れていた留音の反応は「うわぁ……」という感じではあったが。
その光が止むにつれて、中になにかのシルエットが浮かび上がっていく。
「きゅきゅきゅー!」
小動物のイタチやカワウソのようなシルエットは元気にそう鳴いて登場した。留音には聞き覚えのある声だ。
「お、お前はっ!いつかどこかで見たことがあるような気がする謎の魔法生物!」
そう、それはどこかの回で登場したかもしれない魔法生物のフェルディナント君だった。人を魔法少女にしたり何かしら使命を課したりする迷惑小動物だ。本人たちはノリノリだったが、とりあえず極たまに出てくるので気になった方は他の話をチェックしてみよう!(宣伝)
「きゅきゅー!留音ちゃん!ボクは元の世界からの使者として遣わされたっキュ!元の世界は大変っキュ!射撃カットバリアを持った敵が突如地球を侵略し、世界は格闘値参照攻撃を持つ闘士を求めてるんだッキュ!つまりは留音ちゃんをっ!……でもそんな時に限って留音ちゃんは覚めない夢を見ているんだっキュ。だからその目覚め方を教えるために、ボクは留音ちゃんの元に飛んできたんだッキュ!でも時間が無いキュ……ボクがここにいられるのはもうあと少し。単刀直入に話すっキュ!」
フェルディナントは魔法陣の中でふよふよと浮遊しながら身振り手振りを使ってコミカルに一生懸命説明している。
「お、おぅ。よくわからんが、元に戻る方法があるんなら頼む!」
「それにはまずこの世界が何故生まれたか、それを話す必要があるっキュ。端的に言うなら、この世界を生んだのは紛れもなく留音ちゃん自身だっキュ……」
フェルディナントはもじもじしながら上目遣いにそう言った。ちなみにこの子にも人間の姿があり、とっても可愛い女児アニメに出てくる王子様になる、という設定がある。乙女ゲーだったら2周目以降で攻略出来るようになるタイプの隠しキャラみたいなヤツだ。
「な、なんだって?!あ、あたしがこんな……あんないい男共に……いや、マッスルの足らないなよっとした男どもに囲まれることを夢見たとでも言うのかよ!?」
「それは側面っキュね。でもそこに至るまでの理由はもっと深く暗いんだッキュ……。留音ちゃん、現実に不満はなかったっキュか?」
「えっ……?いや、そんな、不満なんて……」
パッと思い浮かぶ心当たりは無い。そのはずなのに言い淀んでしまう留音。それは自分も認知しない心の奥に、常に抱えている何かがあるという事に他ならなかった。フェルディナントはそれを同情を持ってこう指摘した。
「あったはずッキュ。例えばそう……格闘最強の設定を持つはずなのに、一度も格闘最強という設定が活かされたことが無いじゃないか、というような……キュ」
留音は一瞬、心臓をわしづかみにされたような思いを感じる。そう、まるで噛ませ犬のように負け続けているのだ。本当は強いはずなのにである。地球上の全ての兵器を過去にするほど、留音の身一つが宇宙クラスの戦略兵器であるにも関わらず、同居するバカどものせいで活かされたことがまったくと言っていいほどに思い当たらない。
「うっ……あっ……そ、それは……」
だから事実だ。留音は心に深い闇を抱えていたのだ。格闘をかます敵全てがゴーストのようだと感じていた。相手がノーマルタイプでさえあれば、と。
「今回の件はそれの具現化っキュ。いろんな要因が重なって、留音ちゃんは自分の格闘スキルが役に立てる未来を願い、その想いは宇宙から敵を呼んだ……そう、カット率100%の射撃バリア持ちの大怪獣っキュ」
「射撃バリアを持つ敵……格闘属性が特効になるボスってわけだな……」
「そうだッキュ。それが留音ちゃんが現実にいる時に来てくれればよかった。でも留音ちゃんは、同時にとっても女の子らしい事もしてみたかった。日頃から可愛さを求める反面、自分の男らし、いや、漢らしさから吹っ切れず……」
「漢に言い直す必要ある?」
「そして自分が可愛くなれる世界をも同時に願っていたっキュ。そうして生まれたのがこの世界なんだっキュ。留音ちゃんはか弱く、誰にも格闘で勝つことは出来ないかもしれないっキュ。でもこれはただの夢じゃないっキュ。留音ちゃんの中に内包された心宇宙とでも言うべき心象世界。留音ちゃんがもしも心から信じてしまうと、こっちは本当になってしまうかもしれないっキュ……」
「そ、そうなのか。だからあたしはあんなにマッスルパワーを発揮出来なかったんだな……それにしてもシリアスなのか馬鹿言ってんのかわからねぇテンションで言われると困るぜ……」
「だからとにかく留音ちゃんはここから目覚める必要があるっキュ。そして現実世界で受けている襲撃を、留音ちゃんの格闘を持って排除しなければならないっキュ。でないと留音ちゃんの連続行動と再攻撃のスキルが泣くっきゅ」
「……わかった。それで、どうやってここから出ればいい?その魔法陣が出口になってるのかい?」
「いいや。必要なのは留音ちゃんが女としての幸せを捨てる意思っキュ」
「それは普通にすげー嫌なんだけど」
「安心するっキュ。ひとまずの意思だけっキュ。現実世界で告白されてもあんまりときめかなくなるかもしれないっキュけど、結婚しようと思えば多分出来ると思うっキュ。結婚生活が楽しいものになるかはわからないっキュけど」
「さっきからいちいち引っかかるぞ。まぁいい、具体的に方法を教えてくれ」
「キュキュ……簡単に言えば、この世界の全てを破壊し尽くせばいいんだッキュ。そうしたら留音ちゃんの意思は覚醒し、現実世界に戻る事ができるっキュ。そうしたらあとは留音ちゃんの望んだ格闘必須のバトルフィールド突入っキュ~」
「なんかすげぇ複雑だけど……とりあえずわかった。ありがとな、ちっちゃいの」
「いいんだっキュ。今度は異世界モノかなんかの話で会えることがあればっキュ~」
そうしてフェルディナントは魔法陣の中心に潜るように消えていき、魔法陣は跡形もなく消失した。
「はぁ……女の幸せか格闘か。まぁあっちにはあいつらいるし、こっちの男どもは知らない奴らばっかりだし……仕方ないからあいつらを助けてやることにするか……。となりゃ頼れるのは真凛にそっくりなマリオだな……あいつも世界くらい破壊できそうなオーラあるし」
こうして留音の世界を破壊するための孤独な戦いが始まる!




