008 伊達にフットサルとかやっていない。
──一週間後の金曜日。
妙は、雪美のワンルームマンションに、招かれていた。
「センパイの部屋、ほんと、汚いっすねぇ」
ジロジロと室内を見回しながら、妙が半ば吐き捨てるような口調で、思ったところを口にする。
「も、申し訳ありません……」
雪美が恐縮ここに極まれり、といった感じで、しゅんと体を縮こまらせる。
「作戦会議の前に、部屋、掃除していいですか?」
「よ、よろしく、お願い致します……」
雪美と妙の上下関係は、すっかりと入れ替わっていた。
テキパキと妙が片付けを終わらせると、ちゃぶ台を挟むようにして二人は向かい合い、作戦会議とやらが始まった。
「いいですか、センパイ。この一週間、アタシは吉永澪という女について、色々と情報収集してきました。好きな食べ物から、住んでいる場所、恋人の有無、現在の精神状況、その他諸々……」
「…………」
「その情報を分析した結果、彼女は非常に落ちやすい状況にあります。はっきり言って、チャンスです、センパイ!」
「っ…………」
雪美はゴクリと喉を鳴らした。
その直後、妙から具体的な作戦が提示され、雪美は関心しながら、只々、黙って頷いた。
流石だ。腹黒い。伊達にフットサルとかやっていない。
「センパイ、決行は週明けの月曜日です!」
「えっ、もう?!」
「もうです! こういうのは勢いが大事なんです」
「はい…………」
「あと、少しでも作戦の成功率をあげるために、野菜をもっと食べて、口臭をなんとかしましょう。お酒もダメです。それから、煙草も禁止です。セブンスターって、センパイはおっさんですか?」
「……はい…………そのようなもので……」
妙は、白く冷たい半眼を、雪美に向け。
「…………告白してきた相手の息が臭いとか、致命的です。百年の恋も覚めます」
「は、はい…………すみません……」
そんなこんなな遣り取りを経由して──
──作戦決行の月曜日が訪れた。