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留音ちゃん、目覚めたらなんか変

というわけで、謎のシリーズ【五人少女シリーズ】です。

キャラの紹介はほとんどいらないと思いますので、主人公の留音が「男勝りで超強い格闘家の美少女」程度にとどめておきます。

 梅雨寒の朝。布団をかけていたいほどの気温でありながら、ベッドの方は蒸れて汗をかくというアンバランスな気温にちょっとした不快感を覚えながら、留音はゆっくりと目を覚ました。いつも抱いて寝ているぬいぐるみを力強く一度抱きしめ、それから自分の方を向いたぬいぐるみの顔に優しくキスをして上体を起こす。


 これが男勝りで長身で、とにかく筋肉のための運動ホリックな留音がしていることが同居人たちにバレたらきっと笑われるだろうが、留音はそのぬいぐるみが大好きで優しいキスは毎日の日課のようなものだ。


 時計を見れば今はもう朝の10時を回っている。いつもは7時か8時には起きてランニングをしている留音は珍しく寝坊をしたらしい。留音は軽く「やっちゃったか」と考えながらも、夜のトレーニングを増やせばいいかと眠気眼をこすりながらリビングに向かうことにした。


 廊下を歩き、階段を降りたらすぐにリビングに入るためのドアがある。道すがら、と言っても自室からリビングまで寝ぼけた足取りであろうと1分もかからない距離ではあるのだが、その日のしっとりとした空気感に「今日はなんか静かだなぁ」と考えていた。


 それもそうだろう、いつもだったらリビングから聞こえてくるはずのみんなの生活音が入り混じった音がなくて、料理をする音しか聞こえてこないからだ。料理をするのはこの家では誰か決まっている。家事が大好きで朗らかで可愛い感じの皮をかぶった狂気の惑星破壊少女、真凛しかいない。


「おぁよーまりーん」


 留音はリビングに入るとキッチンの方に声をそんな挨拶をした。欠伸をしながらいつものようにダボッとした服の下に手を突っ込んで、ポリポリと引き締まったくびれのあるお腹を掻きながらテレビの前のソファにボフッと沈み込んでテレビをつけると、適当な番組を眺め始めた。するとキッチンから真凛が顔を出して留音に挨拶を返した。


「あぁ、おはようございます。留音さん」

 

 彼女はいつも敬語である。怒ったときも敬語で、それは大層恐ろしく、酷いときはじたんだを踏んだり拳を地球に突き立ててこの世の全てを破壊することがある。そんな真凛だが、怒らせなければ基本的に朗らかで可愛らしいのだ。


「うん……あァ!?」


 だが留音は真凛のその言葉に飛び跳ねる勢いでソファーごと振り向いた。なぜかと言えば、真凛の声が超イケボだったからである。それはもう、CV櫻井孝○というレベルのキレイな正統派イケメンボイスを聞かせていた。留音の眼の前にはエプロンをしておたまを持ってミトンを着用した大層なイケメンがニコリと微笑みながら立っている。


「どらっ、だろだお前!?ウェッ!ゲホゲホ!」


 焦りでむせながら留音はそう言った。男勝りな口調は同居人の彼女たちに「女の中の男」だとか「男だてらに女勝り」だとか言われているが。


「嫌だなぁ。俺ですよ、マリオです」


 やぁ、と微笑みながらミトンをつけていない方の手でピースを作ってみせる。その行動、口調、雰囲気は真凛そのものなのだ。まるで彼女が男になったかのようだと感じる。留音はまた真凛が世界を再生しまちがえたか、それとも後出する天才少女、衣玖のへんてこな開発品に巻き込まれたのかと深刻に考えていると、マリオはトレーを持って近づいてきた。


「さぁ、留音さん、朝ごはんに豚汁出来ましたよ、たんと召し上がれ」


 やたらと低い声で提供されてくるそこにあるのは白飯、お茶、漬物、そしていつもの味噌汁という起き抜けの胃にとても優しそうな和食の朝ごはんが用意された。留音は警戒しながらも、馴染みのある匂いといつもの食卓につき、一口食べてみることにするのだが、確かに真凛がいつも作っていた美味しい味噌汁で間違いなかった。


「味噌汁の味は同じなのに……なんでお前……」


 留音はまん丸の目で味噌汁とそのマリオとかいう男を交互に凝視する。


「ふふ、妙なことをおっしゃいますね留音さん。どうやら寝ぼけているらしい。それじゃあ俺が目を覚まさせてあげますよ」


 やたら低音で発せられるその言葉と同時にマリオは留音に近づくと、彼女の頭を自分の胸板に押し付けるように抱いたのだ。


「ほら、お寝坊さんにはお仕置きだ☆」


「ひっ!ふわああっ!?」


 乙女の悲鳴は留音から。普段男のように振る舞ってはいるが、いざ男を前にしたら腑抜けに他ならない。顔を真赤にして手をジタバタ動かして、離れようとマリオの体を押し返す。


「ふふふ、ダメだよ留音さん。これはお仕置きですから♪」


 クスクスクスと楽しそうに笑うマリオ。だがおかしい、留音は通常時ですら格闘値カンスト済みに加えて切り払いレベル9、インファイト7積み、カウンター、連続攻撃がデフォルトの技能持ちで全技もれなく格闘値参照の最強インファイターである。にも関わらずマリオを振り払えないのだ。マリオの力が留音を大きく上回った怪力というわけでもない。


「な、なんでっ……どどど、どけよぉっ……」


 赤面しながら乙女っぽい事をしている留音を助けたのは小さな影だった。


「ルー姉ちゃん!どうしたの!?あっ、マリオ!お前また抜け駆けしたな!?」


 低身長にやや小生意気そうな少年ボイス、CVで言ったら福○潤とか入野自○的な感じの声がその影から放たれた。短パンから伸びる健康的な足が目に入る。身長はもう、見慣れた衣玖と同じ大きさでピンと来た。その彼に対してマリオが残念そうな声で言う。


「あぁ、見つかっちゃったか。留音さんの独占はお預けですね。やぁおかえりイクヤ。留音さんが起きたよ」


 名前からすれば、妙な表現になるがこれは完全に衣玖の別人だろう。日本語的に意味のわからない表現になるが、間違いなくこれは衣玖とは違う人の衣玖だ。真凛に該当するマリオと同じく、この家にはかつての住人が性転換したのが住み着いているのか、意味がわからない状況が続いている。


「知ってらァ!おはようルー姉ちゃん!僕さっきリフティングを三億回出来たんだ!すごい?」


 だがその口調からすると、衣玖の面影は残っている美少年に天才という性質は残っていないらしいことが伺える。どうやら元々のIQ三億レベルの天才性は彼の運動能力に変わったらしい。インドア派な衣玖とは打って変わってアクティブ美少年に変わっているのだから順当な変化なのだろう。


 マリオの抱擁から解放され、息を整えている留音だったが、イクヤはタタタと駆けて留音に無遠慮に抱きついて無邪気な笑顔を向けてくる。グラマラスな留音からすると自分の胸でイクヤという少年の顔が少し見えない。自分の胸越しに合わせる視線のせいで恥ずかしくなってしまう。


「おいマリオ!ルー姉ちゃんは僕のお嫁さんになる人なんだから!変なことしちゃダメだぞ!知ってるんだからな!お前が地下に変な部屋作ってること!」


 留音が口ごもっていると抱きつくイクヤがそんなことをいい始めた。


「変な部屋とは聞こえが悪いですよ。普段は二階で眠る留音さんの部屋に侵入者でも来たら怖いですから、俺が見守れる部屋を作っているだけです」


「……ルー姉ちゃん、何かあったら僕に言うんだよ?」


 そのやり取りは留音の中にほとんど入ってきていない。呼吸を整え、頭の混乱を抑えてやっとイクヤの腕を自分の腰から取り除く。


「あ、あのさ、ちょっとくっつきすぎだってお前らっ……」


「あっ、ごめんねルー姉ちゃん!僕ルー姉ちゃんと喋れるの嬉しくてついくっついちゃうんだ。ダメだよね、ちゃんとかっこいい男にならないとルー姉ちゃんに釣り合わないもん」


 テヘヘ、と可愛らしく笑うイクヤ。そんなやり取りに戸惑いつくして既に放心状態に等しい留音の視線の中にもう一人、ドアから入ってきた。その彼は優しくニコリと微笑んで手を振ると、遠くから様子を見ている。


 留音はもう、瞬時に理解した。あの子の違う人までいやがるのか!!と。あの子とはつまり、それはもう表現のしようも無いほどの美しさ、女神のような無償の愛の化身であり、宇宙すら統一しうる存在感をもったあの子の事だ。それが男バージョンになって出てきたのだ。全ての人間に好かれるあの子と同一の要素を持ったその彼は完全に留音のどストライクを貫き、留音は頭から沸騰音でも響かせそうなほど顔を真赤にして目をそらした。


 もうこれ以上は耐えられないかもしれない。何かしらの堰が崩壊してしまうような気がしている。顔を真っ赤にしてぜぇぜぇ息をする留音。見知らぬイケメンと美少年が纏わりついてくるとこうなってしまう自分にも衝撃をうけているようだ。


 留音はなんとか気を取り直し、このおかしな世界の真相を探るべく、疲れたようにではあるがこんな質問を投げかけた。


「あの、お前らに核心的な質問をするんだけど……お前ら本当に誰なの?本物の真凛や衣玖やあの子は?ここは男バージョンが出てくる世界なのか?」


 そもそも偽物なのかどうかもわかってはいない状態ではあるが、その問いかけを聞いた三人共が首を傾げている。


「誰だろう?僕にはわからないよ。ルー姉ちゃんの友達?マリオも知らないの?」


「さぁ。俺にもわかりませんよ。女性の名前でしょう?俺は留音さん以外興味ないですから」


 三人はそれぞれ全く心当たりを持っていないようで、留音の言葉にさっぱり見当もつかないという具合だ。留音はマリオのアプローチを聞き逃そうと努め、話題を変えることにした。


「あっ、そういえば西香がいないじゃん。もしかして死んだっ?」


 今の所いつもと同じ状況がまったく無い。もう西香でもいいからお約束を守ってくれ。ちょっとの間でも姿が見えなくなったら死んだと言われる設定守ってくれ。みんなから疎まれる設定が継続しているならきっと誰かが死んだはずだと言うはずだ!


 そんな思いで少し声を弾ませた留音だったが、その名前には男たちはピンと来たらしい、返事はこうだ。


「さいか……ひょっとしてサカノスケの事ですか?彼は今旅に出てますよ。でも留音さん、心配することは無いよ、きっと生きてるからね」


「安心してよルー姉ちゃん!サカノスケは強いんだ!大丈夫さ!」


 相手が完全に西香の西香と別の人だと気づいた留音はがっくりと項垂れる。しかもそこそこ慕われている雰囲気だ。守銭奴な上性格最悪で友達0人の西香ではこんなことにはならない。


「だめだったかぁー……」


 そしてこの意味不明な世界がもう少し続くことを感じ取るのだった。


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